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幕間

不妊要件が最高裁で違憲判決。男性器つきで女湯に入れる?

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ここ何か月か、目まぐるしく忙しかった。

その何か月かのあいだに、いわゆる「LGBT」の問題で重大な事件が何件か起きていた。これらについて、まとまった文章を書くことが長い間できなかった。ゆえに、この記事でひとまとめにしてしまうことを読者に謝罪する――たいへん申し訳ありませんでした。

さて、その事件は主に以下の三つである。

まず七月十一日――経済産業省の越境性差トランスジェンダーが最高裁で勝訴した。つまり、「きんたまキラキラ金曜日」だの「ちんちんふらふらフライデー」だのツィートしていた身体男性あのひとへの女子トイレ制限が違法とされたのだ。

次に十月十二日――静岡家庭裁判所浜松支部が、性別変更の不妊要件を憲法違反で無効だと判断した。結果、生殖器の手術を受けていない一人の身体女性が「男性」として認められる。

そして十月二十五日――最高裁判所が、性別変更の不妊要件は憲法違反だと判断した。

ここで一応おさらいしたい。性同一性障碍と診断された者が法的に性別を変更するためには、以下の要件を充たしていなければならない。

1.十八歳以上であること。(年齢要件)
2.婚姻を現にしていないこと。(未婚要件)
3.未成年の子供が現にいないこと。(未成年の子なし要件)
4.生殖能力を永久に欠くこと。(不妊要件)
5.移行する性別の性器に似た外観を備えていること。(外観要件)

最高裁判所は、不妊要件の存在を憲法違反であるとし、外観要件についての判断は高等裁判所に差し戻した。ただし、外観要件も違憲判決が出る可能性が高い。

なお、この二つの要件は男女で事情が違う。

身体女性の場合、手術をせずに性別変更が認められた事例が今までもあった。つまり、男性ホルモンの影響で肥大した陰核クリトリスが男性器に近似すると判断され(納得できない? 私もっ!)、かつ卵巣が永久に機能しなくなった場合だ。一方、身体男性の場合、睾丸を丸ごと失わない限りは女性器に似た外観を得ることは難しい。

外観要件も違憲となった場合、「男性器のある法的女性」が生まれる。そうなった場合――彼らは、女子トイレも女湯も入り放題になってしまうのだろうか。

結論だけ先に言うと、「少なくとも『入り放題』ということはない。だが、女性への危険が高まったことに変わりはない」。

理由を、七月と十月の最高裁判決について解説しながら述べる。なお、静岡家裁の審判は最高裁十月判決と重複する部分が多い。なので、十月判決の解説で少し言及するに留める。

まず、七月判決について。

基本的な確認だが、女子トイレを男性が使ってはいけないという法律はない。あるのは、住居侵入罪だ。つまり、男女別トイレ使用の基準は管理者の判断に任されている。使ってもいいと管理者が言ったなら使えるし、使うなと言ったなら使えない。

そして――原告には、女子トイレ使用の許可が最初から下りていた。

十年以上前――性同一性障碍であることを原告は職場に告げた。そして、女子トイレを使いたいという要望を出す。これを受け人事院は、彼が働いていた部署の職員にだけ事情を説明する。

説明を行なった職員によれば――このとき、何人かの女性職員が「違和感を抱いている見えた」という。なので、一つ上の階の女子トイレを使うことについてはどう思うかと問うた。すると、女性職員の一人が、その階のトイレを日常的に使っていると言った。

結果、二階離れた女子トイレ使という許可が原告に下りる。

つまり、「同じ部署の女性が日常的に使わない女子トイレならば使用していい」という基準が一応あったのだ。(顔見知りでなきゃいいという問題なのか? とは思う。)

これに対し、「女子トイレを階数で制限することは、『公務員の労働環境について国は適切に判断して処置すべし』という国家公務員法86条に反する」と訴えたのがこの裁判である。

結果、と最高裁は判断した。その理由は以下の通りである。

◉二階離れた女子トイレを使用していても今まで何も問題はなかった。
◉原告は男性機能が衰えており性暴力の可能性は低い。
◉同僚が違和感を抱いている「ように見えた」というだけでは真意は分からない。

よって、原告が働く階のトイレも使える――という判決が下された。

――納得がいかん! と思う人も多いだろう。(私もそうだ。)

