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第3章
105.ふらつく体と回想
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さて、もう一つの不安要素だけど。
そう思って、ここ最近悩まされている前世の事を考える。
きっかけはあの時あった老人の言った言葉だったわね。
と、いうことはあの人の言った言葉が原因だと考えれば、この不安も解消されるかも。
老人の言葉を思い出し、どうにか読み解けないか考えてみた。
しかし、あの人が言っていたのって確か、燃やすだの、世界と契約だのというよくわからないことばかりだったわよね。
……。
うん、だめださっぱりわからない。
やっぱりどう考えても理解できなさそうな言葉ばかりだ。
そもそもあの人が言った言葉が本当かどうかもわからないし。
でも、どうしてか引っかかりは覚えるのよねぇ。
しかし、私の記憶は穴が多すぎて答えが出るとも思えない。
う~ん、どうしようかしら。
出来れば前世の記憶を思い出せるような、そんな方法があればよいのだけど……。
と、考えていたことであることを閃いた。
そうだわ、”前明の儀”をしてくれたあの魔法使いがいるじゃない!
あの人の魔法でどうにか記憶を思い出させて貰えたら!
なんて冴えてるの、私!
早速彼へ手紙を書いて面会をお願いしなくちゃ。
居ても立っても居られず、ベッドから体を起こし、机へ向かう。
しかし風邪を引いているだけあって、視界はぼやけて見えるし、体には力が入らない。
おまけに考え事をしていたせいもあってか、頭がくらくらしてきた。
そこまで距離があるわけではないはずなのに、妙に机が遠く感じる。
立ち上がった瞬間、ふわりと体が浮くような感覚に襲われた。
そのまま、目の前が真っ暗になり、私の意識はそこで途切れていた。
***
最近彼女の様子が以前にも増しておかしくなっていた事に、いち早く気づいていた。
しかし、話掛けようものなら体を強張らせる彼女に、僕が声を掛けない方が良いと判断し、最近ではなるべく関わらないように努力していた。
それでも、彼女を気に掛けることを辞められるほど、僕は諦めの良い方ではなかった。
昔から彼女は何かにつけて私に嫌われようと努めていた。
前世が平民なことや魔法が全く使えないことを振りかざし、どうにか婚約を破棄してもらおうと画策したり。
嫌いな食べ物を用意して会食を行ったり、嫌いな虫の多いところに無理やり連れていかれたこともあったような記憶がある。
しかし、そんなことは懐かしい思い出と化すだけだった。
なにより、僕は彼女と共にいられるのなら、それ以外などどうでも良かったのだ。
だが、そんな感情を彼女に否定されたときはあまりのショックに2週間以上口を利けなくなった。
それはおそらく、自分の中にも思い当たる節があったから。
バートン・クロネテス。
それが僕の前世の名前。
ボルテシアの栄光の立役者であり、この国の英雄。
僕の先祖でもある人物だった。
偉大な前世を持ったことを知ったときは、さすがの僕も動揺した。
それまでの僕は、自分で言うのもなんだが他の子どもと比べ、群を抜くほどに賢い少年だった。
そのため、あらゆる物事にあまり関心を持ったり感情が動くことが少なかった。
だが、”前明の儀”によって判明した前世はこの国で最も有名な英雄だった。
それは流石の僕の感情を大きく揺さぶるような事実だった。
そしてしばらくして最初に思い出した記憶は、強い強い憎悪の感情だった。
それは彼の君主へ向けられたものだった。
やっとの思いで手に入れた家族との絆。
自分のような存在を愛してくれると言ってくれた人。
それらすべてを失った彼の心は、もう壊れる寸前だった。
憎かった。
憎くて憎くて堪らなかった。
そんな感情が僕を飲み込むように襲ってきたのだ。
ただでさえ、英雄を前世に持ったという期待を押し付けられるのではないのかという嫌な憶測を持っていたのに、それに加え、彼の感情に支配されそうになるなんて。
まるでそこに僕が居なくなってしまうのではないかという恐怖が、僕の心を支配した。
そんなときだった。
決められた婚約者と会うことになったのは。
初めて会った時の彼女の印象は、まるでやる気のない令嬢だった。
僕が公爵と話している間にも、堂々と紅茶を啜りぼんやりとしている彼女はある意味肝の据わった人物だとも言えたかもしれない。
しかし、当時の僕からすれば、なんともつまらなそうな令嬢。
そんな風にしか思わなかった。
彼女へ前世のことを相談したのは単なる気まぐれに過ぎなかった。
僕でも答えの出ないものを、彼女のようなぼうっとした令嬢がどうにかできるとも思っていなかった。
ただ、言葉の端の、ちょっとしたヒントぐらいは拾えるのではないかと期待していたのは事実だ。
それほどまでに僕は追い詰められていた。
だが、彼女はとんでもない答えを僕に与えてくれた。
それは、全く考えもしなかった答えだった。
前世を自分として受け入れるなんて。
そんな発想は僕の中にはなかったのだ。
だって、いくら自分の生まれる前の存在だとしても、生まれた瞬間から時代や環境が全く違う。
性格も考え方も異なる人物になるのは至極当たり前のことだし、そんな人物を自分だと思うなんて到底思えなかったのだ。
だが、彼女は言った。
『受け入れないと前世が可哀そう』だと。
その言葉を聞いた途端、僕の心はやっと、やっと解放されたような、そんな感覚がした。
そう思って、ここ最近悩まされている前世の事を考える。
きっかけはあの時あった老人の言った言葉だったわね。
と、いうことはあの人の言った言葉が原因だと考えれば、この不安も解消されるかも。
老人の言葉を思い出し、どうにか読み解けないか考えてみた。
しかし、あの人が言っていたのって確か、燃やすだの、世界と契約だのというよくわからないことばかりだったわよね。
……。
うん、だめださっぱりわからない。
やっぱりどう考えても理解できなさそうな言葉ばかりだ。
そもそもあの人が言った言葉が本当かどうかもわからないし。
でも、どうしてか引っかかりは覚えるのよねぇ。
しかし、私の記憶は穴が多すぎて答えが出るとも思えない。
う~ん、どうしようかしら。
出来れば前世の記憶を思い出せるような、そんな方法があればよいのだけど……。
と、考えていたことであることを閃いた。
そうだわ、”前明の儀”をしてくれたあの魔法使いがいるじゃない!
