85 / 203
1章 幼少期編 I
73.全部美味しい
しおりを挟む「姫さま、こんな感じでいかがですか?」
落ち込んでいるうちにナッツクランチチョコが形成されていた。
「わ、可愛いですね。冷やして固まったら1個ずつ食べましょうか。おやつは別ですよ。ホットケーキは今日絶対食べると決めているのです。ベール兄さまが」
お土産にメープルシロップをいただいたと聞いて、ジレジレと待っているのだ。
(ベール兄さまへのお土産はマラーナ珊瑚の装飾が付いたナイフです)
「ははは、じゃぁ準備して殿下がいらしたらメレンゲを立て始めます。それまで食堂にどうぞ」
は~い。
ベーキングパウダーがないので、パンケーキ系は全部メレンゲ製なのだ。
……………………………………………
ホットケーキの作り方
①卵白+甘液でメレンゲを作る。
②卵黄+豆乳+バニラエッセンス+薄力粉を泡だて器で混ぜる。
③メレンゲを潰さないように②をさっくり混ぜる。
④バターを溶かした平鍋で焼きます。
……………………………………………
バターとメープルシロップをたっぷりかけて召し上がれ……ですわ。
◇…◇…◇
「旨ぁーーーーっ! 全部初めての味だ! 全部旨いぞ!」
テーブルに並んでいるのは、バターとメープルシロップをたっぷりかけたホットケーキ。甘液の入っていないカフェオレ。ミニピッチャーに入った甘液。そしてそして、ナッツクランチチョコ、一粒!…だけです。一人一粒です。駄目ですよベール兄さま。
「楓の樹液は初めて食べましたが、風味があって美味しいですな。このチョコレートも、石臼を使えばこれ以上美味しくなる……ということでよろしいですかな?」
「はいっ! もっと滑らかな舌触りになるのです。でも、でも、これも美味しいですねぇ~。あぁ、何かいっぺんに味わっちゃって、もったいないです。チギラ料理人はどうでした?」
「皆さんと一緒です。みんな旨かったです。あえて言えば、何も入れないコーヒーで、ホットケーキもチョコレートも食べると旨さが引き立ちますね」
苦×甘のコラボですね。私も大人だったら同じ意見です。今は子供だからどんなに甘×甘×甘もドンと来い!
「……君、このチョコレートは沢山作っておくのが無難だ。アルベール王子殿下に急かされると思われる」
チギラ料理人がハッとしたように身構える。
「……贈り物用ですね。もうちょっと気合入れて綺麗に固めないと」
型……は、まだいいか。後で相談っと。
「ナッツ以外にも干し果物を細かくしたものも美味しいですよ」
とりあえず種類で勝負しましょう。
「それはルベール兄上が持ってちゃうぞ。俺はクッキーの砕いたやつを混ぜてほしい」
おぉ、クランチチョコ正統派。
「そういえば、お弟子さんたちは明日は来ないのですよね。殻剥きまでやっておいてもらった方が良いのではないですか?」
ひとり皮むき。孤独な作業。
豆乳の混合具をポコンするチギラ料理人の背中には哀愁があった。
「そっ、そうですね。そうします」
小走りで食堂を出て行くチギラ料理人。
『お~い、手伝ってくれぇ』…ちょっと声が情けなかった。
「シュシュ、この黒い菓子はいっぱい作れるのか? 楓の樹液は土産でもらったのだけだろ? 次は何作る? コーヒーは? このコーヒーで菓子は作らないのか?」
わかります、わかります。
美味しいものいっぱいで嬉しい悲鳴が出ちゃいますよね。
☆…☆…☆…☆…☆
数日後、新しい文房具を頂いた。
私が羽ペンを使いにくそうにしていたのを見たシブメンは、アルベール兄さまと相談して、簡単に潰れない金属のペン先を作ってくれたのだ(前話参照)
私が握りやすいようにペンの軸は太めで、ペン先が差し込めるように軸の先端内部にゴムが使われている。要は前世でのつけペンだ。これはもう完成された形なのね。とっても書きやすいのです。
植物紙が普及した後の羽ペン不足になるであろうことも考慮されていると聞きました。
「ルベール兄さまが、文房具セットの提案してるかも」
くふふふ……
215
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜
あいみ
ファンタジー
亡き祖母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。
困っている人がいればすぐに駆け付ける。
人が良すぎると周りからはよく怒られていた。
「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」
それは口癖。
最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。
偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。
両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。
優しく手を差し伸べられる存在になりたい。
変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。
目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。
そのはずだった。
不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……?
人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる