幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第8章

紛糾

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「中立派の長老共の招集など大したことないではないだろうから出たくもないが、私的な欠席が認められない特別招集だ仕方ない」
「普段は何の役にも立たない年寄り共が呼び出すなど腹立たしい限りだな」
などと悪態を言い合っているのは漏洩を懸念している派閥の者達だ。

全員が揃ったのを確認した2人は立ち上がり、型通りに労いの言葉をかける。
「さて本日皆を呼んだのは、とある筋より我がギルドに有用な情報が入って来たからだ」
「しかも秘匿案件じゃ」
さっきまで不愉快な態度を隠さずにいた者達さえ2人に注目した。
「薬草や毒の素材を濃縮する能力や、解毒薬を精製出来る新たな手段が齎された」
あまりの内容に誰もが驚きのあまり黙り込む。
「但しその情報は、幻獣士・冒険者・商業の3ギルドの一部が関わっている変異種育成計画というものに賛同せねば詳細や扱う権利がないという」
室内が騒つく。
「他のギルドに先を越されただと!」
「我がギルドこそ必要な能力ではないか!」
など言う声のが大きいが、新しい方法を歓迎する声が多かった。
「今は打診という形だがもし今すぐに賛同すれば、扱う権利を話し合う場に最初から参加出来る」
「秘匿案件じゃからその計画に協力しなければ情報はこれ以上入って来ぬ。こちらからの一方的な要請は断られるやもしれぬ」
理不尽だの、横暴だの、自分勝手な声が聞こえる中
「そうだ!幻獣士ギルド長は我がギルド会員ではないか!」
というひと言に有力な支援者がいる者達が俄かに活気付く。
「通常は一会員である薬師ギルドより、幻獣士ギルド長の立場の方が優先するのは当然の事。だが本来なら重要な案件をワシら長老に事前に報告や相談を怠る様な者ではない」
「…薬師でもある幻獣士ギルド長は責任感が強く聡明で謙虚なことで知られている。それなのに我がギルドに真っ先に報告をしていないという事がどういう事か考えよ」
中立派の長老の2人の言葉に一瞬だが静かになる。
中立派の1人が呟く。
「そうか、漏洩を恐れたのか」
その言葉に中立派や一部の者達は納得した。
「薬に関わることを他のギルドに漏洩したのはその幻獣士ギルド長ではないか!」
漏洩をする恐れのある者達は一斉に叫び、納得出来なかった他の者達も頷き賛同する。
「その者を至急呼び出して報告させれば良いだけの事」
「しかし他のギルドに情報を漏洩させた件については罰を与えねば」
などと主に王侯貴族の後ろ盾のある者達が罰をどうするのかを騒ぎ立てる。
「幻獣士ギルド長が懸念する漏洩先は他のギルドではなく、その後ろにいる支援者達なのでしょうね」
罰の内容を思考するために静かになった時に別の中立派の1人が呆れた様に言った。
「そうじゃ。幻獣士ギルド長は薬師ギルドの秘匿案件として外部に信頼出来る幹部が誰か分からないからと報告を躊躇っていたと聞いた」
「独占や差別、利権争いなどを憂いて、先に精霊王様や幻獣王様に相談してから報告するつもりだったらしいぞ」
精霊王の話題が出た事で空気が変わる。
派閥を問わず精霊王や幻獣王を崇拝している種族と穏健派と中立派は好意的に。
人族至上主義派や王侯貴族などが後ろ盾の者達は畏怖を。
「そうすると幻獣に関することなのですか?」
「詳細までは聞いておらぬが、その通り幻獣関係ではあるのぅ。精霊様方は権力だの、金銭などで優遇するのを嫌うでのぅ」
「そうじゃった。あくまでも案ではあるが、幻獣士が扱うのが必須で、薬師と兼業か、もしくは一族などで秘匿出来る環境の専業かのいずれかが望ましいらしいぞ」
「一族も想定ということはまさか1個体ではなく複数個体か、種族もいるのか?」
「まだ詳細は知らぬと言っておろう。だが1個体ならばギルド長が契約して報告に来れば問題なかろうが」
「今から計画に賛同すればもっと情報が入ろう。精霊王様との近々話し合いの後では不利になるゾ」
変異種育成計画に薬師ギルドが賛同することと、詳細を知るまではこの場に居る者以外への如何なる情報も漏らさない事が決定された。
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