あの人の魔法でどうにか記憶を思い出させて貰えたら!
なんて冴えてるの、私!
早速彼へ手紙を書いて面会をお願いしなくちゃ。
居ても立っても居られず、ベッドから体を起こし、机へ向かう。
しかし風邪を引いているだけあって、視界はぼやけて見えるし、体には力が入らない。
おまけに考え事をしていたせいもあってか、頭がくらくらしてきた。
そこまで距離があるわけではないはずなのに、妙に机が遠く感じる。
立ち上がった瞬間、ふわりと体が浮くような感覚に襲われた。
そのまま、目の前が真っ暗になり、私の意識はそこで途切れていた。
***
最近彼女の様子が以前にも増しておかしくなっていた事に、いち早く気づいていた。
しかし、話掛けようものなら体を強張らせる彼女に、僕が声を掛けない方が良いと判断し、最近ではなるべく関わらないように努力していた。
それでも、彼女を気に掛けることを辞められるほど、僕は諦めの良い方ではなかった。
昔から彼女は何かにつけて私に嫌われようと努めていた。
前世が平民なことや魔法が全く使えないことを振りかざし、どうにか婚約を破棄してもらおうと画策したり。
嫌いな食べ物を用意して会食を行ったり、嫌いな虫の多いところに無理やり連れていかれたこともあったような記憶がある。
しかし、そんなことは懐かしい思い出と化すだけだった。
なにより、僕は彼女と共にいられるのなら、それ以外などどうでも良かったのだ。
だが、そんな感情を彼女に否定されたときはあまりのショックに2週間以上口を利けなくなった。
それはおそらく、自分の中にも思い当たる節があったから。
バートン・クロネテス。
それが僕の前世の名前。
ボルテシアの栄光の立役者であり、この国の英雄。
僕の先祖でもある人物だった。
偉大な前世を持ったことを知ったときは、さすがの僕も動揺した。
それまでの僕は、自分で言うのもなんだが他の子どもと比べ、群を抜くほどに賢い少年だった。
そのため、あらゆる物事にあまり関心を持ったり感情が動くことが少なかった。
だが、”前明の儀”によって判明した前世はこの国で最も有名な英雄だった。
それは流石の僕の感情を大きく揺さぶるような事実だった。
そしてしばらくして最初に思い出した記憶は、強い強い憎悪の感情だった。
それは彼の君主へ向けられたものだった。
やっとの思いで手に入れた家族との絆。
自分のような存在を愛してくれると言ってくれた人。
それらすべてを失った彼の心は、もう壊れる寸前だった。
憎かった。
憎くて憎くて堪らなかった。
そんな感情が僕を飲み込むように襲ってきたのだ。
ただでさえ、英雄を前世に持ったという期待を押し付けられるのではないのかという嫌な憶測を持っていたのに、それに加え、彼の感情に支配されそうになるなんて。
まるでそこに僕が居なくなってしまうのではないかという恐怖が、僕の心を支配した。
そんなときだった。
決められた婚約者と会うことになったのは。
初めて会った時の彼女の印象は、まるでやる気のない令嬢だった。
僕が公爵と話している間にも、堂々と紅茶を啜りぼんやりとしている彼女はある意味肝の据わった人物だとも言えたかもしれない。
しかし、当時の僕からすれば、なんともつまらなそうな令嬢。
そんな風にしか思わなかった。
彼女へ前世のことを相談したのは単なる気まぐれに過ぎなかった。
僕でも答えの出ないものを、彼女のようなぼうっとした令嬢がどうにかできるとも思っていなかった。
ただ、言葉の端の、ちょっとしたヒントぐらいは拾えるのではないかと期待していたのは事実だ。
それほどまでに僕は追い詰められていた。
だが、彼女はとんでもない答えを僕に与えてくれた。
それは、全く考えもしなかった答えだった。
前世を自分として受け入れるなんて。
そんな発想は僕の中にはなかったのだ。
だって、いくら自分の生まれる前の存在だとしても、生まれた瞬間から時代や環境が全く違う。
性格も考え方も異なる人物になるのは至極当たり前のことだし、そんな人物を自分だと思うなんて到底思えなかったのだ。
だが、彼女は言った。
『受け入れないと前世が可哀そう』だと。
その言葉を聞いた途端、僕の心はやっと、やっと解放されたような、そんな感覚がした。
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