幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第3章

迎車

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走りやすそうなところはなるべく全力で走って時間調整をしたおかげで、迎えの馬車に間に合った。
クレドに先に行ってもらったからでもある。
森の入り口だったら、無理だっただろう。
予定外の出来事があって、間に合わないかと思って心配したが良かった。
野営の用意は常時最低限はしているものの、生後間もない火蜥蜴がいて、緊急性から充分な準備をする時間がなかったから。
今夜は冒険ギルドで宿を手配してもらうので安心出来る。
馬車の中では右手でクレドを、左手でアルバを撫でていた。
頑張ったご褒美に宿に着いたら魔性果汁とマッサージをしてあげようと考えていると冒険ギルドに到着した。
恒例となりつつある、ギルド長室の隣の会議室に通される。
幻獣達も一緒に。
レナードにはお茶が、幻獣達には黒魔牛のミルクが振る舞われた。
持って来た職員にもう一杯ミルクを頼んだ。
そこへシリルとコナーが入って来た。
「トラヴァーの用事は無事済みましたか?」
コナーが声をかけてくれた。
「おかげ様で。
ただ無事にというと語弊があるかもしれません」
「ほう、どういう意味だ?」
シリルが問う。
トントン
「入れ」
先程の職員がポットにミルクを入れて来てくれたのでお礼を言って受け取る。
予備用の器にミルクを注ぐ。
職員が出て行くのを確認して口を開く。
「実は前回の大精霊とは順調に話し合って来たのですが、途中で呼び出しがありまして…」
「呼び出し?」
「水の精霊王様と獣の王の聖獣フェンリル様からです」
2人共言われたことが、理解しがたい言葉のため一瞬反応が遅れた。
「精霊王様だと」
「聖獣フェンリル様!?」
「この前の卵と幻獣の返却の感謝の言葉を賜りました」
「それだけか?」
拍子抜けしたようにシリル。
「いえ、その、質問されました。
『人とは迷いの森を荒らす者という認識だが、間違いなのか?』と」
「それでどう答えた?」
「先ず謝罪して、森に入るのは一部の人間で、大半の人間は善良であること。
森に入る一部の国や人間は認識通りだが、ルールを守っている者もいると言うようなことを伝えました」
「それで納得してくれないでしょう」
コナーの言葉に頷き続ける。
「盗まれた他の卵達を戻すことや、盗んだ者や関わった者達を処罰しようと、この前の卵達の返却に関わった者達は考えていると伝えたら、本当なら協力すると言われました」
「それは良かった。信じようとしてくれたのですね」
「えっと、すぐには信じられないので試されるようです」
「どういうことだ?」
《ヒュードル、また姿を見せてくれるかな》
《キョウリョクシャナライイ》
シリルとコナーの前が青く光って、小さな少女が現れた。
「この子が水の精霊王様から借り受けたヒュードルで、麒麟の子の本契約を聖獣様から勧められました。
この2体を通して見聞き出来るらしいです」
「ちょっと待て、今、本契約と言ったか?」
「はい、アルバとは本契約しています」
目の前の2人は頭を抱えた。
「次から次へと。
幻獣士は職業として存在しないはずなのに」
シリルの最後の言葉は小さくて聞こえなかった。
「レナードさんは本業が薬師ですから、
生活基盤は問題ないけど、幻獣士の誕生は国への報告案件」
「だが、理由が幻獣の盗難絡みとなると今すぐ報告すれば、確実に大本命の貴族や王族に逃げられるか、幻獣士を始末されていなかったことにするかだな」
「せめて動かぬ証拠を見つけて、一つのグループくらいは道連れにしたいですね」
《タクサンイルノ?》
「いくつもあるんですか?」
「冒険ギルドが把握しているだけでも3つはある。
愛玩目的や珍品目的の生きている可能性があるグループと、
戦争のための戦闘や改良、洗脳目的のグループ、
販売や奴隷目的のグループだ」
「実行犯や末端の業者は逮捕されているが、それ以上は疑いがあっても証拠がない。
貴族や王族が関与していると判っていても、証拠も繋がりも決定的なものが見つからない。
見つかったと思っても、消されてしまうため振り出しに戻ってしまうんだ」
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