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第4.5話 交わらない感情(1)
「すみません、及川さん。こういったお店って女一人じゃ入りづらくて」
「いいよ。こっちだって、下見を口実に定時上がりさせてもらったし」
とある金曜の夜。後輩である安藤に声をかけられ、隆之は接待の下見をともにしていた。
訪れたのは、風情を感じさせる数寄屋造りの割烹料理屋だ。内装は和モダンといったところで、板前のいるカウンター席のほかに、テーブル席や個室も設けられているようだ。
店内の雰囲気を確認し、酒を交わしながら本格的な日本料理に舌鼓をうつ。
仕事の延長とはいえ、異性と二人で食事をするのは久しぶりで少し緊張するのを感じた。
彼女と別れてからもう半年以上が経つ。どうやら結婚したらしいと風の便りに聞いたが、特に何の感情もわかなかった。一生引きずるような勢いだったにも関わらず、薄情というべきか、時間が経てば案外こんなものなのかと拍子抜けしてしまう。
(それも、あの子がいてくれたからか)
せっかくの会食だというのに、ふとナツの顔が思い浮かんで内心で苦笑した。
風俗店など行ったこともなかったし、ましてや男同士。始めのうちは戸惑いもあったが、今ではそれもすっかり薄れ、特別な好意さえ抱いている自覚がある。
だからといって、彼とどうこうなりたいわけではなく、これでも分をわきまえているつもりだ。所詮は金で成り立っているような関係なのだし、と。
ただ、その一方で最近の彼を見ていると――そこまで考えて思考を打ち切る。相手の感情なんて、考えたところでどうしようもない。
(……また言い訳してるな、俺)
隆之は自嘲し、日本酒の入ったグラスを傾けた。本当は単に臆病なだけだろう、と。
店を出ると冷たい夜風が頬を撫でつけ、少し早い冬の到来を感じさせた。
時刻は二十時を回っており、煌びやかな繁華街は大いに賑わいを見せている。まさに《華金》だ。
隆之は安藤と並んで駅に向かう。
その途中、視界の端に見慣れた姿が映って、思わず足が止まってしまった。雑踏に紛れていてもわかる――ナツだ。
隣にいるのは四十代半ばほどの男で、スーツ姿であることからサラリーマンだと推測できる。二人は親しげに談笑しており、隆之は嫌な感情を覚えた。
「どうしました?」安藤が不思議そうにこちらを見てくるが、なんでもないと首を振る。
ナツはというと、男に肩を抱き寄せられるようにして路地裏の方へと歩き去っていった。それを確認しつつ、隆之は安藤の横に並んだ。
(まさか、こんな感情を抱くだなんて……)
胸中にあったのは、まごうことなき嫉妬心だった。
当然、自分以外にもナツを指名する客がいるだろうことは承知していた。が、いざ目の当たりにすると想像以上に堪えるものがあって、我ながら驚く。
客の一人にすぎない自分には、そのような権利などないというのに。知らずのうちに、こんなにも彼に惹かれていたというのだろうか。
「いいよ。こっちだって、下見を口実に定時上がりさせてもらったし」
とある金曜の夜。後輩である安藤に声をかけられ、隆之は接待の下見をともにしていた。
訪れたのは、風情を感じさせる数寄屋造りの割烹料理屋だ。内装は和モダンといったところで、板前のいるカウンター席のほかに、テーブル席や個室も設けられているようだ。
店内の雰囲気を確認し、酒を交わしながら本格的な日本料理に舌鼓をうつ。
仕事の延長とはいえ、異性と二人で食事をするのは久しぶりで少し緊張するのを感じた。
彼女と別れてからもう半年以上が経つ。どうやら結婚したらしいと風の便りに聞いたが、特に何の感情もわかなかった。一生引きずるような勢いだったにも関わらず、薄情というべきか、時間が経てば案外こんなものなのかと拍子抜けしてしまう。
(それも、あの子がいてくれたからか)
せっかくの会食だというのに、ふとナツの顔が思い浮かんで内心で苦笑した。
風俗店など行ったこともなかったし、ましてや男同士。始めのうちは戸惑いもあったが、今ではそれもすっかり薄れ、特別な好意さえ抱いている自覚がある。
だからといって、彼とどうこうなりたいわけではなく、これでも分をわきまえているつもりだ。所詮は金で成り立っているような関係なのだし、と。
ただ、その一方で最近の彼を見ていると――そこまで考えて思考を打ち切る。相手の感情なんて、考えたところでどうしようもない。
(……また言い訳してるな、俺)
隆之は自嘲し、日本酒の入ったグラスを傾けた。本当は単に臆病なだけだろう、と。
店を出ると冷たい夜風が頬を撫でつけ、少し早い冬の到来を感じさせた。
時刻は二十時を回っており、煌びやかな繁華街は大いに賑わいを見せている。まさに《華金》だ。
隆之は安藤と並んで駅に向かう。
その途中、視界の端に見慣れた姿が映って、思わず足が止まってしまった。雑踏に紛れていてもわかる――ナツだ。
隣にいるのは四十代半ばほどの男で、スーツ姿であることからサラリーマンだと推測できる。二人は親しげに談笑しており、隆之は嫌な感情を覚えた。
「どうしました?」安藤が不思議そうにこちらを見てくるが、なんでもないと首を振る。
ナツはというと、男に肩を抱き寄せられるようにして路地裏の方へと歩き去っていった。それを確認しつつ、隆之は安藤の横に並んだ。
(まさか、こんな感情を抱くだなんて……)
胸中にあったのは、まごうことなき嫉妬心だった。
当然、自分以外にもナツを指名する客がいるだろうことは承知していた。が、いざ目の当たりにすると想像以上に堪えるものがあって、我ながら驚く。
客の一人にすぎない自分には、そのような権利などないというのに。知らずのうちに、こんなにも彼に惹かれていたというのだろうか。
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