世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク

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「これが、ウィルボアの換金代金となります」

 フィーリネと共にゾイトをからかってから数分後の受付。
 魔物の換金が済んだということで顔を出せば、俺たちを迎えてくれたのは山のように積まれた袋の山だった。

 大きな巾着袋とでも言うのか。上部を紐で縛られた袋がカウンターの上に並べられていて、少し触ってみれば金貨特有のジャリっという音が聞こえてきた。
 おそらくは、中身は全部ということだろう。

「こ、こんなにもらって大丈夫なんですか?」

「はい! 魔獣ウィルボアの討伐はそれくらいの価値がありますから!」

「魔獣ウィルボア?」

 拳骨一つで倒した巨大イノシシにしては大層な名前だなと思って聞き返してみれば、受付のお姉さんが言うには結構強い魔物だということだ。
 
 今回フィーリネが参加した魔物討伐作戦。
 実はこれが初めてというわけではなく、定期的に行われているらしい。

 魔物は放っておけば人里までやってくる。そうならないためにも抑止としての先制攻撃で何度か討伐作戦は結構されているとのことだ。
 だが、そうやって何度も行われた作戦だが、毎回奥深くまでは潜れない。

 その理由が、こにお魔獣ウィルボアだった。

「この魔獣による被害はとても数えられるものではないんです。ですから、そんな魔獣を討伐してくださった暁人さんは、まさしく英雄に等しいでしょう!」

「そ、そうですか……」

 俺としては、向かってきた化け物をただ殴っただけだ。
 それが結果的に良い方向へ転がったわけだが、流石にこれは予想外です。

「と、ところで――これら全部でいくらあるんですか?」

「軽く見積もって、七十万ジェードといったところでしょうか」

「な、七十万っ!?」

 お姉さんの言葉に反応したのはフィーリネだ。

 彼女には珍しく大声を上げ、食い入るように袋の山を見つめるその姿は、餓死寸前まで空腹の人物が食い物の山を見つけた時の状態に近いのだろうか。
 とにかく、凄い食いつきようだよ。

 この世界でのお金の価値観を聞こうと思ったが、これじゃあ聞いたところで右から左に言葉が流れていくだろう。

 そう思って、俺は対象をゾイトに変更すると

「なぁ、七十万ジェードってどれくらいあるんだ?」

「なんだ。金の計算も出来ないのか?」

「複雑な家庭環境の生まれでね……。で? いくらくらいになるんだよ?」

「……大体、家を一つくらいは買える額だ。それなりに高い金額になるだろうさ」

 プイっと顔を逸らしながら答えてくれたゾイト。
 生意気な性格の彼女だが、やはり根は良い奴らしい。

 『家庭環境に問題あり』みたいな雰囲気を出してみれば、普通に答えてくれたよ。

 お礼に頭を撫でてやったら、再び躊躇のないビンタで叩き落とされたけどな。

「――ッてて……。それにしても、家が一つ建てられるのか。凄いな」

「はい! それだけの功績を上げていただけましたから! これで、ギルド無加入というのが不思議でありませんよ!」

「あはは……。そこはまぁ、色々理由がありまして……」

 適当に笑って話を濁すと、一度ワザとらしく咳払い。
 それから受付のお姉さんを真っ直ぐに見据えると、

「それで、話は変わるんですけど、ギルド加入テストの試験はどうですか?」

「はい。そちらの方も用意ができております。ゾイトさんも、同じものですからどうぞ」

「「ありがとうございます」」

 差し出されたのは一枚の茶色い紙。
 二人して受け取って見てみれば、上部には大きな魔物らしき存在の絵。その下には、試験内容らしい文体が描かれていた。

 魔物の容姿は、一言でいえば『スゲー弱そう』だ。

 形容するなら太ったニワトリだろうか。
 丸い胴体から生えた二つの鳥足に、小さな翼。赤いトサカを生やした顔には先の丸い口ばしと覇気を全く感じられない円らな瞳がある。

 こちらの世界の食用のニワトリなんじゃないかと思える姿だ。

「お二人には、このドゥルドゥーの羽を取ってきていただきます。羽をむしり取り、ギルドまで帰ってこられれば試験は終了です」

「羽を取るだけでいいのか? ふっ、簡単だな」

 大したことないとでも言いたげに肩をすくめてゾイトは言う。

「確かに、ドゥルドゥーの羽をむしり取るのは簡単です。ですが、彼らはすばしっこいですからね。難しいといえば難しいので、頑張ってきてください――とはいえ、お二人には簡単すぎかもしれませんが」

「当然だ!」

「そう、なのか……?」

 自信満々のゾイトに対し、俺は苦笑で答える。

 ウィルボアに比べれば簡単すぎるものであるのは認めよう。いくらすばしっこいにしても、強化された俺の身体は絶対その上をいくだろうからな。
 そう考えれば簡単そうだが、人生何が起きるか分からないものだ。

 変に自信をもっていくのはやめておこう。

 そう結論付けて、受付のお姉さんに別れを告げて、俺は自信満々のゾイトと未だに金に目が釘付けのフィーリネを連れてギルドを後にする。
 ちなみに山のように積まれたお金も一緒にだ。

 流石に手で持ち帰ることが出来ないので荷車を借りているんだが、この金どうしようというのが本音だ。
 ――というのも……

「――七十万……七十万ジェード……」

「なぁ、ゾイト。何でフィーリネちゃん、大金が手に入った同時にこんな壊れた感じになったんだ?」

 しきりに『七十万ジェード』と口にしながらフラフラと覚束ない足取りで歩く彼女。
 先程までの天使みたいな可愛らしさと慈悲深さは成りを潜め、今は焦点の定まっていない視線を保ったまま不気味な笑みを浮かべている。

「……聞いていないのか? フィーリネは借金を抱えているって」

「あぁ、そういえばそんなことを聞いたような気がする」

 確か、ギルドに金を借りているんだったかな。
 そうまでしないと生きていけないとなると、よっぽど貧困な家庭に生まれているのだろうか。

 けど、そうなると彼女がゾイトと幼馴染っていうのが想像できないな。
 ギルドでの話を思い出す限りじゃ、ゾイトはこんな奴でも国有数の貴族の生まれだ。裕福な家庭で育っているわけだから、彼女が貧困家庭と関わり合うことはない気がする。

 などと考えていると、それを見かねたのか嘆息してゾイトは言う。

「フィーリネは、今は落ちぶれちゃいるけど一応貴族なんだよ。それも、王家の血縁関係にある由緒正しいね」

「……マジで?」

 ゾイトの言葉に視線をフィーリネに戻す。

 覚束ない足取りで歩くあの娘が王家の血縁者って……。
 確かに気品というか、優雅さは感じるけどさ。そこまで大きなところの出って。

「何でそんな彼女があんな……身体を張って金を稼ぐような真似を?」
 
「それは、ボクから言えることじゃないよ」

 それだけ言って、ゾイトは俺から距離を置くようにフィーリネの方へと寄っていった。

 一体何があったら貴族の、それも王家の血縁者がここまで落ちぶれてしまうのか。
 浮かんできた疑問に答えるものはその場には存在せず、俺はただ目的もないまま荷車を引っ張っていくことしか出来なかったのだった。
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