178 / 484
第一部「ハルコン少年期」
25 帝都に赴く女エルフ_01
しおりを挟む
外で、夕方6時を示す鐘が鳴った。
「さて、……と。食堂のおばさんに頼んで、軽食を用意しようかな」
ハルコンは一人呟くと、居室兼研究室を出て寮の大食堂に向かった。
中に入ると、食堂の席には多くの学生が食事をしたり、仲間ウチで談笑したりしていた。
ハルコンは、いつものように慣れた調子で厨房のドアをノックする。
そのまま進んでいくと、作業エリアの隅っこの棚の上に、いくつもの軽食がトレーに載って並んでいた。
「ハルコン君、持っていくトレーの番号と、サインお願いねっ!」
調理中の厨房の奥から、おばさんが大きな声で話しかけてくるので、「ワカりましたぁ~っ!」とハルコンも大声で応じた。
ここの軽食は、食堂で食べる時間のない学生や職員向けに、特別に用意されたものだ。
元々そんな裏メニューはなかったのだが、ハルコンが厨房にお願いしたところ、他の人もこれは助かるとばかりに利用し始めて今日に至る。
ハルコンのような研究生や職員達は、なかなか食べる時間が取れないため、ホンとありがたいサービスだ。
「今日はどれにするかな?」
ハルコンはざっと見てから、サンドイッチと冷スープ、サラダのセットのトレーを取り、黒板にチョークでサインすると部屋を出た。
食堂を出て廊下を歩いていると、女子寮に続く通路からサリナ姉とミラ、他に何人かの女子グループとすれ違った。
「ハルコン、今日も自分の部屋で食事なの?」
「いや、これは知人に届ける用だよ。後で、食堂で食べるつもり」
ミラが心配そうに訊ねてくるので、ハルコンは笑顔で応じた。
「なら、たまには私達と一緒に食べない? せめて、デザートだけでも、……」
「了解。10分したら戻ってくるから。ミラはサリナ姉さん達と先に食べてて!」
「うん。ワカった!」
そう言って、お互いに笑顔で手を振って別れる。
ちらりと振り返ると、サリナ姉がミラに、「お熱いねぇ、お二人さん!」と言って揶揄っている様子が窺えた。
ミラもまんざらでもなさそうに、少しだけ頬を赤く染めて笑っている。
「ヨシッ、……と」
ハルコンは軽食の載ったトレーを持って、自室に急いだ。
先程、女神様から頂いたスーパーチートスキル「マジックハンド」。
そのスキルを使って、これから隣国にいる女エルフに食事を届けるのだ。
ちゃんと、上手くいくのかなぁ?
とにかく、早くスキルを試してみたいなぁと思い、ワクワクしながら部屋のドアを開けた。
「さて、……と。食堂のおばさんに頼んで、軽食を用意しようかな」
ハルコンは一人呟くと、居室兼研究室を出て寮の大食堂に向かった。
中に入ると、食堂の席には多くの学生が食事をしたり、仲間ウチで談笑したりしていた。
ハルコンは、いつものように慣れた調子で厨房のドアをノックする。
そのまま進んでいくと、作業エリアの隅っこの棚の上に、いくつもの軽食がトレーに載って並んでいた。
「ハルコン君、持っていくトレーの番号と、サインお願いねっ!」
調理中の厨房の奥から、おばさんが大きな声で話しかけてくるので、「ワカりましたぁ~っ!」とハルコンも大声で応じた。
ここの軽食は、食堂で食べる時間のない学生や職員向けに、特別に用意されたものだ。
元々そんな裏メニューはなかったのだが、ハルコンが厨房にお願いしたところ、他の人もこれは助かるとばかりに利用し始めて今日に至る。
ハルコンのような研究生や職員達は、なかなか食べる時間が取れないため、ホンとありがたいサービスだ。
「今日はどれにするかな?」
ハルコンはざっと見てから、サンドイッチと冷スープ、サラダのセットのトレーを取り、黒板にチョークでサインすると部屋を出た。
食堂を出て廊下を歩いていると、女子寮に続く通路からサリナ姉とミラ、他に何人かの女子グループとすれ違った。
「ハルコン、今日も自分の部屋で食事なの?」
「いや、これは知人に届ける用だよ。後で、食堂で食べるつもり」
ミラが心配そうに訊ねてくるので、ハルコンは笑顔で応じた。
「なら、たまには私達と一緒に食べない? せめて、デザートだけでも、……」
「了解。10分したら戻ってくるから。ミラはサリナ姉さん達と先に食べてて!」
「うん。ワカった!」
そう言って、お互いに笑顔で手を振って別れる。
ちらりと振り返ると、サリナ姉がミラに、「お熱いねぇ、お二人さん!」と言って揶揄っている様子が窺えた。
ミラもまんざらでもなさそうに、少しだけ頬を赤く染めて笑っている。
「ヨシッ、……と」
ハルコンは軽食の載ったトレーを持って、自室に急いだ。
先程、女神様から頂いたスーパーチートスキル「マジックハンド」。
そのスキルを使って、これから隣国にいる女エルフに食事を届けるのだ。
ちゃんと、上手くいくのかなぁ?
とにかく、早くスキルを試してみたいなぁと思い、ワクワクしながら部屋のドアを開けた。
177
あなたにおすすめの小説
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる