悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

182.思い出の語り合い

「エスティ様もお久しぶりです! お休みの間会えなかったので、すごく寂しかったです」

可愛らしい笑顔が私に向けられる。
彼女といると、まるで自分まで綺麗なもののように感じられた。

「そうね、私も寂しかったわ」

そう返すと、彼女はすごく嬉しそうに笑った。

ああ、眩しい。

どうして、この笑顔を守ることができないのだろう。

どうして、私は彼女を傷つける選択しかできないのだろう。

これから壊す彼女が可哀そうで仕方ない。
それでも、私は私の幸せのために彼女を贄にするのだ。

ただ1つの願いのために。

もう、覚悟は決まっている。
揺るぐことのない、頑丈な心を持つと自分に誓ったはずだ。

泣きだしそうになる瞳を一度瞑り、一呼吸置いた。
もう一度開く頃には涙は枯れていた。

きっと二度と、潤うことはない。

「エスティ様?」

私の仕草に違和感を覚えた2人が覗き込んでくる。

「なんでもないわ。少し目に違和感があったのだけど、気のせいだったみたい」

そういうと、セイラはほっとしたように笑った。
どうやら私の言葉を信じたようだ。
純粋無垢な彼女は、誰かを疑うことなど知らないのかもしれない。

しかし、ナタリーは違った。
先ほどと同じように、疑うような目を私に向けている。

「ねぇ、エスティ。やっぱりあなた……」

ナタリーが私に引っかかりを覚えているのは、明白だ。
しかし、それを口に出されるわけにはいかない。

瞬時に睨み付けた。

私が今まで彼女に向けたことのない、悪意の籠った視線。
その視線に気が付いたのか彼女は少し体をビクつかせ、そこで黙ってしまった。

瞳の色が、疑いから怯えに変わっている。
それは、今まで彼女が私に見せたことのない瞳だった。

ああ、私って人をこんな風に脅す才能があったのね。

知らなかったわ。

「どうしたのナタリー? 私に聞きたいことでもあった?」

「……いいえ。あとででいいわ」

何かを察したように眉を寄せたまま、黙り込むと、そのままナタリーは自分の席へと戻っていった。

あ、しまった。
今はまだ仲良くしていないといけないときなのに。
どうしても意識してしまって、悪意の籠った対応をしてしまった。

覚悟を決めて張り切ってしまったはいいが、タイミングも重要なものだから慎重に進めないといけないのに。

これは後で1人反省会をしなければ。

「ナタリー様、どうしたのでしょうか。具合でも悪いのでしょうか……」

馬鹿な妄想を繰り広げる私とは違い、優しいヒロインは友人を想って表情を曇らせていた。
心配そうに見つめる彼女は、目の前で繰り広げられていた私とナタリーの攻防をまったく理解できていないようだ。
彼女のこういうところは長所だとは思うのだけど、ここまで鈍感だと計画がうまく進むのか心配になるわね。

まぁ、変わってほしいとも思わないけど。

とにかく、彼女に私の悪意が伝っていないようでホッとする。

「そうね、あとで聞いてみましょう」

そう返すと、私へと振り向いた彼女はまたしても可愛らしく微笑んだ。

朝日に照らされた彼女の笑顔は人を癒す力がある。
本当に、聖女みたい人だ。

やはり、彼女こそがヴァリタスのヒロインに相応しい。

   ***

始業式だけで終わった そのまま3人で中庭へ向かう。
既にいつもの席にヴァリタスが座っている。

私たちが近づくと、手を上げて挨拶をした。

「お久しぶりですね、皆さん。元気にしていましたか?」

「はい! 殿下も元気そうで何よりです!」

答えたのはセイラだった。
私たちとは違う、どこか跳ねるような可愛らしい笑顔をヴァリタスに向けている。

やっぱり、この子……。

以前感じた 彼女の気持ちの変化 がますます確信へと近づいていく。

このまま、彼女の気持ちが育ってくれることを祈りつつ私たちも席に着いた。

昼食を食べながら、話すことはやはり休み中にあったことだろう。
ナタリーとセイラは、何かの小説の聖地巡礼? とかいう事をするため、各地を観光した話を聞かせてくれた。

次々に繰り出される彼女たちの思い出話の弾幕は尽きることはなく、ほとんど相槌も打てないほどだった。
ただ、2人がすごく楽しそうな思い出をつくれたことだけは私にもわかった。

私も母の実家に行ったことを話したが、彼女たちに話せない体験しかしていなかったため、お花畑に行ったことしか話せなかった。

しかし、セイラはその話を楽しそうに聞いている。

「いいですね、お花畑! 私もエスティ様と一緒にお花畑でお茶をしてみたかったです」

手を組み、上の方をみながらうっとりした表情で彼女は告げた。
お花畑でお茶を飲む想像でもしているのだろう。

この話の流れなら、ヴァリタスともスムーズに会話できるかもしれない。
結局魔物事件からほとんど会っていないのだ。
彼に勘づかれているかもしれないかといって会話を蔑ろにしていては、計画に支障が出てしまう。

そう思い、私はヴァリタスに話を振った。

「そういえば、ヴァリタス様は視察が長引いで大変だったとお聞きしました」

今まで耳をこちらに傾けながら、穏やかに聞いていたヴァリタスだったが、その言葉を聞いた瞬間彼の表情が硬直した。
目を見開き、手を止めた彼の様子は明らかにおかしい。

え、どうしよう。
私、変なこと言ったかしら。
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