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「〈法的性別〉を変えても性別は変わらない。」ここに立ち返るべし!

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男性器を取っても、男性の身体的特徴は変わらない。骨格や体格――身長・肩幅・腰幅・頭や頸の長さも。もし読者が男性ならば、自分が性転換したところを想像してほしい。はたして、それで女子トイレに入れるだろうか――。

では。

女装した男性が女子トイレに入る。彼が「犯罪目的の男性」なのか「心が女性の男性」なのか分からない。少なくとも今までは、「性器があるか/ないか」が身分証から分かっていた。しかし外観要件に違憲判決が下った場合、それが出来なくなる。

これを解決するため、女性スペースには女性しか入れないという法律が作られる可能性がある。

しかし〈男性器のある女性〉が生まれる以上、法律に定義される「女性」とは生物学的女性しかない。そうなると、男性器のない〈法的女性〉も女性スペースから締め出される。抵抗を覚える人もいるだろう。なので、「身体的特徴で分けること」と曖昧化されるかもしれない。

立法に向けた議員連盟もある。

六月十六日(つまり理解増進法が可決された日)、女性スペースや女子スポーツを守る法律を作るための議員連盟が立ち上がった。七月二十日、加盟議員は百名を超えたと報じられる。報道によれば、女性スペースの利用・女子スポーツへの参加は「に限る」ための措置に取り組むという。


『「自民女性を守る議連」100人突破、全メンバー 専用スペース「生来の女性に」』
https://www.sankei.com/article/20230720-XRFN6XUMKBOUDDUOTX3UTMKOUM/

しかし、疑問に思う人もいるはずだ。「性自認は認めます。ただし女性スペースには入れません。」――そんな世界が本当に実現するのか? と。

だが、そもそもではないか。

前回も書いた通り、男女別スペースの運用は施設の管理者に任されている。たとえ〈法的女性〉と言えど、管理者が入るなと言ったら入れない。生得的女性であっても、問題行動のある人は出禁にできることと同じだ。管理人の制止に反して入ったら住居侵入罪である。

特例法とは、。男女を意味する言葉が法律・政令に出てきた場合、その文字を越境トランスして適用するという法律である。

「男女を意味する言葉や文字」は性差ジェンダーであって性別セックスではない。越境トランスできる文字ジェンダーが法令にない場合、「性別が変わったと見なす」義務は誰にもない。女性スペースに関する法令がない以上、生物学的男性をどう扱うかは管理者次第だ。

実際、性別セックスは変えられない。女性ホルモンを打とうと男性器を切ろうと、体格は変わらず、月経も来ず、全身にあるSRY(Y染色体にある Sex 決定 Region 領域 ) 遺伝子も消えない。

変わるのは〈法令上の性差ジェンダー〉だ。このような形にすることにより、法令にない男女別スペースの扱いは巧妙に避けた。さらには、女子差別撤廃条約との矛盾も避けたのである。

――女子差別撤廃条約。

この条約は、正式には「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」という。一九七九年(昭和五十四年)に国際連合で採択され、一九八一年(昭和五十六年)発効した。我が国も一九八五年(昭和六十年)に批准している。先進国中、批准していないのはアメリカだけだ。

女子差別撤廃条約・第一条にはこうある。

「この条約の適用上、『女性に対する差別』とは生物学的性に基づく区別・排除・制限である。すなわち、政治的・経済的・社会的・文化的・その他の分野における(婚姻の有無に拘わらず)男女平等を基礎とする女子の人権と基本的自由の承認・享有・行使を損ない、あるいは無効にする効果・目的を持つものをいう。」(千石試訳)

この条約は、アラビア語・中国語・英語・フランス語・ロシア語・スペイン語を正文とする。英語版から第一条を引用すると次の通りだ。

"For the purposes of the present Convention, the term 'discrimination against women' shall mean any distinction, exclusion or restriction made on the basis of sex which has the effect or purpose of impairing or nullifying the recognition, enjoyment or exercise by women, irrespective of their marital status, on a basis of equality of men and women, of human rights and fundamental freedoms in the political, economic, social, cultural, civil or any other field."

