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1章 幼少期編 I
74.夏到来
しおりを挟む王都では、夏の社交シーズン真っただ中!
ただし、今期は商会の新店舗オープンがないので離宮の閉鎖はないのだ~♪
社交で忙しくなったアルベール兄さまとルベール兄さまは、とんと離宮に顔を出さなくなってしまったけど、朝夕食で会っているからそんなに淋しくはない……わけありません! 社交シーズンよ、早く終われ~。
☆…☆…☆…☆…☆
「甘いチョコアイスと、塩味の煎餅を交互に食べるのがいいよな~」
「コーヒーのぶらっくとチョコアイスの組み合わせが良いですな」
「わたくしは甘くて冷たいカフェオレと、塩煎餅の組み合わせが好きです」
今日のおやつは、チョコでコーティングした豆乳アイスクリームがメインです。
一口サイズのピ○っぽいの……これはベール兄さまの食べすぎ対策で、私は3粒、ベール兄さまは5粒、シブメンは6粒……お代わりは不可なのであります。
私たち3人は、米粉で作ってもらった薄焼き煎餅をバリバリ響かせながら、けだるい夏の午後を軒下でダラリと過ごしているところです。
軒下といっても幅は10m以上、奥行きがが3m以上はあるゆったり優雅テラスなのだ。食堂からと、厨房の庭側出入口と直結していて使い勝手がいいのだ。おまけにそよ風が通る気持ちのいい場所なのだ。
その風に乗って、コーヒー豆とカカオ豆の焙煎の香りが運ばれてくる。
ランド職人長たちが裏庭で焙煎しているのです。
厨房ではチギラ料理人が、チョコレートを滑らかにするべく奮闘しています。
魔導回転焙煎機も、魔導回転石臼も、まだ1台ずつしかないから昼夜を通してフル稼働しているようです。
人間の方は交代制で、アルベール商会の事務方の傭人まで担ぎ出されていた。
手伝えないけど応援してるよ。ガンバレ~。
◇
今夏のチョコレートは、パフェのフレーバーとしてレストランでデビューを果たしている。
豆乳アイスクリームとチョコのダブル攻撃だ。人気が出ないわけがない。
もちろんコーヒーもデビューしている。
アイスコーヒーとアイスカフェオレに氷を浮かべて、カラ~ン……ストローは間に合わなかったけど、パフェにも使われているマドラースプーンが大活躍しております。
さらにシブメンが院生に開発させた無臭のゼラチンも入手した……けど、デビューするには量が足らなかったので、私が待ち望んだ『コーヒーゼリー on 豆乳アイスクリーム』は離宮だけでフィーバーした。
特許に関しては、魔導回転焙煎機と魔導回転石臼の取得のみとなっている。
二つの豆の発酵法は特許を取らないそうだ。現場が遠すぎて管理ができないのですって。その辺りは、社交シーズン中に南方の領主たちと話し合いの場を持つと言っていました。
デビューがまだのゼラチンは、アルベール商会が全権を買い取る形になった。
研究院には寄付金の形で納金を。開発にあたった院生たちには、卒院後の就職の斡旋(アルベール商会の本業)と、支度金の約束が交わされた。
無臭のゼラチン作りは、脱臭全般の研究のついでのようなものだったので、院生たちは大喜びだったそうだ。
◇
「母上に持って行ったレベゼリーはどうだった?」
「はいっ、スルッと食べられました。おかわりも欲しがったのですよ」
「はぁ~、よかった。暑いのと悪阻で痩せちゃったもんな~。これで安心だ」
「5人目の御子ですからな。王妃殿下も慣れておいででしょう。心配ありません」
そうなの、そうなの。
今、お母さまのお腹の中に赤ちゃんがいるの!
ルーくんが地上に舞い降りてきたのです!
目出度い。愛でたい。早く出てこいルーくんや~い……っと名前は違うね。
名前の件はもうお父さまに言ってあるからね。安心してお姉さまに会いに来て。新しいお城で、一緒に楽しく過ごそうね。
もう一丁、そうなの。
新しいお城の建設も始まったの!
うっほーい!
新しいお城は「王城」と「王宮」がドッキングしたデラックスバージョンになります。
シブメンが「対人遮断魔法陣」を完成さて……おっと、これは国家機密。とにかくセキュリティ万全な夢のコラボなのであります。
知らせを聞いた時は、舞い上がってサンバを踊っちゃったね。
前に「建国の聖女が入ってこれないように」ってシブメンに相談したでしょう? あれが功を奏したのですよ。
なんだか聖女以外も侵入者を拒む設定になったらしいけど、なにかのあれで初期投資に凄くお金がかかるみたいだけど、まぁそれはさておき、ヒロインざまぁ!
──で、そんなことが出来るのも、予算の目処がついたからであります。
なななんと! アルベール・ティストームが高額納税者ランキング1位獲得! 現在進行形で爆進中!
外貨が凄まじい勢いで転がり込んできているのです。植物紙、印刷技術、厨房道具などなど……特に冷蔵庫と冷凍庫が大ヒットしているらしい。
全部ギルドに委託しているからお金が入ってくるだけだけど、それを新城建設にガンガン投資しているアルベール兄さまの執念が凄まじい。
貴族たちも社交シーズンのたびに、古い王城の夜会にわびしさを感じていたようで、寄付も集まっていると聞きました。勢いに押されたお父さまも国庫を開くことを許したそうですよ。
新城建設につぎ込みすぎていて『アルベール商会が~』とちょっとドキドキしたけど、浅草寺の風神みたいな顔して契約書類を片付けていたから大丈夫みたい。
でもね、王女経費を提供する準備は出来ておりますので、いつでもどうぞ。
お声がけ、お待ちしております。
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