転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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1章 幼少期編 I

75.魔法陣クルクル

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社交シーズン中の王都は人口が5倍以上に膨れ上がる。

上都してくる封地貴族と、その依子の法衣貴族。貴族と親交のある地方富裕層。それを目当てに集まる商人。その商人に仕事をもらう出稼ぎの者。
それでなくとも、今は新城の建設で労働者が集まってきている。

アルベール商会は、忙しい出稼ぎ人たち向けの移動屋台を多数出したそうだ。
チギラ巻きと、ジャガかな? 立ち食い用には竹皮が活躍したとか嬉しい報告も聞いた。

竹皮は軍の携帯食保護にも使われている。
ただの皮だから商売にはならなかったけど、国に貢献したということで、アルベール商会は国王陛下から褒美を賜っていた。

その褒美とは、王都にある港に新施設を作る権利だ。

トロッコである。

強い海風を避けるため、地上から下の港へ続く坑道を斜めに掘り、荷を搬出入させるための設備を作る。
図面を見せてもらったけど、鉄のレールと、車輪付きの大きな箱が連なるそれは、完全なトロッコだった。
針金を編んで作ったワイヤーロープで引き上げるタイプだ。
レールの横に階段があるから人間を乗せるつもりはないらしい。

うふふ。これで海の幸がお手軽に……

──…あれ? もしや、私のためのトロッコでは?

諸々の私へのご褒美とか……アルベール兄さまがこっちを見てニヤニヤしてる。やっぱり!

「アルベール兄さまぁ~っ! ありがとうございます~!」

アルベール兄さまの足にしがみついて、精一杯の感謝の意を表明した。
アルベール兄さまには迷惑がられ、ルベール兄さまには叱られた。

「姫さま……」

リボンくんに微笑まれたのが、一番堪えた。


◇…◇…◇


お出かけの際はアルベール商会のお店にどうぞ。

高級レストラン《アルベノール》
多目的調理台のレストラン&販売店《ルベノール》
軽食レストラン&販売店《ベノール》

(お店の名付けは絶対お父さまね)

ベノールはカフェのようなお店で、破竹の勢いで店舗を増やしている大人気店であります。行ったことないけど。
王都以外の支店も含めると、もうすぐ30店を超えるそうです。

レストランの経営は、商会の利益の中ではそれほど上位を占めていないと聞いている。
それでもガンガン攻めの運営をしているのは、アルベール兄さまの趣味だからだ。
ミネバ副会長も食品関係の仕事がたぶん好き。
チギラ料理人を他店から引き抜いてきたのも彼という事だから、そういう事だと思う。


コーヒーとチョコレートは完全に手を離れ、今の離宮は一頃より大分落ち着いている。

ランド職人長たちは城外の工房に出ていて、ここしばらく顔を見ていない。
予約が殺到しているアルベール・ブランド製品の製作で、猫の手も借りたい状況になっているらしい。
ギルドに委託していても、何もしなくて良いわけではないのね。

チギラ料理人は、レストランに出す新作を作るべく、離宮で黙々と頑張っている。
夏用だけではなく、もう秋のメニュー作りにも取り掛かっていた。
お菓子と菓子パンの種類も凄い早さで増えていき、シブメンは毎日嬉しそうに通ってきていた。毎日会っているとたまに鼻歌を歌っている彼と遭遇する。何かをねだれるタイミングだ。そういうの、わかってきた。

「ゼルドラ魔導士長。作って欲しい魔導具があるのです。ゼルドラ魔導士長にしか作れないものだと思います。お時間に余裕はありますか?」

「……と言うと、魔法陣の構築に関わるものですかな?」

季節の野菜と揚げかすが乗った「塩ゴマだれ冷やしうどん」をズルリといく。
うどんより蒸し鶏を裂いたやつが主役っぽいところに食文化が出ているね。

「菓子を作る道具か? 新しい菓子ができるのか?」

ベール兄さまもズルリ。

「それも欲しいですが、違います……冷蔵庫に使っている温度を調整する魔法陣と、換気扇に使っている回転の魔法陣……このふたつを組み合わせて、涼しい風が出てくるものがあったら、快適な夏が過ごせるだろうなぁと思ったのです」

魔導冷風機をねだってみた。

「ふむ……それでしたら、温度調節で温かい風を送ることもできますな」


ぬおっ、エアコン!?

いける? いけちゃう? いっちゃおーーーっ!


しかして、試作品第一号はすぐに出来上がってきた。

試作品なので見た目が超カッコ悪い。四角い換気扇がそのまま台に乗った感じなのだ。
でも、ちゃんと涼しい風が来る。機能には何の問題もない……凄いよ、シブメン!

「次作は風の向きを変える機能をつけると、若いのが意気込んでいましたな」

首振り機能まで!

「母上の部屋に置こうぜ」

親孝行!

