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1章 幼少期編 I
12.植物図鑑2
しおりを挟むワーナー先生は固まっている……これは気の毒。でも大丈夫です。わたくしにお任せあれ。
シュビッ! こども猿芝居、始動!
「わぁ、ワーナーせんせい、しゅご~い! せんせいのおはなし、シュシュでもわかるの~」
パチパチと手を叩くのはオープニングだ。
「ちゅぎはねぇ~、ルベールにいしゃまも、にも、おしえるて、ほし~の~」
叩いていた手を合わせてお願いのポーズを作る。
起承転結で言えば〈起〉である。
「ワーナーせんせいのおはなしは、しゅごいから~、みんな、きくたいと、おもうの~」
〈承〉である。
「ろうかの、おともだち、とか~」
盗み聞きしている同僚たちに〈転〉をお見舞いする。
『あ』とか『わ』とか聞こえた後に逃走する足音が響いた。
よしよし。聞かれて恥ずかしい外野はいなくなったよ、ワーナー先生。
──…次は〈結〉……結はどうしよう。
「うははははは!」
妹の一人芝居に『ホワッツ!?』って顔をしていたルベール兄さまが一転、腹を抱えて笑いだした。
──…これが結ということにしておこう。うん。
「も、ももも申し訳ありません、つい……」
年の離れた弟妹がいるのでとかモゴモゴ言っております。
「せんせ~。はやく、はやく~」
空気を読まずに空気を変えるのはエピローグである。
「コホン……はい。これ、です…ね。えー、大木…大きくて太い木ではなく………」
気を取り直したワーナー先生の、丁寧でゆっくりとした植物の説明が始まった。
赤面もすっと治まって意外に切り替えが早い……と思っていたら、ワーナー先生と目が合った。ちょっと照れられた。
真面目一貫な第一印象だったけど、”つるん”と”にゅわ~”で見事に砕け散って、柔らかい物腰が前面に出てきた感じだ。
今回はあだになってしまったけど、子供に慣れているということなら私と遊んでくれるかも…じゃなくて、忍耐強く子供の話を聞いてくれそうだから、植物の相談窓口は今後もこの人がいいな。うん、そうしてもらおう。ルベール兄さまにお願いして、アルベール兄さまにお願いして、シブメンにもお願いして……ダメでも勝手に遊びに来て付きまとおう。そう決めた!
逃げられないように先手を打って、お礼を先払いしたちゃおうかな。プリンとか。シャーベットとか。お菓子より商会からの金一封がいいかな?
……そういえばアルベール商会は会屋を持ってるって言ってたな。行ってみたいな。むむっ、5歳まではお城から出られないのだった。城の外には人がいっぱいいるんだろうなぁ。森や山は遠いのかなぁ。王都からどのくらい離れているのかなぁ。
「ルベールにいさま、やまに、いくの、は、だれ? あした、くる?」
「商会から冒険者ギルドに依頼することになるね。納入はどうだろう」
──…ぼ?
「これらは落葉樹なので今の時期は探しやすいですよ。こちらも収穫時期です。そうですね、順調にいけば……」
──…ぼぼぼ?
冒険者ギルドって言った!?
パーティー組んで魔獣討伐とかに行っちゃうアレ? 植物採取は Fランクのみなさんの仕事だったりするアレ? いや~ん、ロマ~ン!
「シュシュ、他に質問はあるかい?」
あ、聞いてなかった。記録終わったんですね。
「…………」
さぁ、3歳児の脳よ、働け!
チュイィィーーーン(イメージ音)
「……ん~、おイモ? そう! しょくりょーきき、たいさく!」
乙女ゲーム《秘密の国の秘密の恋》では───…
ルー王子が生まれた年に北部で大飢饉がおこるのだ。原因はファンブックにも記載されていなかったからわからない。でも、そのせいでルーは凶王子と呼ばれるようになってしまうのだ。呼ばせませんよ。絶対に!
「芋ですか? 家畜の餌の?」
出た。家畜の餌ネタ。
もしやと思い、稲の絵を描いて聞いてみたら案の定それも餌だった。
でも、あるなら助かる。私はお米の国の出身ですから。
「まるいおイモ、ながいおイモ、おコメ……むぎみたいの、ずかんがみたい、れす」
「探してまいります」
ワーナー先生は再び席を立つ。
一瞬、私たちがそこに行ったほうが早いのではと思ったけど、目の前の図鑑の状態を見て断念した。きっとひどい腐海な資料室に違いない。
───待つこと数分。
小麦と大麦はわかりやすく、お米も同じ並びに載っていて勝ったも同然。
そして、そして、根の図鑑はとーーーっても素晴らしいものだった。
「きゃーーーっ!」
ジャガイモとサツマイモらしきものを見つけて兄さまにメモしてもらい、後は流して見ていたら出るわ出るわ出るわ! これ生姜じゃない? こっちは明らかに蓮根。長いのはゴボウなのか長芋なのか。人参っぽいのも、大根っぽいのも、カブっぽいの………カブ?
あ、あ、あ、忘れてた『甜菜』!!!
サトウキビじゃない方の砂糖のもと! 寒げなところでも育つ根菜!
砂糖が高いなら自国で作ればいいじゃなぁ~い?
「シュシュッ! 鼻血っ!」
ありっ? ふがっ!
兄さまがハンカチーフで私の鼻をわしづかみっ!
「気分が悪いの? シュシュ?」
「ぢがっ……いじゅもの…」
興奮すると出る、いつものやつです。はしゃぎすぎると出ちゃうのだ。
「………もう、また? 今日はここまでにしよう。ワーナー魔導士、後日また頼みます」
「は、はぃ。あの、御典医を呼びに行きましょうか?」
兄さまは首を振りながら『昼寝させれば治まります』と、私を抱っこして魔導部を後にするのだった。
☆…☆…☆…☆…☆
「……もう止まったかな?」
むず……
「はっ、ブシュン!!!」
鼻血もくしゃみも急には止まりません。
鼻血って飛ぶんですね。
知ってました? 血まみれ兄さま。
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