幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第9章

懐柔

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 武装組織の長に相応しい人物の勧誘に成功すると、交渉していた者達の中でリーダー次第という者達が応じてくれた。その中で知ったのだが、元某次期騎士団候補者だったユースティティアという男は両親が共に混血で、各種族の特徴を備えた戦士であったが、その混血故に陥れられたようだが、現役時代も傭兵時代も人気があり、下士官や現場、事務方にも慕われていたらしい。
 決断が早いかの集団は、能力に応じて幻獣術と従魔術の習得を徹底させた。中でも元々鳥類や動物を使役していた者と、騎馬を管理していた2名の習得状況が脅威的だった。
「幻獣術ってのは生き物と会話出来て便利だ」と寝る時間を削ってまで習得したらしい。隊長の騎馬以外に、通信用の小鳥と牧場の犬1匹ずつが変異種と判明し、隊長に事後報告で仮契約し、3ヶ月という短期間で幻獣士となって居た。流石に元々管理していた変異種だったため今回の契約としての幻獣士とはカウントせず、新たな個体と契約する時からとした。その2名の暴走により問題の幻獣達のための組織から、同時に変異種を育成する組織へと計画が変更する事態となった。

 どちらも集団も傭兵隊としては言えない業務内容になったためただの部隊とし、新たな武装組織の名称が決まるまで暫定として元傭兵部隊を第一部隊、傭兵と退団者らの部隊を第二部隊とした。第二部隊の契約は第一部隊の契約を基本として作られ、いくつかの変更をして正式に『幻獣の卵』の会員になった。
 第二部隊は交渉リストを引き継ぎ、話し合いすら応じなかった者達の中の半数を懐柔したと報告があった。リスト外の人物の交渉について打診があり、有能な者で条件に合えば良いと返答し、保留リストと除外リストも念のため渡した。

 そして半月後に驚くべき報告がなされた。なんと12年前に家庭の事情で退団した元辺境伯、現役の聖騎士だが辺境の閑職だという者、現役冒険者のアルマラス姉妹団と現役冒険者クランの星屑の守り手、華麗なる義賊という盗賊団を懐柔に成功したという者だった。
 辺境伯を引退後も自軍の訓練を実施していた猛者、現職の聖騎士は危険度の高い最前線の遊撃手で、新たな武装組織が正式に稼働するまでは合流しないが、それまでに身辺整理を完了させると。
 アルマラス姉妹団はその名の通り女性だけの冒険パーティで、寡婦や孤児、犯罪の被害者が中心の中型パーティ。冒険者クランの星屑の守り手は孤児や、戦争や略奪で生き残った者など訳ありの者達の集団。両方とも権力者達に生活や家族を奪われながらも、集団を作り新たな家族として寄り添い助け合って生きて来た冒険者集団である。『幻獣の卵』が幻獣達を権力者達から守り、変異種の生存率を上げる研究をしていると聞いて参加したいと言ってくれたという。
 最も意外だったのは盗賊団である華麗なる義賊で、悪い噂のある者達しか狙わない事から一般市民には人気があり、捜査協力が少ないため捕らえられないと有名な盗賊団だ。噂を聞いて『幻獣の卵』や第一部隊の不正を調べてみてが、依頼者の言う不正どころか幻獣のためになろうと奮闘している姿を見て、自分達の能力を犯罪ではなく、幻獣や幻獣を守ろうとしている幻獣士達に使ってもらえないかと接触して来たらしい。構成メンバーが先の冒険者集団の様な孤児や犯罪奴隷や自らの博打の借金以外の奴隷だった者や、親が奴隷になり捨てられたり、折檻などから逃げた者、忌み子として冷遇された者、帝国の招集令状から逃亡した者などで、犯罪者集団ではあるものの幻獣達にとって概ね問題ないとされた。
 3団体の確保により新しい戦闘集団以外にも人材が派遣出来る。

 あれだけ警戒された交渉リストの人族達も、本気で家族や自分のため以外には戦いをしたくない者を除き、非戦闘職でも良いならと快諾されたという。
 更に拠点の候補地として元 鋼の森カリュプスの外側にある竜人族の国の隣の小国を懐柔して用地を確保したと。
「俺達はとんでもない人物を仲間に率いれたらしい」と幻獣ギルド内では戦慄した。
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