幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第1章

困惑

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「可哀想に、あの傷は人間にやられたのだろうか?」
 幻獣使いでもある薬師の男は、保護した幼獣から自分を見た途端に強い恐怖心を感じた。成獣ならともかく、幼体が人間を見る機会などあまりないため、あそこまで恐怖することはないはずだから。
臆病な種族だとしても、好奇心が旺盛な幼体が未知の生物を警戒する様子ではなく、明らかに危害を加えられたか、他の幻獣が危害を加えられたところを見たような反応だった。

「厄介だなぁ。ちょうど今は幻獣が他にいないし、傷付いた獣や鳥とかも旅立たせたばかりだし」
 手当をする生き物がいないし、溜まっていた用事や仕事がひと段落したからと久しぶりに陽が昇る前に出かけることにしたのに。
「仕方ない、協力してくれる幻獣か、魔獣を探しに行くとするか」
 とりあえずまた目覚めた時に飲めるように、先程の皿にたっぷりミルクを入れてから、包帯のない場所の怪我にだけ薬を塗り直した。包帯を外すと目を覚ましてしまうかもしれないから。

 幻獣達が好む蜂蜜や果物を籠に詰め込み、途中で薬草を採取しながら幻獣出没スポットを順番に周り、蜂蜜や果物を木の器に入れて置いておく。一旦離れてポーションの素材を探しに行く。出没スポットといっても自分が幻獣を見つけた場所というだけで、本当にそこにいるかどうかは自信がある訳ではないのだが、闇雲に探すよりマシだと思った。
 素材の採取が主目的ではないため、適当なところで切り上げて、最初に器を置いた場所から順番に様子を見に行く。案の定、自宅から近い場所は獣の足跡さえなかったが、遠くなるにつれていずれがなくなっていたり、警戒した足跡だけがあったりした。無くなっているところを補充してから帰宅する。
幼体の様子が気になったからだ。
 自宅に戻り、そっと幼体がいる居間の扉を開ける。ミルクの器は空になっていてホッとした、無人だったからだろう。それでもまだ警戒しているようで寝床の毛布に姿を見せないように潜り込んで寝ているようだ。暖炉の火の具合だけ確認したら男は部屋を出ていった。

 牛舎に戻って来た牛に装具をつけて荷台に繋ぐ。荷物は既に積み終わっているため、準備が整ったら出発する。幼体に栄養をとってもらうのに、足りない物を買いに行く。まず近くのテュラー村まで牛車で行き、知り合いのところで馬と乗り換える。
 リベルタに着くとすぐに薬師ギルドに向かう。
「珍しいね、まだ2日も前よ。
また傷ついた生き物を保護したの?」
 馴染みの受付係に揶揄われながら、常時依頼の薬草と、完成した分だけのポーションなどをいくつか納品する。
「そんなところだよ。
これから冒険ギルドに行ってちょうど良いものがあるか聞きに行くんだ。
なければ色々当たらなきゃいけないからもう行くよ」
「えぇ、今は急ぎの依頼はあなたにはないから大丈夫ね。」

 薬師ギルドから冒険ギルドへ向かう。私が村や森で鳥獣や幻獣を保護することは近くの村や町では有名になって来て、冒険ギルドに近づくと入り口付近にいた冒険者達に揶揄いの言葉を投げかけられた。
「おい、レナード。また何か拾ったのか?」
「今度はどんなやつだ?」
など呆れ半分、好奇心半分の好意的なもののが多い。敵意のない鳥獣や幻獣は冒険者の手で彼のところに持ち込まれることや、中にはレナードが怪我で保護し完治した個体を愛玩用に譲り受けた者もいて、保護中は必要な物があれば採取など協力してくれるのだから、冒険者達の照れ隠し的な情報収集方法でもあったりする。
「あぁ、何かあったらまた頼むよ」
「…やっぱりか」
「たまには違う依頼もしてくれよ」
などいくつか返答を聞きながら冒険ギルドの扉を開けて中に入る。
 冒険者ギルドの受付に幻獣の幼体を保護したこと、その幻獣が人間を怖がっていること、栄養のための卵を欲しいので来たことなどを説明する。
ギルドに報告するのは愛玩用や荷役などの仮契約をしている生き物の捜索保護依頼がきてないかを確認し、契約者がいれば治った後にギルドに引き渡しをするため。
いなければ、リハビリをして森に戻すか、仮契約の相手が見つかれば引き渡すだけだ。
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