いつか灰になるまで

CazuSa

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ほんとう

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朝一で事務所に訪れると、鍵を開けてた。
最近では、事務所の依頼の受注や事務処理を夜尋が主に行うようになったため鍵を預かっていた。

倉庫に向かい、ドアを開ける。
埃っぽい室内には、依頼の詳細がまとめられたファイルや、お祓いに使う小道具なんかがまとめられて置いてある。

ドア側の壁には大きな本棚が3台程並んでいた。
手前にある呪術系の本棚を見つけると、手あたり次第に頁をめくる。

道具が手に入りやすく、なるべく効果が大きいものをと考えながら探していると意外と条件に合ったものはなかなか見つけられなかった。
どれぐらい、時間が経ったのだろう。

コンコン、とドアを叩く音が聞こえた。
バッとそちらに振り返る。
すると、事務所所属の霊能者、梧桐が倉庫の入口に寄り掛かるように立っていた。
全く気配に気づかなかった。

梧桐ゴトウさん…」

「何やってるんだ、お前」

慌てて本を閉じ後ろ手に隠した。

短く切られた髪に、眼鏡越しに鋭く光る瞳。
目つきが鋭くがたいが良いせいか、時々気質でないと思われるようで本人は気にしているが、性格は不器用ながら優しく面倒見が良い人だ。
だから、夜尋も梧桐には軽口を叩ける仲でもある。
しかし、今の梧桐は夜尋を怪しんでいるように冷たい眼差しで夜尋を見つめている。

「別に何も……」

「そういえば、祓いの依頼、請けたんだったか」

夜尋の言葉に全く聞いていないように梧桐は言った。

「妙な気を起こすなよ」

ドキリと心臓が跳ねた。
もしかして、梧桐は夜尋が何をしようとしているのか気づいているんじゃないのか。
そう思うと、自分が悪さを企てているような気分になり、梧桐と目を合わせることができなかった。。

「妙な気って、なんですかいきなり」

茶化すように笑って、平静を装う。
心臓がバクバクと大きな音を立てて波打っている。

「それよりも、何か用でもあったんですか?」

夜尋の問いに梧桐は答えず、ため息を吐くと頭を掻いてこちらに倉庫に入ってくる。

「ただの依頼の確認だよ。俺の机に依頼書がなかったから探しに来ただけだ」

そう言って夜尋の前を通りすぎると、奥にあるファイルが入っている棚の前に行き目的の依頼書がないか探しはじめた。
その様子をじっと見ていた夜尋に気づいたのかいないのか、ファイルに目を通しながら夜尋に呼びかける。

「用がないなら今日は帰れ。依頼の相談とかなかったはずだろ」

「…失礼します」

暗に釘を刺され、そこに居づらくなった夜尋は一言挨拶をすると倉庫から出ていった。
幸い、隠した本だけは持って出てきたため、それを鞄にしまうと事務所を後にした。

帰宅するとまっすぐ自室へ向かった。

部屋に入ると早速鞄から、先ほど持ち帰った呪術本を取り出す。
しかし、本を開こうとして先ほどの梧桐の言葉が頭に反響し、本を開く気になれない。

ため息をついて、ベッドの上に寝っ転がった。
まだ心臓がバクバクと音を立てている。

あんな風に梧桐に忠告させられたことがなかったためか。
それとも自分のしようとしていることに、今さらながら後ろめたさを感じたからか。

しかし、だからと言って幾島をこのまま放っておくほど夜尋は単純ではない。
やらなくては。絶対に。
そして、幾島に後悔させなくては。

そう、もう一度決意し直した時だった。

ぐぅという緊張感の欠片も無いお腹の音で、思考をストップさせられる。

そういえば、朝急いで家を出たため、朝食を取っていなかった。
時計を見るともう11時前だ。

(下に行ってなにか食べるか)

時間も時間だし、量のあるものを食べようと部屋を出ると、隣にある千尋の部屋のドアが目に入った。

あの事件以来、千尋の部屋に足を踏み入れたことはなかった。
最近千尋の事で色々あったこともあり、意図的に避けていた部屋の中が気になった。

恐る恐る部屋のドアを開ける。

部屋は当時のまま何も変わらない状態だった。

正面に見える窓から日差しが差し込み、小さな埃が舞っているのが見える。
しかし、部屋を見渡しても埃が積もっている感じはしない。

几帳面な兄はいつも整理整頓していた。それが当時のまま、綺麗な状態で残されている。
まるで今も兄が使っているみたいに。

誰かが定期的に掃除しているような―――

(もしかして、母さんが掃除しているのか)

そんな姿、見たことがなかったため、気がづかなかった。

そのことにひどく驚く。
だって母は、兄がいなくなってよかったと思っているはずだ。

兄のことなど思い出したくもないはずなのに。

それでなくても、父がこのことを知れば辞めさせるはずだ。

では、黙って一人でここを掃除していたのか。
4年間ずっと。

部屋の奥、窓に差し掛かるように勉強机が置いてある。
小学校に入学する際買ってもらったという机は、昔見たときよりずっと小さく見えた。

それほど時間が経ってしまったということに、夜尋は少し胸を締め付けるような淋しさを感じた。

机の上にはコルクボードが立てかけているのが目に入る。
近づいて見てみると、友人との写真が画びょうで止められていた。
嬉しそうに、楽しそうに友人と共に笑う2ショットの兄がとても眩しい。

