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第2章
25.手の焼ける可愛い妹
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コンコンと、私の部屋をノックする音で私たちの可笑しな茶番が中断された。
(誰だろう?)
許可を出すと、ゆっくりと扉が開いた。
「お姉様」
その小さな隙間からひょっこりと顔を出したのは妹のシルビアだった。
相変わらず顔から仕草から何もかもが可愛い彼女に顔が緩む。
「あらシルビア。どうしたの?」
「勉強が終わったので、遊びにきたのです!」
そんな事言われたら、構わないわけにはいかないじゃない。
仕方ないなぁ。
「シルビア、今日はどんな勉強をしたの?」
「ええっと、今日は歴史学を学びました! 帝国のところまで!」
「まぁもうそんなところまで習ったの?私がシルビアの歳の頃はまだ 時代のところだったのに」
「えへへ」
頭を撫でるとより一層嬉しそうな顔をするシルビアにこっちが癒されてしまう。
こんなに可愛い妹を持ててなんて幸せなのだろう。
顔が綻びすぎて溶けてしまいそうだ。
学園の中等部に入るまでは、毎日が勉強の日々だ。
庶民であるならば、7歳になると中等部の前にある初等部教育を受けるため学校に通うのが一般的。
しかし、この国の貴族間では、13歳になるまで自宅で勉強を教わるのが一般的なのである。
それは、その家に必要な勉学を幼い頃から集中して学ぶことと、他の貴族の子供との差を見えなくするための2つの目的がある。
まぁ、小さい頃では人によって差が大きく出ててしまうもの。
それを他の貴族に知られてしまえば、下手をしたらそれが家名に傷を付けてしまうことだってなくはない。
その欠点を露呈させないため、不得意なことを幼いうちから見つけ、矯正しようというのが狙いらしい。
私としては全くどうでもいい理由ではあるけれど、これが一般的なのだから仕方がない。
そんな事情は全く知らない我が愛しの妹は、美味しそうにクッキーを口に頬張る。
口に入れた瞬間のあの幸せそうな顔は、見ているこっちが癒されてしまうほどだ。
「ふふ、シルビア。ほらこれも食べていいわよ」
「ありがとうございます、お姉様」
ついつい甘やかしてしまう。
つい先ほど、甘やかすのを控えようと考えていたはずなのに、ある意味恐ろしい妹だ。
「そういえばお姉様、私この間風を起こす魔法を覚えたのです!」
今思い出したようにパッとこちらを向くと満面の笑みで報告してくる。
これを可愛いと思えない人なんて、もはや人間ではない。
「まぁすごいじゃない」
「はい、今披露しますね!」
私が褒めると、それが嬉しいのか早速見せてくれるらしい。
椅子から立ち上がると、シルビアは私のベッドの近くへ移動する。
両手を胸の位置まで上げ、ピンと伸ばすと目を瞑り意識を集中させた。
すると、どこからか風が吹いてきて布団が揺れ動きながら徐々に浮かんでいく。
「すごいわ」
彼女の成長は素直に嬉しい。
しかし、私が全く使えないのに3つ下の妹はもうこんなに使えてしまっている。
その事実がやはり悔しい。
「お嬢様……」
私の肩に、彼女の手がそっと触れる。
どうやら私の様子を見ていて、心配させてしまったのだろう。
「大丈夫よね、ミリア。いつか私も使えるようになるはずよね」
しかしその言葉に答えは返ってこなかった。
ミリアを見つめる。
彼女は率直な人だ。
そして安易に嘘を付いたりしない。
それが今の私の現状がどれほど絶望的なのかを暗に示しているようだった。
やっぱりどうしようもないのだ。
(前世の私も全く魔法が使えなかったけれど、まさか今世でも使えないなんて)
そう、前世の私も魔法が全く使えなかった。
だから、どうにか剣の腕を磨こうとしたが、幼い頃から体が弱くそれもうまくいかなかった。
頭だけは良かったのが唯一の救いだったけれど、それだって大して役に立ったわけではない。
そして、今置かれている状況も前世と何も変わらないように見えた。
(せっかく生まれ変わっても、これだけ同じじゃ辿る運命も同じなような気がしてきたわ)
もしかしたら、いつかヴァリタスに前世の事がバレて殺されるかもしれない。
そんな最悪な運命をつい想像してしまう。
気持ちが段々と沈み、つい下を向いてしまった。
その様子を見ていたシルビアは突然私に向かって大きな声で訴えた。
