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2章 幼少期編 II
10.魔導灯ノススメ
しおりを挟むワーナー先生お勧めの魔導灯は巨大なドームだった。
扉があるから中は空洞なのだろうか。雪かまくらのような、エスキモーの家のような、白くて丸いのは神殿のこだわりが利いているのか……シンプルすぎて見目はイマイチというのが正直な感想だ。
「わたくしは縦に長いものを想像していました。この丸いものが夜になると虹色に光り出すのですか?」
「そうだよ。暗くなると本当に七色に輝いて美しいんだ。今日は見られないけど、昼間には別の楽しみ方があるから安心して……中に入ろうか」
中に入れてもらえるのか……おっと、いつの間にか魔導灯の扉前にも神官が立っていた。また開けてくれるのね。
開かれた扉の中にまず護衛が入り、安全確認を終えたら私たちも入る。
内部は建物の形のままの天井と飾り気のない壁…外から見た印象よりも広く感じられた。
間接照明の灯が虹色だったので、あれが外側のドームから放たれるのかと想像してみる。七色の雪見だいふく餅程度にはイメージングできたと思う。不味そうに感じて評価は落ちた。
「シュシュ、ここに並んで座ろう」
は~い。
天井の中心の下にあるオブジェを囲んで、30脚くらいの安楽椅子があるのだが、私たちしかいない。
たぶん貸し切り、たぶん完全予約制、たぶん有料、たぶんお安くない。
楽器を持った神官がふたり入って来て、扉が静かに閉められた。
スゥと照明が落ちる。
暗くなりきる前に、ルベール兄さまの手が伸びてきた。
私はその手をキュッと掴む。だって仲良しだもの。
「神殿に伝わる神々の音楽を奏でます。今は見られない夏の星々の輝きと共に……どうぞお楽しみください」
はい、プラネタリウムですね。
昼間でも夜空を楽しみたいという酔狂な人は、異世界にもいたと判明いたしました。あ、前の宮廷魔導士長でしたね。
「……始まるよ」
天井がほんのりと赤く染まった。
夕焼けだ。
切ない笛の音から弦楽へと移り、重なり、紫色の星空が現れる。
少しづつ色濃くなってゆく夜空。
鮮明に煌めきだす星々。
欠けた月と……天の川。
天の川か……異世界にも銀河系ってあるんだな。お日様があるんだから太陽系もあるのかな?……う~ん、苦手なジャンルだ。理科は嫌いだった。
……それでも、思うところはある。
多くの理が地球と似ているこの星では、息づく命の形もほぼ同じなのだ。
条件が揃えば進化が同じなどと野暮なことは考えていないし、こんな偶然は有り得ない。
真実とか、解明とか、そんなものは出来るはずもないし、正直あまり興味はない。
けれど……神と呼ばれる高次の存在が、人間などには計り知れない計画で、星という箱庭を愛でている……転生する前にそう感じた。
地球の方はわからないけれど、少なくともこの星はそう。この星には大神がいる。
大神の上の上のもっと上もいそうだけど、大神の子分の子分のもっと子分もいるね。
ワーナー先生に聞いた大陸の四柱神の地位は如何ほどなのか。
一番身近な西大陸の西神さま……くふふ、白虎とか呼んじゃったりして。
……むっ。
もしかして、西神って乙女ゲームでの大陸神のことじゃないの?
建国の聖女とつながりがあったよね。愛し子とかなんとか……
男遊びに現を抜かさない人を選んでほしかったわ!
聞こえてますか!? 白虎~っ!
「……ルベール兄さま、わたくし用を思い出してしまいました」
演奏が盛り上がってきたところで、いきなり催しだした。
『用を思い出した』はその場を失礼するあらゆる場面で使われるが、私の場合は明らかにオシッコである。
「あ~、ごめんね。ここに入る前に聞けばよかったね」
ルベール兄さまは演奏する神官に中止の合図を送る。
「ルベール兄さま、わたくしの用は緊急です。抱っこして走ってください」
「ええ!? 頑張って我慢して! ねぇ君っ、一番近いご用室に案内して!」
慌てて護衛が扉を開けに走った。
案内役の神官と、御用室の安全確認のための護衛も先導して走った。
ルベール兄さまも走った。
両脇に手を入れられ、ルベール兄さまの体から離されてぶら下がる私は、漏らす前提の形で運ばれた。
後方を守る護衛も周囲を警戒しながら走った。
従者たちも追いかけて来る。
結果としては間に合った。
しかし、黒歴史になるのは間違いないのであった。
………続く
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