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第3章
104.強引な気持ちの整理
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雨に打たれた私は、案の定風邪を引いてしまった。
朝起きて体調が悪そうな私をみるミリアの顔のなんと冷たいことか。
それでも休むのはなんとなく嫌で、どうにか支度をしようと起き上がった私に気が付き、ミリアは慌てて止めた。
両肩を押さえつけられベッドに戻される。
流石に自分よりも大きく、力のあるミリアに風邪を引いた私が敵うわけもなく。
結局今はこうして大人しく横になっていた。
でも、変な感じ。
こんなに日が高い内からベッドに横たわって窓を眺めているだけなんて。
体はそんなに丈夫な方ではないけれど、こうして病気に罹ることなんて滅多にないことだ。
しかし、こうしているのに違和感を覚えながらも懐かしさも感じていた。
おそらくそれはリヴェリオの頃の習慣だったのだろう。
習慣というほど良いものでもないが。
リヴェリオは幼いころから体が弱く、病気がちだった。
それはもう、箔が付くほどに弱すぎた。
城下町でさえ出向くことができないほどに。
馬車に乗ると10分も経たない内に、酔いが回ってしまいそのまま2,3日体調が悪い日が続いた。
そういえば、幼いころあの子と一緒に西の方へ視察に行くと言われていたのに、私の体調が悪くなりすぎて1日も経たず引き返したっけ。
あの時のあの子ったら、私をポカポカ叩きながら可愛く怒っていたっけ。
思い出して思わずフッと噴き出した。
だが、そんな苦い経験が有りながらも、好奇心は旺盛だった私は両親に散歩に行く嘘を吐いて中庭を冒険していた。
広すぎる宮殿の中庭は、外に出られない私にとっては魅惑の場所だった。
いろんな場所を駆けずりまわり、体力がないため小刻みに休憩を入れながらも存分に中庭で遊んでいた。
バートンはその都度付き合ってくれていたが、5分毎に私の体調を気にするものだから少し鬱陶しかったのを覚えている。
そして次の日は決まっては体を崩していた。
その都度、両親やバートンに心配されたり、怒られたりしていた。
あの頃は本当に楽しかった。
しかし、超が付くほどの虚弱体質は大人になっても変わることはなかった。
そのために、公務である各地の視察や軍の長として戦前に出向くことはできなかった。
もしかしたら、それも私の評価を落としていた要因の一つだったのかもしれない。
それでも、その埋め合わせを何とかしてできないかと、宰相や政治に関わる貴族議員たちに色々と進言しては面倒臭がられていた。
それもそのはず、平民の待遇をよくするようなものばかりだったもの。
自分で自分の首を絞めるような行為をあの傲慢な貴族たちが受け入れるはずがない。
そんなこともわからないで、必死になっていたリヴェリオを思い出し、切ないながらも笑いそうになった。
それで、苦しんでいる平民を思うと食事も喉を通らなくなるなんて、本当に間抜けなんだから。
思わずクスクスと1人で笑ってしまう。
ふと、そこで私はあることに気づいた。
どうしてだろう。
今日は前世の事をよく思い出すのに、全然気分が悪くならない。
それどころか、晴れ晴れとしていてどこか楽し気な感じさえする。
あんなに暗い気持ちになっていたのに。
風邪でもっと気分が落ち込んでもおかしくないのに、それが少し不思議だった。
熱も少しあるみたいだったし、もしかして風邪の所為で頭がおかしくなっちゃったのかしら?
まぁでも、こっちの方がすごく楽だ。
最近の私は暗すぎてうんざりするほどのネガティブ人間だったから。
昨日までの私よりこっちの方がものすごくましだ。
いつまでも暗い考えのままの自分と向き合うのなんて拷問以外の何物でもない。
それに今の私は、以前の、私が好きな私だった。
これならずっと風邪を引いていたいくらい。
どうして私はあんなに暗かったのかしら。
今ならその理由を考えても、嫌いな私にならないと踏んだ私は自分と向き直ってみることにした。
たしか……、そう、自分がどうしてヴァリタスに嫌われたくないのか。
セイラを嫌いになりそうになっているのか。
それが不安だった。
うん、ここは一先ずあの事を認めてしまうのが良いのかもしれない。
私がヴァリタスを好きなことを。
きっとその所為で、セイラの事も嫌いになりそうになっているのだと思う。
そして何より、その感情を受け入れてしまえば、私は破滅の道を歩かなければならなくなるのだ。
だから不安だったのだと思う。
でも、彼のことが好きだからなんだというのだ。
私が何よりも優先すべきなのは、自分の幸せだ。
それ以外は何もかも投げ捨てたって構わない。
そう、家族に見限られたとき決めたじゃないか。
ならば今回だって同じこと。
いくら恋しい人でも、いくら愛した人でも。
いずれ私の事を嫌いになるのだと分かっている人にこれ以上情を移しても仕方がない。
傷つくだけの感情を持ち続けるほど、私の心には余裕なんてない。
だからこの感情は今まで通り、心の奥底に、気づかないようにしまって置けば良い。
なんなら失恋したと決めつけて、終わったものにすれば都合がよいかもしれない。
よし!
これで不安要素が一つ減ったわ!
