51 / 203
1章 幼少期編 I
40.悪役令嬢の名前
しおりを挟む今日の授業は、私がお願いした小麦の標本を見せてもらった。
強力粉と薄力粉を分けて使いたかったのだ。
これは小麦粒を半分に切断するとわかる。
硬質小麦【強力粉】 断面:半透明
軟質小麦【薄力粉】 断面:白っぽくて不透明
強力粉、薄力粉の違い……………………
【強力粉】(もっちり)パン・ピザ生地・パスタ・中華麺・餃子の皮
【中力粉】(弾力とコシ)うどん・そば・そうめん(強力粉と薄力粉を混ぜて代用できる)
【薄力粉】(サクサク・フワフワ)クッキー・ケーキ・マフィン
………………………………………………
異世界でも美味しい生活をしたくて、前世でしっかりと記憶に刻んでおいたのだ。
偉いぞ、私!
しかし……ここまで来て、ワーナー先生からガックリくる一言をいただいた。
「パン用と菓子用で分けて使われていますが、そのことですか?」
☆…☆…☆…☆…☆
リボンくんがお迎えに来た。
いつもの授業終了時間より早いなと思ったら、お父さまとアルベール兄さまが待っているとのことだった。
あのことだな──ユエン侯爵家のレイラ令嬢。
ヒロインを虐める悪役令嬢が、アルベール兄さまの婚約者候補だったとは知らなかった。
ゲームでの彼女は銀髪の縦ロール&つり目というお約束のビジュアル。それはもう意地悪そうに笑っていたものである。現在は14歳のはずだ。
「お父さま~」
執務室に入ってすぐ駆け出そうとしたけど、手をつないでいたリボンくんが離してくれない。
きちんとご挨拶しましょうねと目が言っていた。
「ごきげんよう、お父さま、アルベールお兄さま(ここで可愛くご挨拶のポーズ)およびとおききしましたので…えと……さんじょういたしました?」
「ごきげんよう…のみで大丈夫ですよ。上手に出来ましたね」
合格をもらえた。やった。
「おいで、シュシューア」
わ~い!
抱き上げてもらって、ギュ~ッてしてもらって、ホッペにチュウだ。
そして私の指定席『お膝』! 至福の時間が始まりました~。
リボンくんが用意してくれたお茶をお父さまがふうふうしてくれて、クピクピ飲ませてくれて、クッキーもア~ンしてもらっちゃった。
「父上。この後、離宮で昼食を食べますから、餌を与えすぎないでください」
むっ、また餌って言った!
「そうか……シュシューアは美味しそうに食べるから、こちらが止まらなくなって困るな」
3枚目のア~ンで終わってしまった。
でも代わりに頭にチュウをもらったからいいのだ。むふん。
◇
お膝からソファに移動させられ、真面目なお話の開始です。
「アルベールから聞いたのだが、レイラ嬢は《予言の書》に登場していたようだな。どのような立ち位置であったのかな?」
「はい。レイラこうしゃくれいじょうは、ずうずうしい聖女と、たたかう人なのです。おいつめられると、お城のかいだんから聖女をつきとばしてしまう、つみをおかしてしまうのですが……」
アルベール兄さまはハッとする様子を見せた。
「殺してしまったのか?」
「聖女は、むきずです」
「…は? 無傷?……とは、凄いな」
ゲームのヒロインですから。
「新年のパーティで、レイラこうしゃくれいじょうは、兄さまたちに断罪されて、こくがいついほうにされてしまいます」
「祝賀の場で公開処刑のようなまねはせん」
憮然とするアルベール兄さま。
「殺人は未遂でも罪人であることは変わらない。罪人を国外に出すなど国の恥だ」
お父さまの言う通り。
厄介者を他国に押し付けるようなものですものね。
「アルベール兄さま。レイラこうしゃくれいじょうと結婚するのですか?」
一番知りたいことをズバッと尋ねてみる。
アルベール兄さまは居心地悪そうに肩をすくめて、お父さまに視線を移した。
「損得は抜きだ。気持ちの通じた女性と結婚しなさい」
「それがですね……昨日の午後にレイラ嬢からの先触れが届きまして、近くまで来ていると使いの者から聞いたので、王城の方に来るよう返答したのです。それでですね……レイラ嬢は父親の無礼を謝罪しに来たのですが……」
ゴニョゴニョ……何を言っているのか聞こえない。
「………」
「………」
「………」
お父さまがほくそ笑む。
「意気投合したのだな?」
「………はい」
「ひとめぼれ、ですか?」
「………言うな」
はぁん! 照れくさそうなアルベール兄さま。激写したい!
「どうしましょう、お父さま。シュシューアに、お姉さまができます! とってもうれしいです! なかよくしていただけるでしょうか!」
──…第一王子は悪役令嬢を見初めた! ヒロイン、ざまぁ!
「落ち着きなさい。結婚は16歳になってから……レイラ嬢が16歳になるのは2年後以降だ」
「……2年後?」
2年後って……
「おとうとが、生まれる年……ですね」
そして、北方で飢饉が起きる年。
「禍根を残さない結婚式にしなければなぁ、アルベール」
「ま、まだ求婚していませんよ」
「まぁ、ゆっくり育め。だが、他の男に取られんようにな」
「アルベール兄さま。かみかざりを、ふんずけると、りょうおもいになるという……」
「娘よ……それはお父さま限定だ」
「ははっ、彼女にそんなことをしたら張り倒される。父親を殴ってから私のところに来たんだぞ」
ひょぇ、そうでしたか。
アルベール兄さまは、強い女の子が好みだったのですね。
245
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜
咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。
元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。
そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。
「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」
軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続!
金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。
街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、
初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊!
気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、
ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。
本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走!
ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!?
これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ!
本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる