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森を抜ける道中、世間話感覚で今いる『国』というよりは『世界』について聞いてみれば、フィーリネは変に探りを入れてくることなくこの世界のことを教えてくれた。
オブシディアン――数千年前に生まれたとされる魔法という未知なる力を用いて発展を繰り返してきた国。生活の一部として魔法が用いられるため、人々の多くが魔法を使えるとのことだ。
最初それを聞いたときは、全員が魔法をぶっ放してくる危険な連中なのかと思ったよ。だけど、扱える魔法には個人差があり、中でも攻撃に応用できる人は限られている。
だから、魔法はあくまで生活の一部でしか使われていないそうだ。
「なんだ、結局魔法に関しても攻撃に使えるのは一部の人間だけってことか」
「はい。魔法も万能じゃないですから。属性だって『火』、『水』、『風』、『土』の基本属性と、あとスキルによって生まれる『アビリティ』くらいなものですから」
「『アビリティ』? 聞いたことないな」
基本属性とやらは良く耳にするけど。
「そうですね、要は基本属性に該当しない魔法をそう言うのだと思ってもらえれば大丈夫です」
「じゃあ、『雷』とか『氷』もそれに当たるってことか」
「そうなりますね。とはいっても、スキルを得ている人なんてそう多くはないんですけどね」
苦笑しながら彼女は言う。
なるほどね。今の話を簡単にまとめると、基本の四属性は全ての人が火力に個人差はあるにしても使える。だが、スキルによって生み出される『アビリティ』に関しては生まれ持った個性ということか。
つまり、スキル持ちは一種の天才ってことだな。
「フィーリネは何かスキルを持ってるのか?」
「えっと、自慢することじゃないですけど……『治癒』というアビリティを持ってます」
「治癒――人の傷を癒すのか。凄い能力じゃないか」
「でも、私の場合は宝の持ち腐れなんですけどね。かすり傷程度のものしか治せませんし」
「それでも凄いことだって。傷を一瞬で治せる能力だろ? 大なり小なり、使える力だと思うけどな」
傷を治せる魔法なんて、優しい能力だ。心優しく穏やかな雰囲気のフィーリネにはピッタリの能力だと思う。
何かをぶっ壊すくらいしかできない俺に比べればね。
そんな風に考えながら遠い目をして道行く先を見据えていると、チラチラと彼女がこちらを見てくるのが確認できた。何かが気になるようだが聞くことができない。そういう風に見える。
「――さっきからどうしたんだ?」
「えっと、結構前から気になっていたんですけど……どうして暁人さんはそんな歩き方をしてるんですか? その、忍び足みたいな……」
「あぁ、これ?」
どうやら彼女が先程から気になっていたのは俺の歩き方ということらしい。
まぁ、他から見たらおかしいよな。つま先を立てて、細心の注意を払いつつも普通の速さで歩くなんて。まるでカニのようなんだから、それこそ変態だ。
「俺って強いから。こうでもしないと地面が陥没するんだよね」
「そ、そうなんですか……?」
「おう」
短く答えてそれを証明するように地面を軽く小突いてみる。
すると、瞬時に四方へ広がる亀裂。地割れまでとは言わないが、それでも大地に瞬間的に生まれたヒビはある程度進んで止まった。
「ね?」
「……」
亀裂を目にして絶句しているフィーリネに笑みを浮かべると、彼女は我に返ったように肩をビクつかせる。
そして、何事もなかったかのように踵を返すと歩き出した。
「そ、その……凄いアビリティですね?」
「アビリティ……かどうかは分からないけどな。強いのは認めるけど、これはこれでかなり大変なんだぞ?」
「そ、そうみたいですよね……あはは。その歩き方だけで充分伝わります……。あの、一応言っておきたいんですけど、これから向かう街では――」
「大丈夫。このままカニ歩きを続けるさ」
親指を立てて宣言してみれば、彼女はホッとしたように息を吐いた。
何だろう。俺は街に入れば平気で全てを壊すような危険人物にでも見えるのだろうか。いや、まぁこの力を見せつけられたら怖くなるのも分かるけどな。
――と、それからも軽く雑談を繰り返すこと数分くらいだろうか。
それまで周囲に生えていた木々が少しずつその姿を消していったかと思うと、遠くに見える大木の先に平原が確認できた。それはつまり、森を抜けたということ。
「森、終わりってことか?」
「はい! あの先が森の終着点です。そこから少し歩けば、私が暮らしてるカルサイトの街につきますよ!」
「おぉ!」
思わず感嘆の声が漏れる。
この世界にやってきてから早数日。やっと森から脱出できるのか。そう思うと、こう胸の内からこみ上げる想いがあるような、無いようなって気分だよ。
「うしっ! じゃあ行こうぜ!」
「はいっ! ――ッ!?」
俺の声に満面の笑みで答えてくれたフィーリネの表情が、俺の方を見た瞬間凍り付く。いや、正確には俺の背後だろうか。
どうしたのだろうかとその視線を追って後ろを見てみれば、そこにいたのは巨大なイノシシの化け物。
ついさっき俺がぶっ飛ばしたやつとは別の個体らしく、一回り大きな巨体は荒々しい呼吸を繰り返しながら威嚇を繰り返してきているよ。
「なんだ? まるで、侵入者を撃退しようとしているみたいだな」
「じ、事実その通りだと思います……!」
「俺たちはもうここから出ようって言うのにな」
あははと笑みを浮かべてみれば、辺りに涎をまき散らしながら吠えるイノシシ。その口臭は獣臭さと定義するには強すぎる悪臭。思わず鼻を押さえてしまったよ。
「は、はは、早く逃げましょう……っ! 暁人さん!」
「そうだな。――と言いたいところなんだけど、せっかくの門出だ。コイツにはお土産にでもなってもらうとしようぜ!」
「――えぇ!?」
口角を上げてニヤリと笑うと、俺は腕を引いて構える。
「確か、個体差によって依頼料が変わるんだったよな。じゃあ、コイツはどれくらいの金になるか――楽しみだ!」
臨戦態勢が整った俺の様子を見たイノシシは、再び咆哮を上げて突進してくる。
俺はそんな文字通りの猪突猛進な化け物に目掛けて、かなり手を抜いた拳骨をお見舞いしてやるのだった。
オブシディアン――数千年前に生まれたとされる魔法という未知なる力を用いて発展を繰り返してきた国。生活の一部として魔法が用いられるため、人々の多くが魔法を使えるとのことだ。
最初それを聞いたときは、全員が魔法をぶっ放してくる危険な連中なのかと思ったよ。だけど、扱える魔法には個人差があり、中でも攻撃に応用できる人は限られている。
だから、魔法はあくまで生活の一部でしか使われていないそうだ。
「なんだ、結局魔法に関しても攻撃に使えるのは一部の人間だけってことか」
「はい。魔法も万能じゃないですから。属性だって『火』、『水』、『風』、『土』の基本属性と、あとスキルによって生まれる『アビリティ』くらいなものですから」
「『アビリティ』? 聞いたことないな」
基本属性とやらは良く耳にするけど。
「そうですね、要は基本属性に該当しない魔法をそう言うのだと思ってもらえれば大丈夫です」
「じゃあ、『雷』とか『氷』もそれに当たるってことか」
「そうなりますね。とはいっても、スキルを得ている人なんてそう多くはないんですけどね」
苦笑しながら彼女は言う。
なるほどね。今の話を簡単にまとめると、基本の四属性は全ての人が火力に個人差はあるにしても使える。だが、スキルによって生み出される『アビリティ』に関しては生まれ持った個性ということか。
つまり、スキル持ちは一種の天才ってことだな。
「フィーリネは何かスキルを持ってるのか?」
「えっと、自慢することじゃないですけど……『治癒』というアビリティを持ってます」
「治癒――人の傷を癒すのか。凄い能力じゃないか」
「でも、私の場合は宝の持ち腐れなんですけどね。かすり傷程度のものしか治せませんし」
「それでも凄いことだって。傷を一瞬で治せる能力だろ? 大なり小なり、使える力だと思うけどな」
傷を治せる魔法なんて、優しい能力だ。心優しく穏やかな雰囲気のフィーリネにはピッタリの能力だと思う。
