幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

文字の大きさ
6 / 219
第1章

異変

しおりを挟む
 世界各地の迷いの森のほとんどの場所で、その違いにより人族によって勝手に名付けられていた。
 ところが人族、主に人間達が、生きるために必要な量を超える乱獲や幻獣の幼体や卵の誘拐を競い合うようにするようになった。
 その中で“カリュプスの森”は武器の素材である良質な鋼が一番豊富にあったため、人族の多くに常に狙われていた。
特に隣接する人間族のスタークツ帝国とアデッソ王国が独占権を主張して、良く争いを起こしていた。
その争いに他の人族が独占後の優先的な取引を見込んでそれぞれに同盟国として加わったため激化。醜い争いが十数年続いた。
 鋼の森の異変を知ったもう1つの隣接する竜人族のコンティノアール国が、祖先である竜種を含む幻獣達を助けるために参戦したことにより、新たな火種が加わる。
 数年後ののち同じ人間族であるスタークツ帝国とアデッソ王国が手を結んで独占する者と阻止する者との争いは更に激しいものとなり泥沼と化す。

 “鋼の森”にいた弱い種族や出産を控えた多く雌達は、竜人族の助けを借りて徐々に他の迷いの森に移動した。“鋼の森”の守りを担う種族や強い個体以外はほぼ移動が終わると思われた頃には、森の外周の一部を人間族連合が大型兵器で物理的に切り拓き、結界ギリギリまで伐採や整地をしたために、迷いの森の外側の結界が維持が難しくなり、それに伴い徐々に結界が縮小。幻獣達が移住した影響で資源が少しずつ減っていき、数十年に渡る覇権争いの末に最後の結界が消滅した。スタークツ帝国とアデッソ王国で森を二分されたが、豊富にあったはずの鋼はあっという間に掘り尽くされ、ただの森になってしまったせいで枯渇することになった。
 迷いの森の資源の多くは、結界の中に多くの幻獣がいることで幻獣達の精霊力や魔力などによって複雑に絡みあって生み出されていたため、幻獣が居なくなれば増えることはないからだった。

 最後まで残っていた幻獣の中に、群れを率いていた雄が最期の闘いで亡くなった種族の番いの雌がいた。
結界を維持管理する役目があったため、ギリギリまで幼体と共に森に残っていたのだ。
結界が無くなったことで資源が枯渇することにようやく気づいた人間達によって、残った種族は腹いせとばかりに追い回された。
はぐれた他の種族の群れを助けるために戻り、無事助けることは出来たものの、殿だった雌と仲間が取り囲まれてしまった。
強い個体ばかりだったので、傷付きながらも辛うじて逃げ切れると思った矢先、母獣を探して戻って来てしまった幼体が人間達に見つかって目の前で傷付けられてしまう。

我が子を助けようと捨て身で人間に挑む母幻獣。
 傷付いた幼体を代わりに咥えて逃げる力のある若い雄。
自分だけなら充分逃げ切れると思ったその雄は救援に駆けつけた別の雄に、幼体を何処かに隠して結界を張ってから合流するように頼み、囮として人間達を翻弄すべく走り去った。

 傷付きながらもようやく安全な場所まで母親と若い雄達の殿組が戻ったのは、幼獣を預けた雄が重傷により息を引取る直前だった。

『...すまない、あの子の血の臭いに魔獣が集まって来て退けたまでは良かったんだが、その中のいずれかを追っていた冒険者がいたらしく、あの子を隠した場所から遠ざけようとわざと冒険者に近付いて、襲いかかる振りをして駆け抜けようとしたんだが、引き離しは上手くいったが、おかげでやられてしまった。』というようなことを息も絶え絶えに伝えるのが精一杯だったようで、咄嗟の判断で素早く離れたため、隠した場所に目印などを付けたり、特徴のある場所を正確に伝える前に息絶えてしまった。

 術をかけた雄の死は、イコール結界が消えること。深く傷付きながらもなんとかここまで逃げ切ったために疲れ切っていた母幻獣は、その場で絶望して力なく蹲った。もう自分の状態では探しに行くのは難しいからだった。比較的傷の浅い雄達が代わりに探し回ったが、丸1日経っても見つけることが出来なかった。

 のちにその種族-麒麟-は幼体を除いて長い間人族に姿を現さなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

処理中です...