ずっとこうやって笑っていてくれたら、どんなに良かっただろう。

自然と目線が下がると、机の真ん中に卒業アルバムが置いてあるのに気づいた。
コルクボードにばかり目が行き気づかなかったようだ。

表紙には高校の名前と卒業年度が書かれている。
間違いなく兄のものだ。
こちらも埃が積もった形跡はなく、誰にも開かれることなくただ静かにそこにあるためだけの存在のように見えた。

恐る恐る表紙を捲る。

パリパリという音と、ほんのりと香る新品のアルバムの匂いを感じた。
4年も前の物のはずなのに新品のような状態のままということは、おそらく今までほとんど人に開かれたことがなかったのだろう。

閉じられた兄の思い出が少し可哀そうに思えた。

頁をめくり兄の姿を探した。

兄がどのクラスにいたのか知らない夜尋は、クラスごとの顔写真をチェックしながらアルバムを眺めた。
チェックしながらしばらく捲っていくと、兄の写真を見つけた。

(あった!)

どうやら兄は3年3組だったらしい。

自分と同い年だった兄を見つめる。
兄の写真など4年前から見ていなかったため、久しぶりに見る兄の顔は、笑顔だからか思っていたより幼く見えた。
こうしてみると、夜尋はだいぶ兄の顔を忘れていたように思う。

ずっと記憶の中の兄を頼りに兄の霊を探していたのに、こんなに忘れているなんて思わなかった。
どんなに強く思っても、何度も思い出しても所詮人の記憶など劣化していくのか。
そう思うとその記憶の曖昧さに夜尋は切なくなった。

顔写真の次の頁を捲ると、前の頁のクラスの日常写真や行事写真などがコラージュされたように乱雑に張り付けられているような頁が広がる。

こちらでも兄を探すと、思いのほか早く見つかった。
顔写真と変わらず笑顔で写っているのをみると、兄は家にいるときと同様に学校でもよく笑っていたようだ。

昼休みだろうか、弁当を広げ嬉しそうな表情をしている。
隣にいるのは友人だろうか。親し気に彼の肩に腕を回していた。
隣の友人はというと、少し嬉しそうな困ったような複雑な顔をしていた。

(……あれ?)

この顔、どこかで見たことあるような…。
そう感じて、パッとコルクボードに張り付けてあった先ほどの写真を確認する。

やはり同じ人だ。
相当仲が良かったのだろう。

整った顔立ちに、線が細く華奢な印象を受ける綺麗な人だった。

千尋も色素が薄い感じだが、どこか活発そうな印象を受ける。
しかし、この人はもっと色素が薄く、微笑むように笑う顔が幸薄そうな印象を受ける、そんな人だった。

(なんて名前の人だろう)

気になって元の頁に戻るとその友人を探した。

やはり、美形ということもありすぐに見つかった。
穏やかに笑う顔がなんともいえない危うさを感じる。

名前を確認しようとして、夜尋の目線はその文字に釘付けになった。

(え?)

そこに書かれている名前に動揺し、驚きのあまり呼吸をするのも忘れた。

「あれ、めずらしいな夜尋。この部屋に入るなんて」

いきなり声を掛けられたことに驚き、体がビクリと跳ねるような感覚がした。
驚いて声のする方へ振り返ると、部屋に少し入ったところに、長兄である真尋マヒロが立っていた。

「……真尋兄さん、なんでここに」

抗議するようにじっとりとした目線で兄を睨む。

長兄である真尋は現在、結婚して別々に住んでいるが時折こうして気まぐれに実家に帰ってくる。
昨日は見かけなかったため、おそらく今朝早く帰ってきたのだろう。

「なんだ、アルバム見てたのか」

覗き込む兄に少し鬱陶しさを感じながら、目線を元に戻す。

間違いない。

幾島 悠灯イツシマ ユウヒ

そう顔写真の下に書かれていた。

珍しい名前であるため、同姓同名の赤の他人ということでは決してないだろう。

それに、幾島の顔を思い返してみるとどこか面影がある。

事件の事を知っていたなんて幾島は言っていたが、そんな程度の話ではない。

恐らく事件当時、兄が殺されてすぐ知らされたはずだ。
そして兄がここまで写真を大事に飾っていたということは、幾島と兄は相当親しい間柄だったはず。

そんな大事な友人の事件現場に、面白半分に肝試しに訪れるだろうか。
自分だったら、いや他の人であってもきっとしない。

そういえば幾島は「霊が見てみたい」と言っていた。

その理由を「興味があったから」と言っていたが、もしそれが嘘だとしたら……。

心臓が強く波打って騒いでいる。
もしかして自分は、とんでもない思い違いをしていたのではないか。
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