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第5章
235.お忍びの理由
「一体どうされたのですか?」
「いやぁ、さっきは邪魔者が入ったせいで全然お話できなかったじゃないですか。だからこうして遊びに来ちゃいました」
いや、私が聞きたいのはそういうことじゃない。
まず、王宮から馬車で30分もかかる距離からどうやって移動してきたのか。
どうやって厳重な見張りと結界の張られているベルフェリト邸に侵入できたのか。
そして、どうして魔力おばけのミリアが抵抗できないのか。
彼女がここにいる、ありとあらゆる理由が不明すぎて恐ろしい。
聞きたいことは山ほどあったが、彼女がそれに答えてくれるのかは謎だ。
「一先ず、なぜ聖女様がこちらにいらしたのか。理由をお聞かせ願えませんか?」
「そんなに固くならないでください~。リラックスです、りら~っくすぅ」
「はい?」
この人、こんな人だったっけ?
王宮にいたときは凛とした完璧な女性だったように思うのだけど。目の前にあるテーブルに体を半分突っ伏した彼女は、まるで教会で言うところの堕落した人間そのもの。先ほどまでの美しく威厳のある彼女の面影は一遍も見られなかった。
しかも人の屋敷だというのに、まるで自室にいるような感覚で力が抜けている。
もう一度確認するけど、目の前にいるの、さっきまで一緒にいた聖女様と同じ人だよね?
お茶プリーズ!! とミリアにせがんでいる彼女はまるで幼児のようだ。
ミリアは心底呆れたような顔をしながら、聖女様の相手をしていた。
仕方なしに、ミリアに目で合図をし私より先に聖女様に紅茶を出してもらう。
一瞬抗議の目をされたが、聖女様がミリアの腕を掴み始めたところで観念したらしい。
渋々と言った様子で聖女様に紅茶を出した。
相当鬱陶しかったのね。
「ぷはぁ~。やっぱりお貴族様が飲む紅茶は良いものばかりですね~」
紅茶ってそうやって飲むものじゃないと思うんだけど。
「満足していただけましたか?」
「はい! ばっちり満足です!」
半分くらい彼女の話す言葉が理解できなかったがまぁ良い。
この際彼女から話を聞き出せればなんでも良いということにしよう。
「それでは改めて。一体どのような理由でこちらへ?」
ズズーッと紅茶を啜る彼女に問いかける。
ミリアは私用のティーセットしか用意していなかったため、もうワンセット取りに行くために部屋を出て行った。なんだか部屋を出るのに相当躊躇っていたが、私も息抜きをしたかったため用意してくれるのは有難かった。
目の前の聖女様の相手を1人でしなければならないのは、少しだけ嫌だったけれど。
彼女が出て行ったのを確認した後、聖女様はカップを置いた。
「貴方にどうしても話さなければならないことがありましてね」
真剣な瞳を見るに、どうやら重要な事柄のようだ。
ミリアには話せない内容なのかもしれない。
私は彼女と長い付き合いなため結構な信頼を置いているが、聖女様にとってはただの使用人だ。
警戒してミリアが出ていくまで口を噤んでいたのだろう。
「私がこの首都、というより王宮を訪ねたのには理由があるのです」
「理由、ですか」
「はい、貴方に会うという理由です」
「私?」
私に会うため、わざわざ王宮を訪ねた?
一体どういうことだろう。
王宮にお忍びで来るのだとしたら、ベルフェリト邸にもこっそり訪ねてくればよいだけの話ではないのだろうか?
「王宮の人間が貴方に対しどのように接しているのかを見るため、という方が正しいかもしれませんね」
彼女の言っている意味が分からず黙り込んでしまう。
聖女様はまたしても紅茶を口に運ぶと、ニコリと微笑えんだ。
王宮が、つまり王族一家が私に対してどのような対応をしているのか、どうして聖女様が気にするのだろう。
恐らくなにか理由があるはずだ。
「なぜ、聖女様がそんなことを気にするのですか? もしかして、私の前世と関係があるのですか?」
彼女が私を気にする理由があるとすれば、それしかない。
聖女様は教会の人間だ。
誰しもを平等に扱うとしても、限度があるはず。
美しく生きることを求める彼らが、極悪人であるリヴェリオを放っておくはずがないことは百も承知だ。
とはいえ、リヴェリオが生まれ変わっていることを知っていながら今まで何もアクションを起こしてこなかったことを考えると、まだそこまで脅威だとは思われていないのだと、思う。
しかし、今回彼女が動きだしたということは……。
嫌な思考が巡り、途端に全身に悪寒が走った。
私は何もしていない。
だがまだ、何もしていないだけだと思われていただけなのかもしれない。
教会が敵に回ってしまえば、私が抱いた平穏無事に生きるという願いすら叶わなくなってしまう。今日だってヴァリタスに前世のことがバレてしまったことで、遠のいてしまった夢だというのに。
ヴァリタス1人が敵に回った程度であれば私の願いは十分届く範囲だ。
だってこの国を出て、遠くの国にでも逃げればどうにかなるのだから。
しかしエヒム教は違う。
彼らの信者は今や世界中に存在しているのだ。
いくら遠くの国に行ったとしても、そこに信徒がいれば捕まってしまう可能性が高い。
エヒム教の信者は外の国の方が熱狂的な人が多いと聞くし、捕まってしまえば何をされるかわからない。
彼らが私に敵意を向ければ、誰も止めることはできないのだ。
強い不安が私を襲う。
まだ決まったことでもないのに、小さな体の震えを抑えることができなかった。
「いやぁ、さっきは邪魔者が入ったせいで全然お話できなかったじゃないですか。だからこうして遊びに来ちゃいました」
いや、私が聞きたいのはそういうことじゃない。
まず、王宮から馬車で30分もかかる距離からどうやって移動してきたのか。
どうやって厳重な見張りと結界の張られているベルフェリト邸に侵入できたのか。
そして、どうして魔力おばけのミリアが抵抗できないのか。
彼女がここにいる、ありとあらゆる理由が不明すぎて恐ろしい。
聞きたいことは山ほどあったが、彼女がそれに答えてくれるのかは謎だ。
「一先ず、なぜ聖女様がこちらにいらしたのか。理由をお聞かせ願えませんか?」
「そんなに固くならないでください~。リラックスです、りら~っくすぅ」
「はい?」
この人、こんな人だったっけ?