実際、説明会のとき、女性職員たちの様子は普通ではなかったのだろう。直後に、別の階のトイレを使うことについて意見が求められ、一人が回答していることからもそれは判る。

だが――それは推察でしかない。恐らくは十年前にあったであろう「言葉なき言葉」が、法廷に差し出す根拠として脆弱なことは事実だ。実際、十年前の説明会以降、事情聴取が一度も行なわれていなかったことは判決文でも指摘され、問題視されている。

敗因の一つは、経済産業省の雑な対応だった。女性職員に匿名アンケートなどを行ない、多数の反対があった場合はまた違った可能性がある。

なお、この判決は、「心が女性だと言い張る全ての男性が女子トイレを使えるようになった」というものではない。判決文にも、「トランスジェンダーとトイレ利用の事情は個々人や職場によって多様であり、一律に決められるものではない」と書かれている。

そうであったとしても――この判決を皮切りに、身体男性に対する女子トイレ使用許可が全国の職場で下りる可能性が高い。

次に、十月二十五日に最高裁で出た判決について解説する。

判決理由を簡単に説明すると、こういうことである。

◉性同一性障碍っていうのも色々と変わってきたよねー。特例法、古いんじゃね?
◉LGBT理解増進法とか出来たし、社会も変わってきたよねー。男のお母さん・女のお父さんが登場しても受け入れられる頃合いなんじゃね?
◉子供を作ろうとする性同一性障碍者なんてそんなおらんだろ。それに、子供がいる性別変更者に問題が起きた話なんて聞いたことないし。
◉よって、不妊手術した・してないで幸せになる権利に差異はありません。違憲。
◉ただし、外観要件については高裁で審理されてなかったのでもう一度考え直して。ま、不妊要件と同じ理由で違憲だと思うけど。

ちょっと待て――と思う人もいるかもしれない。

「女性スペースの問題、どこ行った? 女子トイレや女湯に身体男性が入れるようになったらどうなるか――裁判官は考えなかったのか?」

それには、こう答える他にない。

「今回の裁判において、。少なくとも、裁判官は論点として認識していなかった。だからこそ、結論に至るプロセスにはそのことは書かれていない。ただし、結論のあと――補足的な説明では詳細に述べられている。」

そもそも――「特例法」とは何なのであろう。

生まれてから死ぬまで性別は変わらない。それは科学的事実だ。

――ならば、「性別が変わる」とは何なのか?

特例法第四条には、こうある。

「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、(明治二十九年法律第八十九号)、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。」

規定の適用に――という言葉はクセモノだ。

例えば、「男はこうするものとする」とか「女はこうするものとする」とかという言葉が、民法を始めとする法律・政令には出てくる(「夫」や「妻」でもいい)。それらの言葉に、移行後の性別の通りに運用するというのが特例法なのである。

当然、「性別が変わった」と国民を洗脳する法律ではない。

そして――「男は男湯に、女は女湯に入るべし」などという法律は「ない」。それは、トイレや更衣室といった男女別スペースも同じだ。何度も言う通り、管理者が入ってもいいと言ったら入れるが、入ってはいけないと言ったら入れない。

分かりやすく図にすれば、こうなる。


つまり、「ここは女性用トイレです」とか「〇〇歳以上の男児は入浴をお断りしています」とかという規定・その適用は管理者の権限であり――「民法その他の法令の規定の適用」ではない。

――理解していただけただろうか?

特例法とは、様々な効力を持つ法令に書かれた「男女」の言葉を越境できる法だ。逆に言えば、書かれていない事柄については越境できない。事実、性別など生まれてから死ぬまで――いや死んだ後でさえも変わらない。その事実は、国会議員も政府も裁判官も承知なのである。

では、客観的に言って男性である者に女性スペースを使う権利があるかと言えば――実はない。

それは、。言うなれば性別適合手術とは「外科的女装」であり、「戸籍変更」とは「法的女装」なのだ。実は女装の一種でしかない手術・戸籍変更を行なったところで、管理者が許さない限りは女性スペースを使用する権利はない。

女装女装と言って当事者には申し訳ない。だが、バッサリ事実を言うとそうなる。

ここから私は、法的異性装にまつわる言葉に〈〉を使用する。たとえば「〈女性〉」という言葉を使用していたならば、それは「法的に女装している」という意味で理解してほしい。

