幻獣士の王と呼ばれた男

第５章

密約

未来の森は学園内の古城のある小さな森に作られる事になった。
古城の地下通路の一部を流用が出来、人の出入りがほとんどない場所で、更に池に何処からか聖水が染み出ており、精霊や妖精が喜ぶ条件が整っていたから。
精霊王に頼んで準備の手配までの条件付きの誓約に変えてもらい、試練の森同行メンバーが学園内の森の候補地の確認を行った。
森が誕生しある程度整った時に、忘れたメンバーの誰かが森の入り口を発見するというものに書き換えられる。

幻獣側との密約は以下の通りになった。
古城に人が近付かなくなった理由を、幻獣とトラブルがあり封鎖したという事を書いた書類を古城に行った者が偶然発見し、調査して幻獣士ギルドに報告する。
報告を受け調査するのは竜人族の副ギルド長で、森の入り口の地下道の工事を竜人族とエルフ族、ドーワフ族の長命種が引き受ける。
それぞれの長の禁忌の書の中にその様な記述があったと改竄し、事実であり、知らされていたのは当時友好的だった工事を請け負った種族だけで、その種族さえ今まで封印されていたことにする。
工事を請負うのは各種族でも口が固く、精霊王や幻獣王を盲信している者で、工事が完了後は如何なる方法でも人族内に記録を残さないことを誓約した者で、現役を引退した者のみ。
工事の記録は精霊王達に渡し、必要な時のみ閲覧出来る様に仕掛けを頼む。

など人間に知られると厄介な森の誕生に関すること全てだった。

因みに工事を請負うために試練の森へ呼び出された竜人族の長やエルフ一族の長、ドワーフの長は森の誕生の秘密に感動し、自分達の代で工事に関われることに感謝の念を伝え、歴史の改竄及び争いを避けるために長のみの一子相伝としてのみ伝えることで、工事の後に関係者全ての記憶が消えることを快く了承した。
工事に参加出来ると知った引退した者達も、例え途中で命が尽きても偉大な幻獣様方のお役に立てれば本望だと、子孫に伝えられなくとも構わないと意気込んでいた。

人族に知られないために古城の周りを新たな森と、工事関係の施設や資材置き場などを含めて不可視の結界が築かれた。
人足や資材、食料などは試練の森から精霊王達の移転の魔法陣を使い送り込まれた。
長命種の技術の限りを持って、歴史上稀に見るほど強固で広大な地下通路のはずが、地下街が完成した。
通路のランダム機能は、工事準備の段階で学園側より知識を伝授され、魔術も精霊術も得意なエルフの一族の担当者が改良し、自然に出来るダンジョンより超高度な物が出来ていた。
この技術だけは精霊王達が、種族の存亡に関われる時に、種族を守るために使用出来る様に必要な時に、扱いが可能な者に啓示する形で伝承された。
通路が街になったのは偏に全種族が張り切り過ぎたからに他ならない。
悪心を持つ者が罠にかかると飛ばされる場所を、ゴーレムが守る聖地風にしたり、アンデットがいる廃墟の地にしたりと通路以外の用途の場所も作ってしまったから。
妖精や産まればかりの精霊達の遊び場を兼ねた花畑や誤って罠に掛かった悪心なき者の休憩場所もあって、地下ダンジョン街の様相になったのは幻獣士ギルドにとって想定外だったが黙認した。
誰も知らないが、アンデットの街は精霊王や幻獣王達がある仕掛けを勝手に付け加えた。
それは罠から飛ばされた者に怨みがある死者がいたら転送されるという物。
これにより浄化される魂が一定数出たのは
やった本人達も知らない。

名称に関して妖精達から強力な反対にあった。
自分達が人族と遊ぶ場所なのだから楽園 パラディがいいと。
遊ぶ場所ではなく、幻獣達と友好関係になれる者となれない者を見極めるための確認の場所なのだからと説得したが聞き入れられず、人族にそれを話したところ、その名称の方が過去にあったという信憑性が出るということで容認された。