王宮にいたときは凛とした完璧な女性だったように思うのだけど。目の前にあるテーブルに体を半分突っ伏した彼女は、まるで教会で言うところの堕落した人間そのもの。先ほどまでの美しく威厳のある彼女の面影は一遍も見られなかった。
しかも人の屋敷だというのに、まるで自室にいるような感覚で力が抜けている。
もう一度確認するけど、目の前にいるの、さっきまで一緒にいた聖女様と同じ人だよね?
お茶プリーズ!! とミリアにせがんでいる彼女はまるで幼児のようだ。
ミリアは心底呆れたような顔をしながら、聖女様の相手をしていた。
仕方なしに、ミリアに目で合図をし私より先に聖女様に紅茶を出してもらう。
一瞬抗議の目をされたが、聖女様がミリアの腕を掴み始めたところで観念したらしい。
渋々と言った様子で聖女様に紅茶を出した。
相当鬱陶しかったのね。
「ぷはぁ~。やっぱりお貴族様が飲む紅茶は良いものばかりですね~」
紅茶ってそうやって飲むものじゃないと思うんだけど。
「満足していただけましたか?」
「はい! ばっちり満足です!」
半分くらい彼女の話す言葉が理解できなかったがまぁ良い。
この際彼女から話を聞き出せればなんでも良いということにしよう。
「それでは改めて。一体どのような理由でこちらへ?」
ズズーッと紅茶を啜る彼女に問いかける。
ミリアは私用のティーセットしか用意していなかったため、もうワンセット取りに行くために部屋を出て行った。なんだか部屋を出るのに相当躊躇っていたが、私も息抜きをしたかったため用意してくれるのは有難かった。
目の前の聖女様の相手を1人でしなければならないのは、少しだけ嫌だったけれど。
彼女が出て行ったのを確認した後、聖女様はカップを置いた。
「貴方にどうしても話さなければならないことがありましてね」
真剣な瞳を見るに、どうやら重要な事柄のようだ。
ミリアには話せない内容なのかもしれない。
私は彼女と長い付き合いなため結構な信頼を置いているが、聖女様にとってはただの使用人だ。
警戒してミリアが出ていくまで口を噤んでいたのだろう。
「私がこの首都、というより王宮を訪ねたのには理由があるのです」
「理由、ですか」
「はい、貴方に会うという理由です」
「私?」
私に会うため、わざわざ王宮を訪ねた?
一体どういうことだろう。
王宮にお忍びで来るのだとしたら、ベルフェリト邸にもこっそり訪ねてくればよいだけの話ではないのだろうか?
「王宮の人間が貴方に対しどのように接しているのかを見るため、という方が正しいかもしれませんね」
彼女の言っている意味が分からず黙り込んでしまう。
聖女様はまたしても紅茶を口に運ぶと、ニコリと微笑えんだ。
王宮が、つまり王族一家が私に対してどのような対応をしているのか、どうして聖女様が気にするのだろう。
恐らくなにか理由があるはずだ。
「なぜ、聖女様がそんなことを気にするのですか? もしかして、私の前世と関係があるのですか?」
彼女が私を気にする理由があるとすれば、それしかない。
聖女様は教会の人間だ。
誰しもを平等に扱うとしても、限度があるはず。
美しく生きることを求める彼らが、極悪人であるリヴェリオを放っておくはずがないことは百も承知だ。
とはいえ、リヴェリオが生まれ変わっていることを知っていながら今まで何もアクションを起こしてこなかったことを考えると、まだそこまで脅威だとは思われていないのだと、思う。
しかし、今回彼女が動きだしたということは……。
嫌な思考が巡り、途端に全身に悪寒が走った。
私は何もしていない。
だがまだ、何もしていないだけだと思われていただけなのかもしれない。
教会が敵に回ってしまえば、私が抱いた平穏無事に生きるという願いすら叶わなくなってしまう。今日だってヴァリタスに前世のことがバレてしまったことで、遠のいてしまった夢だというのに。
ヴァリタス1人が敵に回った程度であれば私の願いは十分届く範囲だ。
だってこの国を出て、遠くの国にでも逃げればどうにかなるのだから。
しかしエヒム教は違う。
彼らの信者は今や世界中に存在しているのだ。
いくら遠くの国に行ったとしても、そこに信徒がいれば捕まってしまう可能性が高い。
エヒム教の信者は外の国の方が熱狂的な人が多いと聞くし、捕まってしまえば何をされるかわからない。
彼らが私に敵意を向ければ、誰も止めることはできないのだ。
強い不安が私を襲う。
まだ決まったことでもないのに、小さな体の震えを抑えることができなかった。
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