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第6章
315.驚き嵐
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「前世が悪人だった。ただそれだけで罪人とするのは間違っています。私が願った国はそんな国ではありません」
静かにけれど強い怒りを含ませた声だった。
震える声がそれを物語っている。
彼の前世を知っている国王陛下は反論することができない。
ヴァリタスは国王陛下から視線を逸らし前を向いた。
「皆さんはどうお思いですか? 彼女に罪があると、心の底から誓えますか?」
皆、一様に顔を見合わせる。
ざわざわと騒がしくなる、場内。
すると誰かがヴァリタスに向かって声を張り上げた。
「ヴァリタス殿下。確かにその者はまだ大きな犯罪は行っておりません。しかしこの先、悍ましい計画を企てない確証もありません! もしかしたら、今この時にも私たちをどうにかしようと画策しているかもしれないではないですか!」
途端に場内の空気がその発言に支配される。
同調するように声を張り上げる者や大きく何度も頷く者もいた。
誰もがその通りだと主張しているのが、俯いている私ですら感じ取れた。
「なるほど。つまり彼女がこの先災いを引き起こすのではないかと、そうお考えなのですね」
しかし、ヴァリタスは冷ややかに応える。
途端に先ほどまで威勢の良かった人々が怯んだのを感じた。
なぜ第2王子は目の前の罪人をここまで庇うのだろうか。
いくら婚約者として付き合いがあったのだとしても、庇うほどの相手ではないことは明白。
ヴァリタスの真意がわからない。
私にはそれが酷く怖かった。
目の前にいる彼が何を考えているのかわからないことがこんなにも恐怖を抱くことだったなんて。
壇上に上がっていた彼が一歩一歩階段を降りてくる。
コツコツと小気味の良い足音が場内に響いていた。
躊躇う事もなく私の目の前まで来ると歩みを止める。
一体どんな瞳で私を見つめているのか。
彼の顔を見るのが怖くて、ずっと俯いていた。
しかし次の瞬間、私の心は全く違った恐怖を突きつけられた。
「なら、私が彼女を見張りましょう」
は?
思わず顔を上げた。
彼がなんと口にしたのか、理解できなかったからだ。
今、何と言った?
ヴァリタスが私を見張る?
私の事を酷く嫌っているはずの彼が、自ら望んで傍に置くなどありえない。
何を考えている?
一体なにが狙いなの?
その疑問は私だけが抱いたものではなかった。
この場にいる全ての人々が彼の真意を理解できなかった。
「な、何を言っているのですか? その者の前世はこの国の、そして国王陛下一族の仇敵であるのですよ? そんなものの傍に国の財産である殿下を置くわけがないではないですか!」
さきほど大声を上げたものと同じ声がまたしても響き渡る。
私でさえ大きく頷きたいほど彼の主張はもっともだ。
けれどヴァリタスはその言葉を聞いた途端ため息を吐いた。
まるで呆れ果てているような様子に茫然としてしまう。
「確かに、彼女に恐れを抱いている人からすれば私を傍に置くことを恐れる方の気持ちはよくわかります。しかし彼女を監視するのは私の責任でもあるのです」
「責任、ですか?」
「ええ、なぜなら――」
「私の前世がバートン・クロネテスだからです」
静寂が場内を包み込んだ。
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。
どうして、今そんな事を言った?
そもそも前世がバラされるのが嫌で公表しないように願ったのは彼自身である。
まさか、自分の前世を公表するほど私を傍に置きたいと思っているという事。
それはつまり……。
私をどうにでもできる立場を手に入れるために手段を選ぶことを拒んだという事だ。
ああ、私一体どうなるの。
私、本当に今日で無事終わらせることができるのだろうか。
そんな私の不安をよそに、場内はまたしてもざわざわと騒がしくなる。
だがそれは、彼の前世に驚いているというよりもヴァリタスに抱き始めた不信感から来るものであった。
この場にいる人たちは彼の言葉だけで前世の正体を素直に信じるほど子供じゃない。
そんな都合良く、英雄が現れることの方がおかしいのだと皆理解していたのだ。
静かにけれど強い怒りを含ませた声だった。
震える声がそれを物語っている。
彼の前世を知っている国王陛下は反論することができない。
ヴァリタスは国王陛下から視線を逸らし前を向いた。
「皆さんはどうお思いですか? 彼女に罪があると、心の底から誓えますか?」
皆、一様に顔を見合わせる。
ざわざわと騒がしくなる、場内。
すると誰かがヴァリタスに向かって声を張り上げた。
「ヴァリタス殿下。確かにその者はまだ大きな犯罪は行っておりません。しかしこの先、悍ましい計画を企てない確証もありません! もしかしたら、今この時にも私たちをどうにかしようと画策しているかもしれないではないですか!」
途端に場内の空気がその発言に支配される。
同調するように声を張り上げる者や大きく何度も頷く者もいた。
誰もがその通りだと主張しているのが、俯いている私ですら感じ取れた。
「なるほど。つまり彼女がこの先災いを引き起こすのではないかと、そうお考えなのですね」
しかし、ヴァリタスは冷ややかに応える。
途端に先ほどまで威勢の良かった人々が怯んだのを感じた。
なぜ第2王子は目の前の罪人をここまで庇うのだろうか。
いくら婚約者として付き合いがあったのだとしても、庇うほどの相手ではないことは明白。
ヴァリタスの真意がわからない。
私にはそれが酷く怖かった。
目の前にいる彼が何を考えているのかわからないことがこんなにも恐怖を抱くことだったなんて。
壇上に上がっていた彼が一歩一歩階段を降りてくる。
コツコツと小気味の良い足音が場内に響いていた。
躊躇う事もなく私の目の前まで来ると歩みを止める。
一体どんな瞳で私を見つめているのか。
彼の顔を見るのが怖くて、ずっと俯いていた。
しかし次の瞬間、私の心は全く違った恐怖を突きつけられた。
「なら、私が彼女を見張りましょう」
は?
思わず顔を上げた。
彼がなんと口にしたのか、理解できなかったからだ。
今、何と言った?
ヴァリタスが私を見張る?
私の事を酷く嫌っているはずの彼が、自ら望んで傍に置くなどありえない。
何を考えている?
一体なにが狙いなの?
その疑問は私だけが抱いたものではなかった。
この場にいる全ての人々が彼の真意を理解できなかった。
「な、何を言っているのですか? その者の前世はこの国の、そして国王陛下一族の仇敵であるのですよ? そんなものの傍に国の財産である殿下を置くわけがないではないですか!」
さきほど大声を上げたものと同じ声がまたしても響き渡る。
私でさえ大きく頷きたいほど彼の主張はもっともだ。
けれどヴァリタスはその言葉を聞いた途端ため息を吐いた。
まるで呆れ果てているような様子に茫然としてしまう。
「確かに、彼女に恐れを抱いている人からすれば私を傍に置くことを恐れる方の気持ちはよくわかります。しかし彼女を監視するのは私の責任でもあるのです」
「責任、ですか?」
「ええ、なぜなら――」
「私の前世がバートン・クロネテスだからです」
静寂が場内を包み込んだ。
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。
どうして、今そんな事を言った?
そもそも前世がバラされるのが嫌で公表しないように願ったのは彼自身である。
まさか、自分の前世を公表するほど私を傍に置きたいと思っているという事。
それはつまり……。
私をどうにでもできる立場を手に入れるために手段を選ぶことを拒んだという事だ。
ああ、私一体どうなるの。
私、本当に今日で無事終わらせることができるのだろうか。
そんな私の不安をよそに、場内はまたしてもざわざわと騒がしくなる。
だがそれは、彼の前世に驚いているというよりもヴァリタスに抱き始めた不信感から来るものであった。
この場にいる人たちは彼の言葉だけで前世の正体を素直に信じるほど子供じゃない。
そんな都合良く、英雄が現れることの方がおかしいのだと皆理解していたのだ。
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