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2章 幼少期編 II
23.防衛計画(Side アルベール)
しおりを挟む【アルベール視点】
ガイナ帝国が、東のザブクルナを陥落するのは時間の問題である。
次の侵略地はどこであるのか、周辺諸国は戦線恐慌としていることであろう。
帝国がザブクルナ侵攻に気を向けている間に国力を上げる──どの国もその政策を立てるのは理解しているつもりだ。
こちらも協力要請があれば、話し合いの席を設けても良いと考えている。その姿勢は諸外国には明確に示してきた。
しかし……
【グエンダル、ホーズ、ケムトレイの三国同盟が成立】したとの報が入った。
……よりにもよって『ティストーム植民地化計画』が旗印である。
「ふざけるでないわーーーっ!」
鉄面皮と言われている宰相が、自身の執務机を剣で分断したという噂は本当であろうか。
幼い孫娘の『おこっちゃ、め~よ』で冷静になったとも、まことしやかに囁かれているが。
そして議会で知らされた重鎮たちも、あの世に飛んで往くのではないかという勢いで噴火した。
然りとて年寄りの興奮は長続きしない。程なく静まり返った議会は通常通り進められ、軍務大臣からこうした場合の模擬案資料が読み上げられた。
北西の仮想敵三国はティストームと隣接していないことから、攻め来るのならば海からである。
断崖絶壁から上陸するのは困難ではあるが、残念ながら不可能ではない。
面倒なことに、大型船から放たれる小舟の各個撃破は難しく、方々に散らばると手に負えなくなるのだ。
我が国土の海岸面が長すぎるのも、こうなると徒としか思えなくなる。
小舟が出る前に大型船を沈めたい。
しかし、シュシューアも言っていたように投石機は命中率が低い。そして大型船は射程範囲には近づかない。
そこで今しがた出てきた、黒色火薬を使った『砲』という射撃武器の記憶情報である。父が食いつかないはずはない。
負ける気はもとよりないが、確実な勝機に導くための武器になるはずである。是が非でも完成させねばならない。
「大変です! ティストームが狙われています!」
ようやく記憶を拾ったか。
シュシューアの媒体に同調した私たち家族は、本人でも気付かない考えや、記憶の欠片が舞っている酷く曖昧な世界に浸った。
あの空間で読み取れたもののひとつ、緊急性を帯びた『戦争準備』の響き……だからこその黒色火薬なのだ。シュシューアの殺傷武器を恐れない思考は、そこからきているのかもしれない。
今思えば、遠征食が旨くないと知って嘆くベールのために、シュシューアが記憶から引っ張り出してきた『缶詰』もそうだ。
缶詰とは加熱調理をした食品を金属容器に詰めたものである。
真空ポンプ(井戸ポンプと原理は同じ)を使って空気を抜いた後に蓋をするのだが、その蓋の構造に研究院の技術者たちが唸っていたあの顔は記憶に新しい。
乗せた蓋の縁で本体の縁を巻き込む“巻締”という加工方法。
蓋の曲げ部分の隙間を埋めるために、屑水晶を加工した耐熱性の弾力材を塗布する発想(魔導具職人に言わせれば当たり前のことらしいが)
軽く切り込み溝をつけておいて摘まみを引くと蓋が開く手軽さ。
密封した缶詰めは熱殺菌処理され、現在は研究院に保管されている。経過を観察しているところだ。
殺菌が足りなかったり、隙間が空いていれば中身が腐って膨張するらしい。膨張しすぎると破裂するそうだから注意が必要だ。
しかし成功すれば、環境に左右されずに3年の保存がきく食料が得られることになる。
軽い上にかさばらず、落としても割れないという利点もある。素材が鍋にも使われているアラカ鋼なので、開封した缶をそのまま火にかけることもできる。冬の遠征先で重宝されるのが目に見えるようだ。
このような異世界の便利品の記憶を披露するたびに、シュシューアが口うるさく言ってくることがある。
【低予算と大量生産】この組み合わせには落とし穴があるのだと。産業公害という異世界の失敗例を切々と訴えていた。
金属中毒の危険。溶剤の揮発時の毒性。
摂取時に症状が出なくとも、体内に蓄積されて先々に苦しむことになるのだと。
最近加わったのは、缶は捨てずに再利用すること(行軍中であったら帰りに回収!)だ。
使い捨ての紙はどうなのかと揶揄ったが、それは違うのだとベールのように暴れた。虫の居所が悪かったようだ。
………続く
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