てなずけたポメラニアンはSubで鬼上司でした

有村千代

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第1話 鬼上司とポメラニアン(7)

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 今夜もまた、犬飼は残務処理をするのだろうか。

 周囲にはああだこうだと言いつけておきながら、自分は時間外まで残っていることが多く、部下からしたら悩ましいものがある。羽柴もそう感じていた一人だったのだが、もしかして――と考えだしたら、気が気でなかった。

 自宅へと向けていた足を止め、くるりと方向転換する。終業後のオフィスに戻ってくれば、まだ電気が点いていた。

「犬飼主任っ……しゅ、主任ー!?」

 足を踏み入れるなり、羽柴は素っ頓狂な声を上げる。
 なんとなく予感がしていたのだが、犬飼は昨夜のようにポメラニアンの姿になっていた。

 羽柴が同じ要領で相手をすると、すぐに犬飼は人間へと戻り――そうしてしばらく。

「すまなかった、昨日の今日で……ストレスが発散されないと駄目なんだ」

 オフィスを後にした二人は、連れ立って駅方面へと歩いていた。隣を歩く犬飼は浮かない顔をしている。

「いえ。犬飼さん、今日もストレス溜め込んでいたんですね」
「……この体のことを他人に知られたのは初めてで、どうにも気に病んでしまったらしい」

(あーっ、俺のせいですね! というか――)

 初めて、という言葉に引っかかりを覚えた羽柴は、ワンテンポ遅れて「えっ!」と驚きの声を発した。

「誰にも言ってなかったんですか!?」
「言えないに決まっているだろう。親族以外で知っているのは、羽柴だけだ」
「じゃあ、今までずっと一人で……?」
「しばらく暴れれば、だいたい朝には体が戻っているからな。もう馴れているし、他人の助けなど必要ない」

 案の定というべきか。時間外労働が多かったのも、ポメラニアンの姿になってしまう彼自身の問題だったらしい。
 ただ、まさか誰にも頼らずにいただなんて。犬飼は何でもないことのように言うが、羽柴は胸のあたりがモヤモヤとするのを感じた。

「そんなこと言わないで、ワンちゃんになりそうなときは連絡してくださいよ。そしたら俺、すぐ駆けつけますし」
「何を言っている、『忘れろ』と言ったはずだろ。わざわざ部下に面倒などかけられるか」

 犬飼が困ったような眼差しを向けてくる。

 一方、羽柴は足を止めて、

「忘れられるわけ、ないじゃないですか!」

 思わず声を荒らげた。
 はいそうですか、なんて納得できるわけがない。犬飼の肩を掴むと、勢いのままに思いの丈をぶつける。

「だって……だって、上司があんなに可愛いポメラニアンだとか! 忘れる方が無理ってもんでしょう!?」
「は?」

 犬飼は呆気にとられていたようだったが、羽柴はなおも続けた。

「俺、ワンちゃん大好きなんです。実家でもラブラドール飼ってるんすけど、これがまた可愛くてお利口さんで……あっ、もちろんポメラニアンも好きですよ! あのフワフワな被毛とかもう最高~っていうか」
「羽柴」
「今日なんか、犬飼さんの背後にずっとポメラニアンが見えてて、いちいち愛くるしい顔をするものだから――」
「羽柴!」

 繰り返し名を呼ばれ、羽柴は口をつぐむ。
 犬飼はやんわりと距離をとって、深いため息をついた。

「つまり君は、どうあっても俺に協力したいと?」
「っ、はい! 犬好きってのはさて置くにしても、犬飼さんのこと尊敬してますし、できれば力になりたいです」
「……尊敬か。そうは言うが、としてのさがじゃないのか?」

 犬飼の鋭い指摘に、羽柴は息を呑んだ。
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