幻獣士の王と呼ばれた男

第５章

アデッソ

人族至上主義の２大国のスタークツ帝国とアデッソ王国。
互いの近くにあった鋼の森 カリュプスが無くなった後も、以前にも増して他の近隣の迷いの森に人を送り込んでいた。
もちろん表向きは良質な素材を手に大量に入れるために。
裏では幻獣や魔獣や魔物を手に入れるために。

アデッソ王国は一部の貴族や豪商が冒険者ギルドの幹部を買収し、冒険者崩れの者や奴隷商の手引きした盗賊団などを冒険者パーティに見せかけて幻獣を攫わせていた。
正規ルートの幻獣は危険が伴う上に調教するため高額になるからだ。
しかし幻獣達の粛正に遭い、正規ルート以外で幻獣を買収や保有した貴族や大商人達は没落や破産の憂き目にあった。
ある侯爵は、スタークツ帝国の王族の一人による極秘裏に行われた幻獣のキマイラ化による軍隊化に手を貸したため、当主と関係した使用人共々別宅ごと襲われ、当主の兄弟姉妹と直系血族は王都から追放の上、傍系から清廉潔白な者を当主にし、侯爵家そのものは維持された。

粛正後の魔法会議で聞かされた内容が一部の者から漏れてそれが貴族内に噂が流れた。
大陸内の大粛正を免れた者の中に、今まで粛正された貴族達のせいで手を出せなかった幻獣関連の事業に手を出そうと考えた愚かな貴族達がいた。
その者達に唆されて送り込まれた幻獣使いの半数は最初の幻影の試練で不適合になるか、自ら諦めて挑戦を放棄した。
残り半数の者は無理を通して森へ入り、素材を根こそぎ採取したり、幻獣配下の魔獣や魔物を敵意のない物まで手をかけようとして返り討ちに遭い亡くなった。
１／４程になった幻獣士の中に、アデッソ王国に生活基盤も、家族や親類も居ない数名が、幻獣士ギルド本部に保護を求めた者がおり更に減っていた。
自ら諦めた者の中にも改心した者が数名おり、幻獣士ギルド本部で保護された幻獣の世話係を申し出た者もいた。
アデッソ王国の愚かな良からぬ企みを抱く者達に、唆されて幻獣士になり祖国に戻った者達は、森から出てしばらくは全員に監視のために精霊が付いて来る可能性があることを知らなかった。
もちろんギルド連合会議に参加した者でさえ、断言していなかったため聞き流している者の方が多かった。
自分達の都合の良いことだけしか読まなかったり、勝手に解釈する貴族や怠惰な冒険者達は、意気揚々と迷いの森へと幻獣士を入れたパーティを組み出かけた。
「本当に魔獣や魔物にほとんど出会うことなくこんな奥まで入れたぜ。さすが幻獣士様だな。」
「お前ら、見えてる物全部手分けして入れろ。」
幻獣士以外の者は日当相当分しか持ち帰る事が出来ない事など、幻獣士本人からも、都合の良い噂しか聞いてない依頼人からも説明がないため、当然のように等分に袋一杯詰め込んで森を出ようと出発した。
当然だが、帰りは今までの迷いの森と同じように迷わされたり、魔獣に追われることになった。
「わぁ～なんでだよ！話しが違うじゃないか！」
「なんで襲われるんだよ！」
襲い掛かられ袋を飛ばして中身が溢れたり、袋を齧られて穴が空いて落としたりなど、全員合わせてほぼ日当相当分しか持ち出せず、ボロボロになってなんとか迷いの森を脱出した。
待ち受けていた貴族から雇われた商人は驚いた。
「皆さまどうされたんですか」
「どうもこうもないよ。幻獣士以外の奴はほとんど襲われて半分以上荷物を落として来たんだ！」
「なんですと。
確かお話しでは、幻獣士様が居れば交戦的だったり、手負いや子育てなどで凶暴化してなければほとんど襲われないのでは？」
「話し通り行きは襲われなかったが、帰りに襲われてこの通りの有様だよ」
リーダーが商人と話している間に荷物が集められ、商人の従者が査定した。
「旦那様ざっと見積もったところ、かろうじて利益が出るくらいかと」
「大儲け出来るというからここまで来たのになんて事だ」