世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク

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 村を捨てて、カルサイトに逃げて欲しい。オークの討伐が事実上難しいという判断にいたった結果、出した俺たちの結論を言い渡すと、村人たちは各々違った反応を見せた。

ある者は賛成し、また別の人は反対意見を出すこともあった。

そういう人は賛成派の筆頭になってくれていたタンザの説得と、この村に留まることがどれだけ危険かを説明してなんとか納得してもらったよ。

「頼むぞ、コーラル。無事にこの人たちをカルサイトまで運んでくれ」

『ふんっ。荷車を引く馬のような気分だが、主の命令だ。仕方あるまい』

「そんなこと言わないでください。無事に向こうに着いたら、いっぱい抱きしめてあげますから!」

 不貞腐れるような様子のコーラルを元気付けるのは、村人たちと一緒に背中に乗るフィーリネだ。

 村人を向こうに運んで終わりと言うわけにはいかないからな。効率的に作業を進めるためにも、カルサイトに一人くらいはいたほうが良い。

 そんなゾイトの提案で、選ばれたフィーリネがカルサイトに向かうことになったのだ。

『……抱きしめられても嬉しくないのだが?』

「何か他のご褒美と言うことですか。けど、抱きしめること以外に何かありますか?」

 首をかしげて俺に助けを求めるフィーリネ。

 俺に聞かれても、正直コーラル本人でもなければドラゴンでもないからな。コイツが喜ぶようなことを知らない俺としては、的確な助言はできそうに無い。

 少しの間、無い頭を使って考え抜いた結果、

「……フィーリネちゃんがされて嬉しいことをすればいいんじゃないか?」

「私がされて嬉しいことですが? ――やっぱり、抱きしめるのが……」

『それ以外で頼む!』

 どうやらコーラルはフィーリネに抱かれることがとにかく苦手らしい。

 必死な形相で叫ぶか姿にフィーリネも言葉を詰まらせてから、こめかみに指を当てて唸り始めた。それから少し経ってから何かしら閃いたのだろう。

 一度俺に視線を向けると、若干頬を染めてから俯いた。

「私が、されて嬉しいこと――」

 短く呟くと、彼女はコーラルの頭に手を添えると優しくその額を撫でた。

「……これなら、どうですか?」

『……まぁ、良かろう』

 色々考えた結果、頭を撫でることに落ち着いたようである。コーラルもそれを嫌がっていないようだから問題もないはずだ。

 何で俺を一度見てから行動に移したのかとか、何故頬を赤く染めなければいけないのかだとか。聞きたいことはあるが、収まるところに収まったのだから良しとしよう。

 そんな一人と一匹を見据えながら微笑むと

「じゃあ、頼んだからな」

『頼まれたからには無事に終わらせよう』

 そう口にして、コーラルは多数の村人とフィーリネを背に乗せて飛び立っていった。

 流石はドラゴンと言うべきか。背中に荷物を載せていたとしても、それを感じさせないほど力強く翼を羽ばたかせてあっという間に姿を消していった。

「これなら、割とすぐに終わるかもしれないな」

「甘いな。物事が自分たちにとって良い方へ向かっているときほど油断は禁物だ」

 俺の独り言に答えたのはゾイトだ。

 彼女も飛び立っていったコーラルを見送っていたが、飛び立っていった大きな影が見えなくなると、踵を返して西の森の方角へと歩き出した。

 だが、少し歩いてから立ち止まると、振り向いて

「貴様も来い。支度をするぞ。女の私にだけ、魔物の相手をさせるつもりか?」

「よく言うよ。お前なら、よっぽどの化け物じゃなければ遅れはとらないはずじゃないか」

「ふんっ。場合が場合だ。今回は、もしかしたら連中の言う『あの方』とやらが姿を現すかもしれん。癪だが、ボクだけじゃ村人を守りきれない」

「素直に一緒に戦って欲しいって言えば良いじゃないか……」