「どうして?どうしてお姉様は私よりも使用人を優先するのですか?」
「シルビア?何をいっているの?」
その辛そうな声を聞き、パッと顔を上げた。
シルビアは今にも泣きそうな顔で私を見つめている。
「だって今、私が魔法を使ったのに、お姉様は全く見ていなかったじゃないですか!」
「そんなことないわ。見ていたわよちゃんと。すごいじゃない、布団なんて重いもの持ち上げられるなんて」
きっと手を添えたミリアの姿と俯いてシルビアを見ていなかった私の様子が、自分を放ってしまっているように見えたのだろう。
そんなことはないと弁解しようとしたが、シルビアの耳にはもう私の言葉など届いていなかった。
「変です!おかしいです!なんで使用人なんか。あなたもあなただわ、私がお姉様に魔法を見せているのになぜそれに割って入るの?」
シルビアの言い分は滅茶苦茶だ。
しかし私が彼女を見ていなかったのも事実。
これは素直に謝ろうと口を開こうとしたとき。
「申し訳ありません」
ミリアがシルビアに頭を下げた。
(どうして、私が悪いのに……)
しかしこの状況から見て、ミリアの判断は正しい。
これでは私が謝ってもシルビアはさらに激昂するだけ。
キッと唇を噛んで我慢する。
しかし、それでもシルビアは彼女を横目で見るだけで、なおも不機嫌なのは変わらなかった。
「いい加減になさいシルビア。私が悪いのだからミリアを責めるのは間違っているわ」
その態度にいい加減感情が抑えられなくなった私はシルビアにきつく当たってしまう。
目を大きく見開き、信じられないような目でシルビアは私を見つめた。
その頬には大粒の涙がぽろぽろとつたって零れている。
「もう、もういいです。お姉様なんて……。お姉様なんて大っ嫌い!!」
叫んだ瞬間、シルビアは走って部屋を出ていってしまった。
「待ってシルビア!」
後を追いかけようと、彼女が出ていった廊下に出て引き留めようとしたが、彼女はそんなことでは止まってくれなかった。
今シルビアを追いかけても、きっと聞き入れてはくれないだろう。
(きっとしばらく放っておいたほうがいいのでしょうね)
部屋の中へ向き直ると、心配そうに見つめるミリアと目が合う。
困ったようにミリアにむかって笑うと、もう一度紅茶を飲んで、沈んだ気持ちを少しでも回復させようとした。
(誰だろう?)
許可を出すと、ゆっくりと扉が開いた。
「お姉様」
その小さな隙間からひょっこりと顔を出したのは妹のシルビアだった。
相変わらず顔から仕草から何もかもが可愛い彼女に顔が緩む。
「あらシルビア。どうしたの?」
「勉強が終わったので、遊びにきたのです!」
そんな事言われたら、構わないわけにはいかないじゃない。
仕方ないなぁ。
「シルビア、今日はどんな勉強をしたの?」
「ええっと、今日は歴史学を学びました! 帝国のところまで!」
「まぁもうそんなところまで習ったの?私がシルビアの歳の頃はまだ 時代のところだったのに」
「えへへ」
頭を撫でるとより一層嬉しそうな顔をするシルビアにこっちが癒されてしまう。
こんなに可愛い妹を持ててなんて幸せなのだろう。
顔が綻びすぎて溶けてしまいそうだ。
学園の中等部に入るまでは、毎日が勉強の日々だ。
庶民であるならば、7歳になると中等部の前にある初等部教育を受けるため学校に通うのが一般的。
しかし、この国の貴族間では、13歳になるまで自宅で勉強を教わるのが一般的なのである。
それは、その家に必要な勉学を幼い頃から集中して学ぶことと、他の貴族の子供との差を見えなくするための2つの目的がある。
まぁ、小さい頃では人によって差が大きく出ててしまうもの。
それを他の貴族に知られてしまえば、下手をしたらそれが家名に傷を付けてしまうことだってなくはない。
その欠点を露呈させないため、不得意なことを幼いうちから見つけ、矯正しようというのが狙いらしい。
私としては全くどうでもいい理由ではあるけれど、これが一般的なのだから仕方がない。
そんな事情は全く知らない我が愛しの妹は、美味しそうにクッキーを口に頬張る。
口に入れた瞬間のあの幸せそうな顔は、見ているこっちが癒されてしまうほどだ。
「ふふ、シルビア。ほらこれも食べていいわよ」
「ありがとうございます、お姉様」
ついつい甘やかしてしまう。
つい先ほど、甘やかすのを控えようと考えていたはずなのに、ある意味恐ろしい妹だ。
「そういえばお姉様、私この間風を起こす魔法を覚えたのです!」
今思い出したようにパッとこちらを向くと満面の笑みで報告してくる。
これを可愛いと思えない人なんて、もはや人間ではない。
「まぁすごいじゃない」
「はい、今披露しますね!」
私が褒めると、それが嬉しいのか早速見せてくれるらしい。
椅子から立ち上がると、シルビアは私のベッドの近くへ移動する。
両手を胸の位置まで上げ、ピンと伸ばすと目を瞑り意識を集中させた。
すると、どこからか風が吹いてきて布団が揺れ動きながら徐々に浮かんでいく。
「すごいわ」
彼女の成長は素直に嬉しい。
しかし、私が全く使えないのに3つ下の妹はもうこんなに使えてしまっている。
その事実がやはり悔しい。
「お嬢様……」
私の肩に、彼女の手がそっと触れる。
どうやら私の様子を見ていて、心配させてしまったのだろう。
「大丈夫よね、ミリア。いつか私も使えるようになるはずよね」
しかしその言葉に答えは返ってこなかった。
ミリアを見つめる。
彼女は率直な人だ。
そして安易に嘘を付いたりしない。
それが今の私の現状がどれほど絶望的なのかを暗に示しているようだった。
やっぱりどうしようもないのだ。
(前世の私も全く魔法が使えなかったけれど、まさか今世でも使えないなんて)
そう、前世の私も魔法が全く使えなかった。
だから、どうにか剣の腕を磨こうとしたが、幼い頃から体が弱くそれもうまくいかなかった。
頭だけは良かったのが唯一の救いだったけれど、それだって大して役に立ったわけではない。
そして、今置かれている状況も前世と何も変わらないように見えた。
(せっかく生まれ変わっても、これだけ同じじゃ辿る運命も同じなような気がしてきたわ)
もしかしたら、いつかヴァリタスに前世の事がバレて殺されるかもしれない。
そんな最悪な運命をつい想像してしまう。
気持ちが段々と沈み、つい下を向いてしまった。
その様子を見ていたシルビアは突然私に向かって大きな声で訴えた。
「どうして?どうしてお姉様は私よりも使用人を優先するのですか?」
「シルビア?何をいっているの?」
その辛そうな声を聞き、パッと顔を上げた。
シルビアは今にも泣きそうな顔で私を見つめている。
「だって今、私が魔法を使ったのに、お姉様は全く見ていなかったじゃないですか!」
「そんなことないわ。見ていたわよちゃんと。すごいじゃない、布団なんて重いもの持ち上げられるなんて」
きっと手を添えたミリアの姿と俯いてシルビアを見ていなかった私の様子が、自分を放ってしまっているように見えたのだろう。
そんなことはないと弁解しようとしたが、シルビアの耳にはもう私の言葉など届いていなかった。
「変です!おかしいです!なんで使用人なんか。あなたもあなただわ、私がお姉様に魔法を見せているのになぜそれに割って入るの?」
シルビアの言い分は滅茶苦茶だ。
しかし私が彼女を見ていなかったのも事実。
これは素直に謝ろうと口を開こうとしたとき。
「申し訳ありません」
ミリアがシルビアに頭を下げた。
(どうして、私が悪いのに……)
しかしこの状況から見て、ミリアの判断は正しい。
これでは私が謝ってもシルビアはさらに激昂するだけ。
キッと唇を噛んで我慢する。
しかし、それでもシルビアは彼女を横目で見るだけで、なおも不機嫌なのは変わらなかった。
「いい加減になさいシルビア。私が悪いのだからミリアを責めるのは間違っているわ」
その態度にいい加減感情が抑えられなくなった私はシルビアにきつく当たってしまう。
目を大きく見開き、信じられないような目でシルビアは私を見つめた。
その頬には大粒の涙がぽろぽろとつたって零れている。
「もう、もういいです。お姉様なんて……。お姉様なんて大っ嫌い!!」
叫んだ瞬間、シルビアは走って部屋を出ていってしまった。
「待ってシルビア!」
後を追いかけようと、彼女が出ていった廊下に出て引き留めようとしたが、彼女はそんなことでは止まってくれなかった。
今シルビアを追いかけても、きっと聞き入れてはくれないだろう。
(きっとしばらく放っておいたほうがいいのでしょうね)
部屋の中へ向き直ると、心配そうに見つめるミリアと目が合う。
困ったようにミリアにむかって笑うと、もう一度紅茶を飲んで、沈んだ気持ちを少しでも回復させようとした。
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