これらの前置きをした上で、判決理由について解説したい。

最高裁は指摘する――特例法の主な目的は、「性同一性障碍への治療の効果を高めること」「社会的な不利益を解消すること」だと。そして、治療の効果を高める権利・社会的不利益を解消する権利は、手術をしようとしまいと変わりないと言うのである。

「いや違う!」と思う人がいるかもしれない。「特例法は、手術を受けた人が社会生活を円滑に送れるようにするためのものだ!」と。

しかし、それは正確ではない。実際は「性同一性障碍の苦痛を軽減するためのもの」だ。

もっと言えば、「手術を受けた人のためのもの」という認識はものである。このことは、決定文でも詳細に述べられている。(それどころか――四年前から最高裁はこれを問題視し続けてきた。)

特例法制定当時、不妊手術は最後の治療だった。精神療法を受けても、ホルモン療法を受けても、乳房切除などの手術を受けても――なお不愉快感が残る場合に、性器整形・不妊手術を行なうものとされていた。しかし、それを経てもなお不愉快感が残る者に――〈性別変更〉というが認められたのである。言うなれば、性別適合手術は最後から二番目の治療となった。

ところが――特例法制定の二年後(二〇〇五年)、日本精神神経学会が治療基準ガイドラインを変更する。つまり、(精神療法を除いて)どのような順序で治療を行なってもよいとしたのだ。これは、どのような部分から不愉快感を覚えるのか患者ごとに違うという事情を反映したものである。

つまり、「手術を済ませた人のためのもの」という言葉は、「性同一性障碍の苦痛を軽減させるために、このような順序の治療と特例法がある」という十八年前までの認識に基づいている。

なお、今回の違憲判決を受け、「性同一性障碍と違ってトランスジェンダーは――」といきどおる人が散見された。だが、性同一性障碍の診断を原告は受けている。これは、病気の内容が変わってしまったことをかんがみての判決なのだ。

そして、二〇二二年――性同一性障碍が消滅した。精神障碍でも身体障碍でもない「性別不合/性別違和」となった。ここには、身体を変えようとしない人々も含まれている。

だが。

いかに、「性同一性障碍の苦痛を緩和させるため」といえど、誰にでも〈性別変更〉を許しては社会が混乱してしまう。ゆえに、複数の条件がつけられた。

そのうちの一つが不妊要件だ。

不妊要件がある理由は、「男の〈母親〉・女の〈父親〉」が現れることで社会を混乱させないためだ(実は、女性スペースを守るためではない)。ゆえに、今回の裁判では、「男の〈母親〉・女の〈父親〉」の存在を許さない、その理由は正当なものか?」が最大の論点となった。

そして――「正当なものである」と判断されていた。

不妊要件に対する訴訟が起きたのは今回が初めてではない。四年前――二〇一九年にも最高裁で争われた。当然、合憲判決が下りた。その理由は以下の通りだ。

◉親子関係などに関する問題が生じ、社会が混乱しかねない。
◉急激な変化を避けるための配慮と考えられ、相応の措置である。
◉ただし、社会的な状況の変化により変わり得るものであり、不断の検討が必要である。
◉よって、現時点(二〇一九年)では違憲ではない。

一言で言えば、「今はまだそのときではない」である。

ちなみに判決文を読むと、四年前の時点で最高裁は違憲判決を出したくてウズウズしていたことが分かる。要約すれば、「〈性別変更〉は重要な社会的利益であり、不妊化手術は身体への強度の侵襲である。一部の当事者は、不利益を受け続けるか不妊化するかの選択を迫られている」と。

これらの言葉は、今回の決定文でも述べられている。(一方、女性スペースの問題は二〇一九年の判決において完全にスルーされている。その理由は皆まで言うまい。)

つまり、「四年前までは合憲だったが、今年になって違憲になった理由」は、「四年前とは状況が違ってきたと判断されたから」である。

決定文では、特例法制定以降、民間団体や行政などが理解増進のために行なってきた様々な取り組みが挙げられていた――当然、今年の六月に成立したLGBT理解増進法も。

というより、最も大きな理由は理解増進法に違いない。

実は――今回の判決の十日以上前から、違憲判決が間違いなく出ることを私は予測していた。

なぜならば、静岡家裁の審判があったからだ。

静岡家裁の審判では、二〇一九年にも最高裁が指摘した問題点が大よそ述べられていた。そして、社会情勢の変化について述べ、LGBT理解増進法の成立を挙げ、第一条を丸ごと引用し、第三条から第五条までの内容を挙げ、「急激な変化に対する配慮」の必要がなくなったと判断していたのである。