 小さくこぼしてみれば、その嘆息交じりの本音が聞こえたのだろう。

 ゾイトは手のひらをこちらに向けると、何の合図も無しに容赦なく火球を放ってきた。

「うおっ!?」

 咄嗟のことに横に飛び退くと、俺の立っていた地面が脚力のせいで深く抉り取られ、その場所に火球が着弾。見るも無残な光景に変化した。

「あ、危ねぇなっ!」

「無事に避けられたんだ、文句を言うな。――言っておくが、ボクはお前がいて欲しいとは微塵も思っていない。必要なのは、魔物と渡り合える戦力だ。勘違いするなよ?」

「……へーへー、分かりましたよ」

 肩をすくめて答えてからゆっくりとした動作で彼女の隣に移動。

 それからゾイトの肩に手を添えると

「心配しなくても、俺だってそのつもりで残ってるんだ」

「だったらさっさと行動しろ。抑止力が消えた今、この村は魔物にとっては餌の宝庫だ。こうして無駄口叩いている間にも――」

 呆れたように言葉を発していたゾイトの声を遮るようにして聞こえてきたのは、獅子の雄叫びのようなものだった。

 方角からして、俺たちが向かおうとしていた西の森がある方向だ。

「――魔物がやってくるかもしれない、だろ?」

「分かってるなら、さっさと行くぞ? 奴らはご丁寧に待ってはくれないんだからな」

 ゾイトは肩に乗った俺の手を払いのけると、森へと歩き出した。

 そんな彼女を追ってみると、ゾイトはルステルと西の森のちょうど境目。

 最初にオークたちと出会った小さな広場で立ち止まると、振り向き顎で俺を呼ぶ。

「何だよ?」

「貴様の持ち場はここだ」

「つまり、俺が殿ってことか」

「あぁ。悔しいが、パーティで一番の火力を持つのは貴様だ。その戦力を村人の傍に置いておくのは愚作だからな」

 そういって、ゾイトは再び踵を返して村のほうへと戻っていく。

 おそらくは彼女は後衛に回り、俺が討ち漏らした魔物の討伐に専念してくれるのだろう。

「……何も言わないんだな」

「パーティの中で一番頭が回るのはお前だしな。そのお前がこうしたほうが良いって言うのなら、俺はそれに従うだけだ」

「……ボクは貴様に大量の魔物を相手にしろって言っているんだぞ?」

「何だ、心配してくれてるのか?」

 悪戯な笑みを浮かべて問いかけてみれば、彼女は何も答えないまま歩き出した。

 大量の魔物を一人で相手にする。それがどれだけ危険なことかというのが分からないわけじゃない。

 だからこそ、ゾイトは責任を若干とはいえ感じていた。それが結果的に、先の質問をすることにつながったんだろう。

「とにかく、やってくる化け物を全部倒せばいいわけだな。簡潔で分かりやすい、俺向きの仕事だ。お前が気にする必要は無いからな!」

「……べ、別に、気にしてなどいない!」

 少しでもゾイトの抱えた責任が軽くなればとも思ったけど、余計なお世話だったようだ。

 いつも通り吐き捨てるように強く返って来た言葉に苦笑を浮かべて、その場で反転して森のほうを見据えると

「ゾイト、討ち漏らした奴の対処もそうだけど――死ぬなよ?」

「……貴様こそ、変に格好つけているくせに無様に死を晒したら許さないからな」

 交わした言葉はそれだけだった、

 背後から聞こえてくる足音が遠ざかっていき、やがて完全に聞こえなくなったことを確認してから、俺は拳と拳を胸の前で合わせる。

「相手さんの登場か……」

 目を凝らしてみれば、何本も生えた木々の間から見える数々の輝き。

 大きいものから小さいものまで。色も違って見えるそれらが近づいてくるにつれて、何かの荒々しい息遣いや不気味な音が聞こえてくる。

「さて、お仕事の時間だ。……悪いけど、今回ばかりは好きに暴れさせてもらうからな。覚悟しろよ?」

 挑発にも似た言葉を口にして、俺はほくそ笑みながら森を睨みつけるのだった。
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