これが強引で、何一つ解決していない、中途半端な決着の付け方だったとしても。
今の私にはこれで精一杯だった。
こうして蓋をして仕舞っておくぐらいしか、この気持ちと向き合うことなど私にはできなかったのだった。
朝起きて体調が悪そうな私をみるミリアの顔のなんと冷たいことか。
それでも休むのはなんとなく嫌で、どうにか支度をしようと起き上がった私に気が付き、ミリアは慌てて止めた。
両肩を押さえつけられベッドに戻される。
流石に自分よりも大きく、力のあるミリアに風邪を引いた私が敵うわけもなく。
結局今はこうして大人しく横になっていた。
でも、変な感じ。
こんなに日が高い内からベッドに横たわって窓を眺めているだけなんて。
体はそんなに丈夫な方ではないけれど、こうして病気に罹ることなんて滅多にないことだ。
しかし、こうしているのに違和感を覚えながらも懐かしさも感じていた。
おそらくそれはリヴェリオの頃の習慣だったのだろう。
習慣というほど良いものでもないが。
リヴェリオは幼いころから体が弱く、病気がちだった。
それはもう、箔が付くほどに弱すぎた。
城下町でさえ出向くことができないほどに。
馬車に乗ると10分も経たない内に、酔いが回ってしまいそのまま2,3日体調が悪い日が続いた。
そういえば、幼いころあの子と一緒に西の方へ視察に行くと言われていたのに、私の体調が悪くなりすぎて1日も経たず引き返したっけ。
あの時のあの子ったら、私をポカポカ叩きながら可愛く怒っていたっけ。
思い出して思わずフッと噴き出した。
だが、そんな苦い経験が有りながらも、好奇心は旺盛だった私は両親に散歩に行く嘘を吐いて中庭を冒険していた。
広すぎる宮殿の中庭は、外に出られない私にとっては魅惑の場所だった。
いろんな場所を駆けずりまわり、体力がないため小刻みに休憩を入れながらも存分に中庭で遊んでいた。
バートンはその都度付き合ってくれていたが、5分毎に私の体調を気にするものだから少し鬱陶しかったのを覚えている。
そして次の日は決まっては体を崩していた。
その都度、両親やバートンに心配されたり、怒られたりしていた。
あの頃は本当に楽しかった。
しかし、超が付くほどの虚弱体質は大人になっても変わることはなかった。
そのために、公務である各地の視察や軍の長として戦前に出向くことはできなかった。
もしかしたら、それも私の評価を落としていた要因の一つだったのかもしれない。
それでも、その埋め合わせを何とかしてできないかと、宰相や政治に関わる貴族議員たちに色々と進言しては面倒臭がられていた。
それもそのはず、平民の待遇をよくするようなものばかりだったもの。
自分で自分の首を絞めるような行為をあの傲慢な貴族たちが受け入れるはずがない。
そんなこともわからないで、必死になっていたリヴェリオを思い出し、切ないながらも笑いそうになった。
それで、苦しんでいる平民を思うと食事も喉を通らなくなるなんて、本当に間抜けなんだから。
思わずクスクスと1人で笑ってしまう。
ふと、そこで私はあることに気づいた。
どうしてだろう。
今日は前世の事をよく思い出すのに、全然気分が悪くならない。
それどころか、晴れ晴れとしていてどこか楽し気な感じさえする。
あんなに暗い気持ちになっていたのに。
風邪でもっと気分が落ち込んでもおかしくないのに、それが少し不思議だった。
熱も少しあるみたいだったし、もしかして風邪の所為で頭がおかしくなっちゃったのかしら?
まぁでも、こっちの方がすごく楽だ。
最近の私は暗すぎてうんざりするほどのネガティブ人間だったから。
昨日までの私よりこっちの方がものすごくましだ。
いつまでも暗い考えのままの自分と向き合うのなんて拷問以外の何物でもない。
それに今の私は、以前の、私が好きな私だった。
これならずっと風邪を引いていたいくらい。
どうして私はあんなに暗かったのかしら。
今ならその理由を考えても、嫌いな私にならないと踏んだ私は自分と向き直ってみることにした。
たしか……、そう、自分がどうしてヴァリタスに嫌われたくないのか。
セイラを嫌いになりそうになっているのか。
それが不安だった。
うん、ここは一先ずあの事を認めてしまうのが良いのかもしれない。
私がヴァリタスを好きなことを。
きっとその所為で、セイラの事も嫌いになりそうになっているのだと思う。
そして何より、その感情を受け入れてしまえば、私は破滅の道を歩かなければならなくなるのだ。
だから不安だったのだと思う。
でも、彼のことが好きだからなんだというのだ。
私が何よりも優先すべきなのは、自分の幸せだ。
それ以外は何もかも投げ捨てたって構わない。
そう、家族に見限られたとき決めたじゃないか。
ならば今回だって同じこと。
いくら恋しい人でも、いくら愛した人でも。
いずれ私の事を嫌いになるのだと分かっている人にこれ以上情を移しても仕方がない。
傷つくだけの感情を持ち続けるほど、私の心には余裕なんてない。
だからこの感情は今まで通り、心の奥底に、気づかないようにしまって置けば良い。
なんなら失恋したと決めつけて、終わったものにすれば都合がよいかもしれない。
よし!
これで不安要素が一つ減ったわ!
これが強引で、何一つ解決していない、中途半端な決着の付け方だったとしても。
今の私にはこれで精一杯だった。
こうして蓋をして仕舞っておくぐらいしか、この気持ちと向き合うことなど私にはできなかったのだった。
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