「生物学的性に基づく」は私の意訳だ。内閣府は「性に基づく」と訳している。だが、原文は "basis of sex" ―― "sex" なのだから「生物学的性」と判断するしかない。実際、「女性差別とは性別に基づく差別である」という日本語では小泉進次郎構文である。

女子差別撤廃条約は、女性差別の撤廃、女性の人権・尊厳・自由の遵守、人権侵害や困窮からの女性保護を、「あらゆる適当な政策によって」遅滞なく実現するよう締結国に課すものだ。

――特に。

第二条では、「差別とからも効果的に女性を保護すること」が定められており、あらゆる手段を講じることが求められている。

また、日本国憲法第十章「最高法規」には、条約の遵守についての規定がある。

日本国憲法九十八条 第二項「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」

つまり、女子差別撤廃条約には憲法や国内法と同じ効力を持っている。

もし生物学的男性を「女性」として定義した場合、「女性に対する差別とは sex に基づくものである」と定義した女子差別撤廃条約と矛盾が生まれる。

そして、女子差別撤廃条約にある「差別と行為」とは、女性に対する暴力・性加害・性搾取なども当然さす。言うなれば、女性スペースの保全は女子差別撤廃条約の要請だ。それは、生物学的女性への保護であり、生物学的男性への保護ではない。

さて。

女子差別撤廃条約は、アメリカを除く全ての先進諸国が批准している。では、手術なしで〈性別変更〉を許可したヨーロッパ諸国は、女子差別撤廃条約とどう折り合いをつけたのだろう?

ここで、「言葉の手品」が使われた。

前回――「〈法的〉とは法的女装であり、適合手術とは外科的女装である」と私は書いた。実は、点を打ったこの「」という言葉は、英語では "Genderジェンダー" なのだ。

"Genderジェンダー" という英単語には、「社会性差」「性差」「」などの意味がある。これは、"Genderジェンダー" と "Genreジャンル" の語源が同じだと考えればイメージしやすい。つまり、性差に基づく分類くくりだ。

「性別適合手術」は "Gender-affirmingジェンダー゠アファーミング surgeryサージャリィ" であり、実際は「性差ジェンダー適合手術」である。「性自認/性同一性」も "Genderジェンダー identityアイデンティティ"、「性差ジェンダー同一性」と訳せば現状により適する。

そしてヨーロッパ諸国は、"Genderジェンダー" に当たる言葉を「性別」という意味で遣い、「性別ジェンダーを変える法律は作ったが性別セックスは変わらない」という手品を行なった。

例えば、イギリスの〈性別変更〉法は "Gender Recognition Act" —―直訳すれば「性別ジェンダー認定法」だ。これは、様々な条件(制定当初から手術要件はない)を充たした者が「性別ジェンダー認定証明書」を申請できるというものである。

また、二〇一〇年にはイギリスで「平等法」が成立した。そこでは、不平等を撤廃すべき事柄が九つ挙げられている。「妊娠・出産・育児」、「婚姻・同性婚」、「宗教・信条」、「性的指向」、「障碍」、「年齢」、「人種」、「ジェンダー適合」、「性別セックス」。――ジェンダー適合と性別セックスは別の扱いだ。

それはドイツも同じである。

ドイツの〈性別変更〉法は、"Gesetz über die Änderung der Vornamen und die Feststellung der Geschlechtszugehörigkeit in besonderen Fällen" ――直訳すれば「特別な場合における名前の変更および性別ジェンダーの承認に関する法律」となる。内容は、「性転換トランスセクシュアル的特徴を持つ人」の "Geschlechtゲシュレヒト"(Gender) を変更することができるというものだ。

つまり〈法的性別〉とは性差ジェンダーである。我が国の特例法も同じだ。

性差ジェンダーを基に女性を装うことを「女装」という。どう女装しても男性は男性だ。法的性別変更者トランスジェンダーであっても、生物学的女性を保護する領域に入ることは許されない――生物学的女性への保護を要請した女子差別撤廃条約に反する。

では――なぜ、女性スペースへの侵掠しんりゃくは世界中で問題となっているのか。

一つは、この問題が顕在化しているのは、女子差別撤廃条約に批准していないアメリカが主であること。もう一つは、女性スペースに「入れさせろ」と主張する運動が十数年の間で過激化してきたことである――結果、施設の管理者が、入れるよう指示する事例が増えてしまった。

だが、それも見直されつつある――女性スペースに男性を入れたらどうなるかという当然のことが認知されてきたからだ。手術要件の撤廃を遅らせてきた我が国は、女子差別撤廃条約遵守の流れにすぐ乗る可能性が高い。

最初に舵を切ったのはイギリスだ。

二〇二二年・七月、連合王国政府は、(イングランド限定ではあるが)新しい施設を造る場合は男女別トイレを設けるよう指示した。

今年の四月には、連合王国政府内において、女性の定義を「生物学的性」と明記化することが検討されていると報じられた。このことについて、ケミ゠バデノック女性・平等担当大臣は、内閣府に設置されている平等人権委員会に意見を求めているという。

十月四日には、リシ゠スナク首相が、「なりたい性別(sex)になれると信じ込まされるべきではない。できるわけがないのだ。男は男で、女は女だ」と保守党大会の閉会演説で発言する。

ところで。

――理解増進法成立から違憲判決までの流れは、妙にテンポがよくなかったか?

【二〇二二年】
一月一日 
十二月七日 不妊要件訴訟が最高裁
【二〇二三年】
二月四日 荒井秘書官による「不適切」発言。
二月七日 岸田首相、LGBT
五月十八日 理解増進法
六月十六日 理解増進法。女性スペースを守る議員連盟が立ち上がる。
六月二十三日 理解増進法公布・
七月十一日 トイレ訴訟が最高裁で逆転判決。
十月十二日 静岡家裁審判。
十月二十五日 不妊要件が最高裁で

大法廷での審議は、それまでの決定が覆る可能性が高いことを意味した。見ての通り、回付は昨年の十二月だ。しかも、違憲判決が下った理由は「社会情勢が変わった」からであり、理解増進法が成立したからである。というより――。

違憲判決を出すために理解増進法を通した――ようにも見えるのだ。

実際、理解増進法の可決―施行までの期間は、あまりにも短すぎる。最高裁判決にしろ、当初は「今年中に」という話だったはずだ。

陰謀論的な考え方はあまり好きではない。

だが、一連の流れが予定調和によるものならば、大よそ二つのシナリオが考えられる。

一つは、性自認主義による我が国への侵掠が一斉に始まる未来。もう一つは、理解増進法の成立と同時ともに議連が立ち上がることや、「生来の女性に限る措置」のための取り組みが始まることも既定路線だったという筋書き。

実際、外観要件にも違憲判決が下る可能性が高い。最高裁が差し戻した理由は、「高裁で審議されていなかったから」だ。審議されていたならば違憲判決が出ていた。それは、決定文を読めば一目瞭然だ。

外観要件への違憲判決が既定路線なら、それを阻止するより、女性スペース保全に全力を賭けるべきだ――女性スペースは今も侵掠されているのだから。

しかし――と思う人もいるかもしれない。

「生来の女性に限る措置って――要するに、性器整形手術を済ませた〈法的女性〉も女性スペースから締め出すってことだよね? でも、ある人まで締め出すのは少し酷では? 彼らの中には、本当の意味で『心が女性』の人もいるかもしれないのに?」

実を言うと、少し前までは私も近い考えだった。「手術するほど性別違和が激しい人まで、いかなる場合においても締め出すのはいかがなものか?」と。

その考えは一年前から少しずつ揺らぎ、理解増進法成立後に激しく揺籃し、十月に入る頃には完全に変わった。今は、「女性スペースを使用する権利はどんな男性にもない」という結論に着地している。

転向した理由は主に二つある。

第一に、埋没などほとんど不可能だからだ。

身近な男性を何人か思い浮かべてほしい。彼らが女性ホルモンを打ち、顔立ちが女性的となり、男性器を切除したとして――「この人なら女性スペースに入っても問題はない」と思える人がどれだけいるだろうか?

大抵の場合、体格で無理だろう。「男性器がなければ問題がない」という話ではない。

実際、私が知る〈法的女性〉の中に、この人なら大丈夫だと思える人がいるかと言えば――難しい判断だと言わざるを得ない。

私の知る〈法的女性〉たちは、「特例法は埋没のための法律だ」と言う。外見も性器も変え、女性たちの中に「埋没」した上で、法的な性別も「埋没」するためのものだと。ただ、そのように主張する人に限って、ASDだったりADHDだったりする――ただでさえ自分を客観視できていない人たちだ。

