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2章 幼少期編 II
24.また北なのか(Side アルベール)
しおりを挟む【アルベール視点】
「建国の聖女が勝敗の鍵を握っているかもしれませんが、のこのこ戦場に現れて皆の足を引っ張るに違いありません。お父さま、ピンク頭にご注意くださいませ」
「あぁ、建国の聖女だったな……さて、どうするか」
父は力なく唸って、シュシューアの頭をなでる。
媒体の同調で”建国の聖女”の創作説が崩れたのだ。
シュシューアの記憶の外から来る謎の情報の中に、そのような存在が確認できてしまった。
酷く朧気で詳細はわからない。だが確かにこの世界にある。
同じ媒体持ちであるルベールが探っていたが、言葉では表現できないと言っていた。
後にゼルドラに問うも、媒体の仕組みには謎が多く、解明は未だされていないと返ってきた。
建国の聖女……脅威になるのか、ただの迷惑女なのか……面倒ではあるが放置しておくこともできない。
私も父の様に、いつの間にか唸っていた。
「お父さま、花火のご褒美はなしにして、新しいお城より空中街道を先に作るというお願いに変更できますか? リボンくんが心配です。ね、ね、アルベール兄さま、お願いします。そんな顔なさらないで? お城はちょっとだけ我慢しましょう。儲かりそうな物をもっと思い出しますから。ね?」
生意気にも、たまにこう諭されることがある……前世の経験からきているのだろうか。
はっきりとした享年は覚えていないようだが、信じ難いことに、私より年上だったというのだから驚く。
「わかっている。こうなってしまっては新城どころではないからな」
やっとここまでこぎつけたのだが、国防が優先だ。致し方ない。
「ですけど、なぜ北ばかりが狙われるのでしょうかねぇ、もぅ」
北と言ったか? そういえばリボンが心配と……
「シュシューア。お父さまは海から来る侵略に備えているのだが、”予言の書”には北方の戦争が記されていたのか? あそこには海がないぞ?」
父親の頭をなでる手が止まったので、シュシューアは抗議の目を向ける。
「シュシューア、説明しなさい」
不満に口を尖らせながらも、妹は記憶を探る体制に入った。
「……イラスト集のあれかなぁ。剣を持つアルベール王子のバックの海……お父さま、ティストームから見える海に大型帆船が並ぶことはありますか?」
「平時では無いな。大型船が接岸できる港がない……船団が来るのだな。それで、北が戦場になるとは?」
「ガーランドに魔素溜りを作って、わざと暴走させるのです。スタンピードと敵の軍隊の両方と戦わなければならないのですが、憎らしいあの聖女が魔素溜りを浄化すれば勝つというか、有利になるというか……むぅ」
シュシューアは気に入らない展開に、唇を尖らせてむくれる。
「アルベール、意見を聞かせてくれ」
父の中では既に答えは出ているのだろうが、時折こうやって質問を投げかけてくる。試されているのだ。
「……魔素溜りを消滅させる魔導具をガーランドに配備しておきましょう…「そんな魔導具があるのですか!?」…あるぞ…「建国の聖女は用なしですね!」…少し黙っていなさい…「は~ぃ」…そこに敵兵が現れるとなると、トルドンが条約を破り、三国同盟の軍を引き入れ、”境の森”経由でヨーンから進軍する。しかし大した数にはなりませんね。そもそもヨーン男爵領を素通りできるはずもありません。あとは奇策として山越えですか。いえ、数を揃えるなら山越え以外あり得ませんね」
山越えとなると、相手はガイナ帝国という事になる。
「帝国と諸外国が、山から海から一度に来られたりしたら大事ですね」
「そういうことだ。帝国がザブクルナを陥落したら、来るぞ」
次はティストームだというわけか。
では北西の三国同盟も帝国の肝いりだな。
「シュシューア。空中街道の件、承知した。二望とも褒美として遣わすぞ」
「ははぁ~~~っ、恐悦至極に存じますぅ」
ふざけて父親の膝にひれ伏すシュシューアを見下ろす。
不思議なことに、こんな不謹慎な態度を許せてしまう妹なのだ。認めたくはないが可愛いとも思う。
「黒色火薬の次は『綿火薬』です。ティストームは無敵にならなくてはいけませんからね」
……まだあるのか。
「アルベール兄さま。空中街道の建設について知りたいと思います。便利な道具を思い出すかもしれません」
「わかった。後日見学に連れて行こう」
「ふふ……頼もしい子供たちだ」
「おまかせください。ベール兄さまのお尻は、わたくしが守ります」
……そこに戻るのか。
本日の昼食である”とんこつラーメン”を完食した父は、次のチューカファースの際も必ず呼ぶようにと言いおいて離宮を後にした。
チギラが柱の陰で首を振っていたが、諦めろ。
どうでもいい設定…………………
東西南北の大陸間では、不可侵条約があるという設定です。
………………………………………
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