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2章 幼少期編 II
36.建設現場見学ツアー10
しおりを挟む三段お重がほぼ空になって、締めのうさリンゴをシャクシャクしていたら、休憩中の作業員たちの姿が目に入った。
足場の日陰で仲間内の話をしたり、昼寝をしたり、そんな様子が前世の作業現場と同じだなぁと眺めていると、なんだか楽しくなってきた。食後の缶コーヒーがあったら完璧ですね。
そういえば、ズボンの下が膨らんだニッカポッカにはどんな利点があったのだろう。あれは鳶職の人が穿くのよね。そうだ、鳶職と言えば地下足袋があった。靴の裏にガモ素材を使った時に思い出せなかったな。あ~、でも、石を運んでいるから、ここの現場は安全靴の方が必要かも……う~む。
「記録が必要か?」
アルベール兄さまが私の表情を読んだ。
別に今じゃなくてもいいけど……もうお腹いっぱいだし、侍従さんがスタンバってるから記録してもらいましょうか。
「え~と、作業員に必要な装備がいくつかあります。頭を落下物から守るための『保護帽』これは内側に平紐を張って浮かせて被るものですが……」
説明できないので、侍従の筆記具を貸してもらった。
ちょっと時間がかかりますよ。
カリ、カリ、カリ、カリ…………
はい、終了。筆記具はお返しします。
ヘルメットの内装はグルッと頭を囲んで、頭頂部のパッドに平紐をバッテンに渡して、耳の邪魔にならないようにY字型のベルトを顎まで伸ばす。長さ調整のアジャスター、バックルは確かこんな形って程度……わからないからここは口で説明した。侍従がすかさず『固定させる金具』と記入する。
ヘルメット本体は合成樹脂がないから金属になっちゃうのかな『軽くて硬い素材』と書いてもらった。
「兵士用ではないから拳大の石に耐える程度でいいだろう。こちらは、命綱だな?」
「はい、足場にこの金具を簡単に引っ掛けられるようにするのです。簡単でないと本人が面倒がってやらなくなってしまいますから、一動作でないと意味のない道具になります。ここを握って口を開けて、握りを放すとバネの力で口が閉じるように作ってほしいです」
カリカリカリカリ……わぁ、この侍従さん書くの早い。全部書き留めてる。
「この手袋の細かい突起はなんだ? こっちのは鉄靴か?」
ベール兄さまが覗き込んできた。
鉄靴と聞いてルエ団長も身を乗り出す。
シブメンは興味なさげに最後のうさリンゴを食べている。
「編み手袋にガモの滑り止めを接着したものです。編み方はゴム編みといって、え~と、これは後でいいですね。で、こちらは石をうっかり足の上に落としてしまっても怪我をしない履物です。金属部分と一体型にした靴が理想なのですけど、貸し借りをしてしまいそうなので装着型がいいと思いました。面倒かもしれませんが、靴の貸し借りをしてはいけないのです」
水虫の感染を防ぐためです。食事中だから言いませんが。
「足痒病か?」
うっ、ルエ団長が食いついてしまった。
後ろで交代しながら食事している騎士も、なんか反応した。
「え~と、この話は帰ってからにしましょう」
「いいや、今聞きたい」
「食事中の方がいるのです」
「お前たち、構わないよな!」
上司に言われたら部下は否やと言えないではないですかっ。ムキーッ!
「わたくしっ、食事を不味くする方は嫌いです!!」
(………はっ!)
私の沸点がこんな所に……食? 食なの? 食で着火するの?
意外や意外、いや意外でもないけど、自分でビックリ。
(………あ、れ?)
天幕内がシ~ンとなっちゃってる!
うわわわわ、どうしよう。失敗しちゃった。
「ごめっ、ごめごめごめんなさいっ」
「あ~、いや、すまん。騎士団には、あ~、多いから、つい」
うぅぅ、子供が大人を困らせてるぅ。元大人としてやるせない。申し訳ございません。脳内スライディング土下座ー-ーっ!
「えっと、えと、仲直り、してください!」
両手をシュパッと出す。
『え?』って顔をされたけど、ルエ団長に握手を迫った。
しかし、何を勘違いしたのかひょいっと抱っこされてしまった。抱っこの催促と思われたみたいだ。いいけど。
「仲直り、ですね」
「仲直りだな」
ニッコリ。
喧嘩してたわけじゃないけど仲直りできた。ほ~っ……はっ、シブメンの馬鹿馬鹿しいという視線とぶつかった。
えぇ、そうですよ。子供だましに付き合ってもらっているんですよ。ルエ団長が懐の広い人で助かりましたよ。何か? くぅ、笑ってるのは誰ですか?
………続く
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