第二に、性同一性障碍は消えた。

かつて私は、性同一性障碍と越境性差トランスジェンダーは区別するべきだと主張してきた。しかし二〇二二年の時点で、その必要性はなくなっていた――何しろ、越境性差トランスジェンダーという概念とほぼ等しい「性別不合/性別違和」に変わったのだから。

そして、旧・性同一性障碍に対する私の考えも変わった。

旧・性同一性障碍にしろ、性別違和/性別不合にしろ、科学的に何一つ解明されていない。

男女の脳に違いがあるのか/ないのかさえ科学は解明していない。それなのに、「この人は脳と体の性別が違います」などと――どうして証明できるのか。

旧・性同一性障碍の診断基準は、「他の性別へと体を変えたがること」だ。仮に、「性同一性障碍はある」「男女の脳に差は存在しない」と同時に主張したとしても矛盾はない。

当然、「心理的な性別を判定する心理テスト」も存在しない。

――それでも。

私は、「性同一性障碍は存在しない」とか「特例法廃止」とかという主張に対して、長いあいだ抵抗を感じてきた。

それは、私が受けてきた精神障碍者差別の記憶があったためだ。

以前にも書いた通り、私はかつて、統合失調症と強迫性障碍を併発していた。今でも、ADHDとASDを持っている。統合失調症と強迫性障碍だったころ、精神疾患を否定する差別に随分と遭った。中には、「うつ病は色々な種類があるらしいからねぇ」だの「そりゃ暇だからなるんや」だのと発言した者もいる。

統合失調症が寛解したあとは、「精神疾患など存在しない」と主張する者とネットで議論を交わしたこともある。その人は、「精神疾患は全て自己申告でしかない」「ただ、他人と変わった人でいいではないか」「精神科医は全て詐欺師だ」と主張していた。

性同一性障碍に対して、「そのような症状は全て自己申告でしかない」「陰茎を切ってもオスはオス」と主張する人たちは、彼らの姿と重なっていた。何しろ、「差別者である男が被差別者である女になれるのはおかしい」と主張する者もいたほどだ。

しかし、そんな彼らに嫌悪を感じつつ、やがて私も旧・性同一性障碍に疑問を抱いてゆく。

原因は、旧・性同一性障碍の当事者たちに、ASD・ADHDや、双極性障碍を併発した者が多すぎたためだ。私が実際に話した二、三十人ほどの当事者のうち、八割がたが何かしら抱えていた。

性別違和とASDの関連性はDSM-5でも指摘されている。欧米諸国の諸調査では、性別違和者の7~35%がASDの傾向を示していた。日本の発達障碍支援団体にも、性別違和との関連に気づいて対応を始めている所がある。(統計については本ノンフィクションの「発達障碍との関連性を考える」を参照のこと。)

恐らく、ADHDや双極性障碍などの精神障碍を含めて調査すれば、有病率はさらに跳ね上がるだろう。日本GID学会でも、当事者の四分の一が何かしらの精神疾患であると報告されている。

双極性障碍(躁うつ病)やうつ病に対して多い誤解は、「辛い目に遭ったから発症する」というものだ。しかし、そうではない。原因は、脳内の物質の異常である。ましてやASD・ADHDは先天的な問題だ。

では――ASDひとつ取ってみても、全人口の5%程度しかいないはずなのに、性別違和者とここまで重なってしまうのはなぜなのか。

それは、性的指向の面でも同じだ。

私が出会った〈法的女性〉の多くは女性も性愛の対象となった。特例法成立の功労者である山本蘭も、自分の周りにいる男性当事者の半数が女性も性的対象となると証言している。また、レズビアン゠コミュニティを荒らすMtF(男→女)が多いことは以前にも書いた通りだ。

同性゠両性愛女性など全人口中数パーセントしかいないはずなのに、なぜMtF(男→女)にはこんなにも多いのか――女性当事者たちは、十年以上前からその疑問を投げかけてきた。

そして、私が出会ってきたMtF(男→女)たちは、言動の面でも女性と思えなかった。

女性にしか処方されない種類のピルをなぜか持ち歩いている者もいた。躁症状を発して支離滅裂な言動を繰り返す者もいた。変態的な言動をブログに書き散らしていた者、手術をしてから心が女になったと言う者、「うんちしたい」などとやけに幼い言葉を遣う者――枚挙に暇がない。

そして、ここ何年か、MtF(男→女)たちに対する信頼は人々の間で急落した。

原因は、男性社会ホモソーシャルにおける彼らの言動ノリが、SNSなどを通してそのまま垂れ流しとなったためだ。女性とは思えない――むしろ女性蔑視的な彼らの言動については以前にも書いた通りである。中には、〈性別変更〉を済ませた者もいた。

特に、二〇二二年・十二月五日に起きた「スザンヌみさき」事件は人々を騒然とさせる。

「スザンヌみさき」は〈法的女性〉の You Tuber だ。

その日、「スザンヌみさき」は、「元男性が服を全部脱いで女湯に入ってきた結果」という動画をアップロードした。動画では、「おっぱい桃々ぷにぷに天国に入ってマシュマロぱいぱいを拝んできました」「本当に360度おっぱいいっぱいでパイオツ桃尻がひしめきあう世界でした」などと放言する。


――このような人と同じ風呂に入りたいと思う女性がどれだけいるのか?

そして、性同一性障碍は消滅した。精神障碍でもなければ身体障碍でもない「性別不合/性別違和」に変わった。それは、「障碍である」という医学的な見解が消滅したことを意味する。

「性別不合/性別違和」は、手術を望まないXジェンダーまで様々な人々を含む。これからは、この診断を受けた者が、性器を手術することなく〈法的性別〉を変えられるようになるのだ。

「それ何の意味があるの?」と思う人もいるだろう。

しかし――かもしれない。

旧・性同一性障碍は消滅し、越境性差トランスジェンダーとほぼ等しくなった。違憲判決が下り、特例法は改正を余儀なくされている。だが、〈法的性別〉を変えたところで女性スペースを使えるわけではない。そうなれば、この〈法的性別〉とやらは大して意味がないものだという事実が浮き彫りになる。

その事実が世間に周知されてゆくのが先だろうか。それとも、「生来の女性に限る措置」が立法されるのが先だろうか。どうあれ、我々がすべきことは、それまでに起きる混乱と、その被害を最小限に抑え込むことだ。

しかし――ここに来て混乱が起きている。

現在、反・性自認主義の人々は大よそ三分割されつつある。

ひとつは、「手術をしたなら女性スペースに入れる派」。もうひとつは、「手術をしたとしても女性スペースには入れない派」。最後は、その狭間はざまで動揺する人々だ。

変動の中、滝本太郎弁護士でさえも私は批判せざるを得なくなった。

今年の三月、滝本氏の提案に基づいて、「女性スペースを守る会」「性別不合当事者の会」「白百合の会」「平等社会実現の会」が「女性スペース/女子スポーツ保護法案」を独自に発表した。

『4団体は「女性スペースに関する法律案」「女子スポーツに関する法律案」を提案!』
https://note.com/sws_jp/n/n57203ac44b45

このとき、私はまだ「白百合の会」の会員であり(七月に退会)、滝本私案に賛同する一人となってしまったことをまず謝罪する。実際は、滝本私案は危険極まりないものだった。

というのは、「女性スペース保護法」滝本私案の第二条一項では、「女性とは、生物学的女性と〈法的女性〉を指す」と定義されているのだ。そして、女性スペースには「女性」しか入れないとした。


もし――この滝本私案が通ったあとで(通るわけがないのだが)違憲判決が出ていたならば、〈男性器のある女性〉を女性スペースに入れる根拠となってしまっていたはずだ。

実際、滝本私案が発表されたあと、滝本氏の元には非難が殺到した。「手術済みでも女性スペース使用を全面的に認めるのはおかしい」「女子差別撤廃条約に違反する」と。実際、「〈法的女性〉も女性として定義する」とは、「トランス女性は女性です」と言ったも同然だった。

しかし――〈法的女性〉を女性として定義したことを今もなお滝本氏は撤回していない。「そんなことより外観要件に対する違憲判決を止めることが先だ」と話を逸らしたり、「女子スポーツや女性スペースなどでそれぞれ違う女性の定義を作るべきだ」と投稿したりしている。そのたびに非難が殺到しているのだが、今のところ意見は変えていない。

少し前から、滝本氏の運動が微妙に変わってゆくのを感じていた。「女性スペースを守る運動」から、「特例法を守る運動」へとすり替わってきている。

だが、仕方ないかもしれない――手術要件に違憲判決が下るとは、特例法が骨抜きにされることを意味するのだから。
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