幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

文字の大きさ
159 / 219
第7章

遭遇

しおりを挟む
 薬草トラヴァーの森にジャコウ鸚鵡らしい生物の目撃情報が多く集まるが、直ぐに逃げるか、近付けない場所にいるなどではっきりとした確認が出来ていない。野生のジャコウ鸚鵡が1羽で居るなら保護対象だが、トラヴァーの精霊や妖精達に話しを聞ける程の能力を持つ幻獣士が行く事がほぼない。それはトラヴァーが凶悪な獣や魔獣が少なく、草食の昆虫類や小動物や草食魔獣の宝庫であり、昆虫や木の実などを主食にする種族か、雑食の獣や魔力のみを糧にする幻獣しか居ない。そのため採取能力の高い幻獣士か、新人幻獣士などしか行かないのだ。
「こういう時にヒュードル様が居ないのはキツいな。かと言って他の中精霊持ちは遠方か、クエスト中だし」
「アルバが居ないのに出かけることはしたくないが、此処に居ても薬師としての仕事は集中出来ずに役に立たないから私が調査に赴くよ」
「ギルド長大丈夫ですか?」
「シャンス達トラヴァー出身者も多いし、変異種うちの子達も仕事をしていた方が気が紛れるだろうからな」
「そうですな。最初から一緒だったクレドや狼犬兄弟もだが、一緒に行動することが多かったスティードなんかは獣舎に籠りがちだと聞きましたゾ」
「だからあの子達の気晴らしがてら行って来るので後を頼む」
「お任せを」
 竜人族のネイティヴィダッド副ギルド長にギルドを任せ、出立の準備を整えると直ぐにトラヴァーに向かう。仕事だと告げると元気良く返事をする子が多い中、スティードだけは渋々と言った感じで、それでもこれ以上仲間と離れたくないのか同意してくれた。普段ならお留守番をしたがる火の下級精霊のフォティアや土の下級精霊のティエラや妖精も、生まれ故郷に里帰りしたいという事で着いて来た。
 出立して直ぐは深く物事を考えない精霊や妖精と、アルバを知らない新しい幻獣以外は普段と違う様子が見られたが、トラヴァーの最寄りの街ヘンルーダが見える頃には普段通りになっていた。迷いの森では油断は禁物だと経験から身に付いているためだろう。
 ヘンルーダの冒険者ギルドに寄り、新しい情報の確認など情報共有し、街では泊まらずいつもの手前の森の野営地に行く。かなりの強行軍だったが、それは深く考える余裕を無くすためでもあった。レナード自体もそうであったから。幻獣士が自由にトラヴァーを行き来できるようになり、手前の森のシャンス達を発見した広い場所も手入れされて小規模な野営地となっていて、もう一晩そこで野営して早朝に出発した。他にも以前利用した洞窟もトラヴァーに挑む採取者達に人気の野営地となっていた。
 トラヴァーの入り口でシャンス以外の森の出身者と別れた。シャンスは此処での思い出はないが、同族達が棲家としている森なので過ごし易いのだろう、ポケットではなく肩に留まっている。スライムのタンザはポケットの中だ。
 目撃情報をもとについでに薬草などの素材を採取しつつ進む。本来なら案内役の精霊か妖精が付くはずだが、レナードはこの森出身者と契約しているため居ない。もちろんレナードがどれだけ大量に素材を持ち出しても、ほとんどがなんらかの形で幻獣や野生の生き物達に使用することを四精霊王や聖獣王達が承知しているからだ。

 レナードがトラヴァーに出立した事を知った闇の大精霊はジャコウ鸚鵡を幻影を見せた場所付近に移転させた。その場所は迷いの森の中でも魔素が強い場所の1つであった。ジャコウ鸚鵡は他の人族やこの森の競合する生き物達から隠れる様に縄張りがない場所でひっそりと待っていた。側にいた光の中精霊にアルバの主人達が近付いたと聞き移動を始める。闇の精霊は隠匿の魔法で離れた場所で監視している。
 発見したのはクレドだった。発見した近くに止まり、近くのルナ呼び案内役を任せた。
 《主人、あの高い木の上にいる》
 教えられた場所には小柄だが明らかにジャコウ鸚鵡と思われる個体が太い木の枝に同化するかの様に佇みこちらを見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...