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彼女がいなくなった朝、机の上には何もなかった。
いつものように座ろうとして、ふと顔を上げたとき、目の前に誰もいない光景に、ようやく現実が追いついてきた。
昨日までは当たり前にいたはずの人が、
今日はもういない。
ただそれだけのことが、思っていた以上に堪えた。
空いた席を誰が埋めるのかは、まだ決まっていない。
けれど、どんな誰が座っても、あの時の空気はもう戻らないんだろうなとわかっている。
机をふくふりをして、なんとなく彼女のいた机の角にも手を伸ばす。
もう、そこに彼女はいないのに。
でも、そんなふうにしていると、まだどこかで「おつかれさまです」と声をかけられるような気がした。
思い返せば、何を話していたかなんて、
細かいことはあまり覚えていない。
けれど、その時間の温度だけは、不思議と残っている。
もっと話しておけばよかった、とは思わない。
だけど、あとほんの少しだけ──
たとえば1週間でも、近くにいられたらよかったなと、そう思ってしまう。
「じゃあね」も「またね」も、きっと彼女はあえて言わなかったんだろう。
それが彼女らしさだったし、そのほうがきっと、優しい。
今も、新しい部署で彼女は誰かと笑っているのかもしれない。
誰かとまた、冗談を交わしているのかもしれない。
その姿を思い浮かべて、「それでいい」と思える自分も、ここにいる。
関係に名前をつけなくても、なにかは確かにあった。
そんな気がする春の朝だった。
あの日々はもう戻っては来ない。
けれど、美しい思い出として残しておくのが幸せなのかもしれない。
いつものように座ろうとして、ふと顔を上げたとき、目の前に誰もいない光景に、ようやく現実が追いついてきた。
昨日までは当たり前にいたはずの人が、
今日はもういない。
ただそれだけのことが、思っていた以上に堪えた。
空いた席を誰が埋めるのかは、まだ決まっていない。
けれど、どんな誰が座っても、あの時の空気はもう戻らないんだろうなとわかっている。
机をふくふりをして、なんとなく彼女のいた机の角にも手を伸ばす。
もう、そこに彼女はいないのに。
でも、そんなふうにしていると、まだどこかで「おつかれさまです」と声をかけられるような気がした。
思い返せば、何を話していたかなんて、
細かいことはあまり覚えていない。
けれど、その時間の温度だけは、不思議と残っている。
もっと話しておけばよかった、とは思わない。
だけど、あとほんの少しだけ──
たとえば1週間でも、近くにいられたらよかったなと、そう思ってしまう。
「じゃあね」も「またね」も、きっと彼女はあえて言わなかったんだろう。
それが彼女らしさだったし、そのほうがきっと、優しい。
今も、新しい部署で彼女は誰かと笑っているのかもしれない。
誰かとまた、冗談を交わしているのかもしれない。
その姿を思い浮かべて、「それでいい」と思える自分も、ここにいる。
関係に名前をつけなくても、なにかは確かにあった。
そんな気がする春の朝だった。
あの日々はもう戻っては来ない。
けれど、美しい思い出として残しておくのが幸せなのかもしれない。
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