「それがいいですな。あまり冷えるのもよろしくないので、弱めに固定しておきましょう」

シブメンは機械の裏側にある薄い箱をパカリと開ける。

まだ調整ツマミはないのか……見たい。

私とベール兄さまは小走りで冷風機の裏に回り込む。



(………なにこれ)



箱の中で光る円がいくつもクルクル回っていた。
円のそれぞれが複雑な文字のようなものをギュッと閉じ込めているように見える。

シブメンが手をかざすと小刻みに震えて、模様の一部がスルッと変わった。



──…これが、魔法陣。


──…これが、魔法構築。



「うわぁ~~、鳥肌が立ったぞ。魔法陣って紙に書かれてるんじゃなかったんだ」

ベール兄さまが自分の腕をさすって後ずさった。

「わたくしも……紙だと思っていました」

てっきり護符のようなものだと。

「お二人とも、魔法陣をご覧になった事がないようですな」

シブメンの顔がシブシブになった。

「照明の蓋を開けて見るぐらいの事もしないとは……」

シブメンは冷風機の蓋を閉めると、おもむろに立ち上がって部屋を見渡す。

照明の蓋と言ってたから、壁の間接照明を探しているのだろうけど、生憎シブメンでも届きそうな位置の物はない。
仕方なさげに椅子を脚立代わりにしようと手を掛けるも、ふと私を見て『失敬』と言いつつ、後ろから脇に手を入れられた。そして持ち上げられた。

「一度上にずらしてから、手前に引くとはずれます」

「………」

マジックハンド代わりですか。いいですけど……(今度、ランド職人長に作ってもらおう)

壁に手を伸ばして、言われたとおりに照明カバーを外した。

何もない。

そうよね。電球は、無いわよね。

じゃぁ、それじゃぁ…あれ? そういえば照明に蝋燭を使ってるのって見たことないな。
なんでだ? なんで明るかった? 電気が無い世界でどうやって照明器具を光らせていた? いや、魔法で光らせていたみたいだけど。

──…昼も夜も室内は明るくて当たり前。

前世がそうだったから何の不思議にも思わなかった。浅いな……私。

「注目」

私を床に下したシブメンは、カバーを外して枠だけになった照明の横に立つ。

次に照明の下の調節ツマミに触れる。そして、ゆっくり捻る。

何もなかったそこに、ホワッと優しい光が現れた。

「光の中心をよく見てください。小さな魔法陣が見えませんかな?」


じ~っ(ベール兄さま)
じ~っ (私)


あったーっ! ちっちゃいのがクルクル回ってる!


「すげーっ! 俺、近衛騎士団長やめて魔導士になろうかな!」
「わたくしも、わたくしも! 出でよ炎ファイヤーボール!」
「シュシュはトルドンの王妃になるんだろ?」
「ベール兄さまこそ。集めた剣が泣きますよ」

「5歳の魔力判定で適性がなければ、一生魔導士にはなれません」

ベール兄さまを見て、シブメンの教育的指導が入った。

「うぐぅ、そうだった」

「手をかざしても、そこから炎が出ることはありません」

私を見て、かわいそうな子を見るような顔で首を振られた。

「出ないんですか?」
「魔導とは魔力を演算しながら発動させる波動です」
「…?…… 何を言っているのか、わかりません」
「俺もわからない」

さっぱりな妖精は出てこない。

「ふむ……外へ」

庭に出て講義が始まるらしい。
私たちは手をつないでついていく。

「例えばこの砂…………」

しゃがみこんで砂を掴むと、わからないけど、何かやっている。
そして手を広げると、砂は掴んだ形のまま固まっていた。
固まるはずのないサラサラの砂だ。泥団子ではない。

「何やったんだ?」
「魔力を捏ねて簡単に結束させました」

固まった砂を差し出してきたので、ベール兄さまが指先で突いてみる。
突いたところだけが崩れた。
私もやってみて同じように崩れた。

「この魔力を捏ねるという技は想像力と演算力が……いえ、くっつけと思いながら魔素方程式を……あ~、例えば乗算し続けるような計算を頭の中でやるとこうなります」

私たちの理解していない顔を見て噛み砕いて説明してくれた……ようだけど、理解できていません。

「俺、無理。近衛騎士団長でいいや」
「わたくしも、トルドンの王妃でいいです」

そんな暗算できない。そして諦め方が傲慢。

「王子殿下はそれでよろしい。しかし王女殿下は今年の魔力判定で適性が出たら、厳しい勉強が待っていますなぁ」

え”? やだ、計算キライ。

「まっ、魔導士になりたくなかったら? 私の自由意志はどうなるのです?」

「魔力判定で適性が出た時点で魔導士です。有能な魔導士になるのも、無能な魔導士になるのも……そこは自由意志ですな」

「シュシュには無理だ。頭が悪いから」

私もそう思います。

「そうだ、適性検査に行かなければいいのでは?」

「そういう自由もあります……平民には。しかし公僕にはその権利がありません。王女殿下、義務ですぞ。王族も公僕なのをお忘れなく」

くぅぅ、税金で食べさせてもらってる身の上だった。

「しかしながら、適性がありましたら私が指導いたしましょう。ちょっとしたコツがあるのです」

シブメンは自分の頭を指で小突き、ニヒルに笑った。

「頭がよくなるコツか? そんなのあるのか?」

頭の良くなるコツ?

興奮を抑える綴言の効き目は実感している。
睡眠記憶学習的な綴言があったりする?

あるのね? きっとそうだ! そうに違いない!

「きゃーっ! 一生ついていきますわーっ!」

足に抱きつく。
新たな教師をゲットした。
役に立つ…違う、便利…違う、頼りになる…これ!

「妻がいるのでご遠慮申し上げます」


へ?


「……… 恋愛結婚です。息子もいます……何か?」


ひえぇぇぇ!





どうでもいい設定………………
誰もが魔力器官を持って生まれてくる。魔力器官とは魔力を体内に溜めて置く機能を持つ。誕生後数ヶ月で退化してしまう者がほとんどだが、3歳を過ぎたあたりで魔力器官が活動していれば一生退化することはない。余裕を見て検査を5歳にしてある。
……………………………………
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