二〇一九年の最高裁判決は、違憲判決を出したくてウズウズしていた。ならば――今回の判決が、二〇一九年の判決や静岡家裁の審判と同じ理由を挙げた後、LGBT理解増進法を理由として「社会の理解が進んだ」と結論することは目に見えていたのである。

――そして。

今回の最高裁判決では、「男の〈母親〉・女の〈父親〉」が現れても混乱しない理由として、私すら困惑した理由が挙げられていた。

つまり――。

1.性同一性障碍の当事者が少ないこと。
2.自らの生殖器で子供を作りたい当事者はさらに少ないであろうこと。
3.二〇〇八年の特例法改正で、「子なし要件」が「未成年の子なし要件」に変わり、「男の〈母親〉・女の〈父親〉」が現れたが、親子関係に混乱が生まれたことは窺われないこと。

私が「?????」となってしまったのは「3」だ。

――今のところ親子関係が混乱していないのは、子供が成人しているからではないのか!?

特例法には、「未成年の子供が現にいないこと」という条件がある。それは、父親が〈母親〉に変わったり、母親が〈父親〉に変わったりして、幼い子供に混乱を与えないための措置だ。

例えば、「女の〈父親〉」が子供を産んだ場合はどうなのか。少なくとも十八年間は未成年の子である。その子供は、どう考えても母親でしかない(そして女性でしかない)〈父親〉に育てられることとなる。それで親子関係は本当に混乱しないのか?

そのことについて、ある人に訊ねたところ、「親子関係の混乱とは、法的な関係のことだ」と言われた。つまり、子供が抱く混乱や、そんな親子を取り巻く人々の混乱のことではないという。

実際、〈性別が変わった〉事実は戸籍に明記されている。それを参照すれば、親子関係に何があったのか一目瞭然だ。なるほど、たしかに「法的には」混乱は生じない。

ここまで来て――私は気づいた。

――「未成年の子なし要件」にも間違いなく違憲判決が下る。

そうでなければ――国会で廃止されるだろう。

「未成年の子なし要件」にも違憲訴訟が起きている。二〇二一年には最高裁判所で合憲判決が出た。その理由には、「子供への情緒的影響・親子関係の混乱」が挙げられていた。

ただし、性別適合手術は未成年の子供がいてもできる。なので、全ての治療を終えた者に〈戸籍変更〉を許すだけだという論も成立する。ゆえに違憲である可能性が判決文には書かれていた。

不妊要件が違憲であることは、未成年の子なし要件が合憲であることと矛盾する。何しろ、「女の〈父親〉」が出産した場合、未成年の子を持つ〈性別変更者〉が生まれてしまうのだ。このことを、裁判官たちが理解していないはずがない(将来的に「未成年の子なし要件」に違憲判決が出た場合、「情緒的影響・親子関係の混乱」を否定するために理解増進法が使われるだろう)。

私見ではあるが――「未成年の子なし要件」の撤廃は、「既にいる『未成年の子を持つ当事者』に〈性別変更〉を許すだけ」ではとどまらない。個々人の性同一性(性自認)は、社会的な制度や雰囲気・さらには年齢によっても変化し得るからだ。

特例法が制定された当時、当事者の数は2,600人程度だった。うち身体男性2,000人・身体女性600人である――女性は男性の三分の一だ。ところが二〇一五年の調査では、当事者の数は22,000人を超え、身体男性7,700人(34%)・身体女性15,000人(66%)となった。全体の数だけでも10倍近く増えているのだが、女性当事者の数は25倍も増えてしまっている。

また、結婚も出産もした後で「性同一性障碍であることに気づいた」例などいくらでもある。性的指向にしろ、男性当事者の半数近くが「レズビアン」であると言われる。

では――〈性別変更〉に手術要件がなく、未成年の子なし要件もないというのであれば(そんなにも簡単に〈性別を変えられる〉というのであれば)、自分もまた治療を受けて〈性別変更〉したいという子持ちの親も増えてくるのではないか。