何かをぶっ壊すくらいしかできない俺に比べればね。
そんな風に考えながら遠い目をして道行く先を見据えていると、チラチラと彼女がこちらを見てくるのが確認できた。何かが気になるようだが聞くことができない。そういう風に見える。
「――さっきからどうしたんだ?」
「えっと、結構前から気になっていたんですけど……どうして暁人さんはそんな歩き方をしてるんですか? その、忍び足みたいな……」
「あぁ、これ?」
どうやら彼女が先程から気になっていたのは俺の歩き方ということらしい。
まぁ、他から見たらおかしいよな。つま先を立てて、細心の注意を払いつつも普通の速さで歩くなんて。まるでカニのようなんだから、それこそ変態だ。
「俺って強いから。こうでもしないと地面が陥没するんだよね」
「そ、そうなんですか……?」
「おう」
短く答えてそれを証明するように地面を軽く小突いてみる。
すると、瞬時に四方へ広がる亀裂。地割れまでとは言わないが、それでも大地に瞬間的に生まれたヒビはある程度進んで止まった。
「ね?」
「……」
亀裂を目にして絶句しているフィーリネに笑みを浮かべると、彼女は我に返ったように肩をビクつかせる。
そして、何事もなかったかのように踵を返すと歩き出した。
「そ、その……凄いアビリティですね?」
「アビリティ……かどうかは分からないけどな。強いのは認めるけど、これはこれでかなり大変なんだぞ?」
「そ、そうみたいですよね……あはは。その歩き方だけで充分伝わります……。あの、一応言っておきたいんですけど、これから向かう街では――」
「大丈夫。このままカニ歩きを続けるさ」
親指を立てて宣言してみれば、彼女はホッとしたように息を吐いた。
何だろう。俺は街に入れば平気で全てを壊すような危険人物にでも見えるのだろうか。いや、まぁこの力を見せつけられたら怖くなるのも分かるけどな。
――と、それからも軽く雑談を繰り返すこと数分くらいだろうか。
それまで周囲に生えていた木々が少しずつその姿を消していったかと思うと、遠くに見える大木の先に平原が確認できた。それはつまり、森を抜けたということ。
「森、終わりってことか?」
「はい! あの先が森の終着点です。そこから少し歩けば、私が暮らしてるカルサイトの街につきますよ!」
「おぉ!」
思わず感嘆の声が漏れる。
この世界にやってきてから早数日。やっと森から脱出できるのか。そう思うと、こう胸の内からこみ上げる想いがあるような、無いようなって気分だよ。
「うしっ! じゃあ行こうぜ!」
「はいっ! ――ッ!?」
俺の声に満面の笑みで答えてくれたフィーリネの表情が、俺の方を見た瞬間凍り付く。いや、正確には俺の背後だろうか。
どうしたのだろうかとその視線を追って後ろを見てみれば、そこにいたのは巨大なイノシシの化け物。
ついさっき俺がぶっ飛ばしたやつとは別の個体らしく、一回り大きな巨体は荒々しい呼吸を繰り返しながら威嚇を繰り返してきているよ。
「なんだ? まるで、侵入者を撃退しようとしているみたいだな」
「じ、事実その通りだと思います……!」
「俺たちはもうここから出ようって言うのにな」
あははと笑みを浮かべてみれば、辺りに涎をまき散らしながら吠えるイノシシ。その口臭は獣臭さと定義するには強すぎる悪臭。思わず鼻を押さえてしまったよ。
「は、はは、早く逃げましょう……っ! 暁人さん!」
「そうだな。――と言いたいところなんだけど、せっかくの門出だ。コイツにはお土産にでもなってもらうとしようぜ!」
「――えぇ!?」
口角を上げてニヤリと笑うと、俺は腕を引いて構える。
「確か、個体差によって依頼料が変わるんだったよな。じゃあ、コイツはどれくらいの金になるか――楽しみだ!」
臨戦態勢が整った俺の様子を見たイノシシは、再び咆哮を上げて突進してくる。
俺はそんな文字通りの猪突猛進な化け物に目掛けて、かなり手を抜いた拳骨をお見舞いしてやるのだった。
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