恋に臆病な僕らのリスタート ~傷心を癒してくれたのはウリ専の男でした~

有村千代

文字の大きさ
18 / 46

第3話 笑顔の裏にあるもの(4)

しおりを挟む

    ◇

「あ、おはよ。隆之さんっ」
 翌朝、隆之が目を覚ますと、既に起きていたらしいナツと間近で視線が合った。心臓がドキッと音を立て、一瞬のうちに意識が覚醒する。
「……おはよう。もう起きてたのか、起こしてくれてよかったのに」
「せっかく気持ちよさそうに寝てんのに起こすワケないじゃん。今朝は顔色いいね、よく眠れた?」
「ああ、おかげさまで。こんなにもぐっすり眠れたのは久々だ……ナツの方こそ寝苦しくなかったか?」
「ぜーんぜんっ。隆之さんとくっついてるとホッとしてさ、俺も気持ちよく寝ちった」
 ナツがぎゅうぎゅうと抱きついてくる。いつもの明るい調子に、昨夜のことなど嘘のように思えた。
(いや、よそう。あまり詮索するのはよくないだろうし……)
 と、ぼんやりとしていたら、ナツがこちらの顔を覗き込んできた。指で輪っかを作って舌を覗かせつつ、
「朝フェラした方がよかった?」
「っ、それは遠慮しておく」
 イタズラっぽい笑みを浮かべるナツに、隆之はほんのりと顔を赤らめる。このままだと何の気なしに流されてしまいそうだったので、早々とベッドから降りて朝の支度を始めることにした。
「朝メシ作るけど、食べられないものあるか?」
 キッチンに立ち、冷蔵庫の中を確認しながら問いかける。すると、後ろをついてきたナツが元気な声で答えた。
「えっ、隆之さんがご飯作ってくれんの? 俺、なんでも食えるよ!」
「といっても、時間も時間だし大したものじゃないが」
 食事は簡単に済ませることが多いのだが、休日くらいはそれなりのものを食べるようにしている。
 隆之が朝食として用意したのは、フライパンでこんがり焼いたフレンチトーストだった。その他にも作り置きしていたハッシュドポテトをはじめ、レタスとトマトのサラダ、ヨーグルト、コーヒーといった定番メニューが食卓に並ぶ。
 ナツは想像していた以上に喜んでくれて、「美味しい!」とパクパク食べてくれたのが印象的だった。
 そうして朝食を食べたあとは、ゆっくりとテレビを見つつ他愛のない話をし、次第に時間が迫ってきたので店まで送っていくことにした。その道中、ナツはずっとご機嫌だった。
「お泊り、楽しかったねっ」
「そうだな。ナツといると、純粋に楽しいし癒されるよ」
「俺も俺もっ! ね、また遊びに行ってもいい?」
「ああ、もちろん」
 穏やかな空気が流れていて、気づけばあっという間に店の前まで辿り着いていた。
 足を止めたナツは、きょろきょろとあたりを見渡す。頭に被っていたバケットハットを手に取ると、それで隠すようにしながら口づけてきた。
「ごめんね、チューしたくなっちった」
 一瞬の出来事だったが、唇に柔らかな感触が残る。名残惜しそうな表情を見せられ、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
 ナツはハットを被りなおし、再び明るく笑ってみせる。
「今日はここまでだね。送ってくれてありがとっ、またね!」
「あ、ああ。また……」
 裏口に入っていく背中を見送りながらも、隆之は呆然としていた。
 あれも一種の営業テクニックなのだろうか。しかし、それにしてはあまりに自然体すぎるような気もする――そんなふうにドキドキと夢見心地でいたら、ナツと入れ替えに着崩したスーツ姿の男が出てきてギクリとした。
「お、ナツの常連じゃん。まだいたのか」
「ど……どうも。お世話になっています」
 反射的に隆之はぺこりと頭を下げる。いや、ここで「お世話になっています」と返すのもおかしな話ではあるのだが。
 何度か店内で会ったことがあるその男は、どうやらオーナーらしい。名前は確か京極といったはずだ。金髪にサングラス、そして客に対しても高圧的な態度といったらヤクザとしか思えないが、
「……今どき、ヤーさんと繋がりあるような風俗ねェから」
(心を読まれた!?)
 隆之は内心動揺する。もしかしたら顔に出ていたのかもしれない。
 京極は値踏みするような視線を向けてきて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...