以上が、おおよその判決の理由である。

さて――女性スペースとの関係について裁判官はどう述べているのであろうか。

先に述べた通り、〈性別を変更〉したとしても、女性スペースを使えるようになる権利は生まれない。それは、今までもそうだった。ただ――曖昧にされてきただけだ。

この問題について、裁判官たちは結論の後で述べている。要約すると次の通りだ。

◉身体的特徴で浴場を分けることは当然である。そのための法律も通達も既に存在している。
◉他者の性器を女子トイレで見ることはまずないのだから、不妊要件とは関係ない。個々人の事情に応じて多様な対応を取るべきである。

まず、公衆浴場や旅館に関する措置は、法律や条例などによって定められており、具体的な内容は事業者が実施するものとされている。例えば、公衆浴場法の規定は次の通りだ。

【公衆浴場法】(傍点・カッコ内のカナ著者)
第三条 一項 営業者は、公衆浴場について、換気、採光、照明、保温及び清潔その他入浴者のに必要な措置を講じなければならない。
第五条 一項 入浴者は、公衆浴場において、浴そう内を著しく不潔にし、その他(オソレ)
二項 営業者又は公衆浴場の管理者は、前項の行為をする者に対して、その行為を制止しなければならない。

ここでいう「公衆衛生」とは、精神衛生も含まれる。

また、旅館業法にも同様の規定がある。この二つの法律にもとづいて詳細化された条例には、厚生労働大臣が「技術的な助言」を行なえるものと定められている。

そして、二〇〇〇年――「おおむね七歳以上の男女を混浴させないこと」という通達を厚生労働省は出した。今年の六月二十三日(つまりは理解増進法が施行された日)には、先の通達について、「ここでいう『男女』とは『身体的特徴』で判断してください」という通達を出している。

このような通達を国が出したことは、「〈男性器ある女性〉は女湯には入れません」と公衆浴場や旅館の経営者がキッパリ言える根拠を出したということなのだ。

また、判決文には次の一文がある。

「このような浴室の区分は、風紀を維持し、利用者が羞恥を感じることなく安心して利用できる環境を確保するものと解されるが、これは、各事業者の措置によって具体的に規律されるものであり、それ自体は、(特例法4条1項参照)。」

また、こうも言っている。

「5号規定は、この規範を前提として性別変更審判の要件を規定するものであり、5号規定がその規範を定めているわけではない。」

ようするに、「女湯に入ることがあるかもしらんからチンコ取らなきゃ〈女〉になれなかったけど、〈チンコのある女〉が生まれたとしても女湯に入っていいってルールが作られるわけじゃないよ」ということである。

読者の中にも薄々気づいている人がいるかもしれない。裁判官たちは、〈法的女性〉のことを明らかに女性と思っていない。それは、「男である母親」だの「身体的な外観に基づく男女の区分には相当な理由がある」だのとミスジェンダリング発言が頻発することからも分かる。

一方、女子トイレはどうなのであろうか。

先に述べた通り、「性器が見えるわけではないので今回の件とは関係がない」というのが裁判官の見解だ。「トイレの使用については個々人で事情が違い、学校・企業・公衆トイレなどの施設ごとでも事情が違うので、それぞれに応じた措置が必要である」――と。

これ以上のことは特に述べられていない。

だが――どうなるのだろう。

これは、身分証明書に書かれている性別に信頼がなくなったということなのだ。

例えば、男性と思しき人が女子トイレに入ってきたとしよう。その人を捕らえて詰問したとき、今までは、「少なくとも男性器のないこと」が身分証明書から分かった(「男性器がなければ問題がない」という話でもないのだが)。しかし、これからはそれができなくなるのだ。

一方で、こうも思う。

――「男性と思しき人」を、一般的な女性利用者が捕らえて詰問できるのか?

恐らくは、「怖くて何もできない」という人が大勢ではないだろうか。となれば、施設の従業員か警察官にやってもらうしかない。その場合、より詳しい事情を聴き出すこともできる。

これは今まで通りの防犯の問題なんですよ――ということを、ある人は言った。男性器がないからといって信頼はない。また、そのような人が女性スペースにいること自体、女性の安全を脅かしていることに変わりはない。女性スペース内で不審者を見かけたら、安全な場所にまず避難し、管理者や警察を呼ぶしかないのだ――と。

――やはり、それしかないのか。

このような判決を下した裁判官と、理解増進法を作った者には怒りしかない。

だからこそ、はっきりと認識しなければならない――たとえ〈女性〉になったからといって、女性スペースを使う権利などやはりないのだと。そのことについては次回に詳細を述べる。
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