171 / 206
2章 幼少期編 II
52.研究院 1
しおりを挟むワーナー先生の授業が終わったら、アルベール兄さまとベール兄さまがお迎えに来た。
わかってたけど外出のお誘いだった。やっほーい!
お出かけ準備は昨日からもう万端で、浮かれすぎて昨夜はよく眠れなかったのだ。
馬車の中で眠くなりませんように。眠るなんてもったいない。存分に楽しまなくちゃ。
今日の足は〈アルベ I 改良型7〉
旧式を極限まで乗り心地良くしたベール兄さま専用馬車である。
紺色の塗装が近衛騎士の記章に合わせてあって、ベール兄さまの好みが思い切り出ています。
向かう先は研究院──正式名称『ティストーム王立研究知枢院』
場所は平民の裕福層で、西本道からはだいぶ北側にそれた位置にある。
周辺が院生の街になっているらしく、馬車が通る両脇には院生用の寮や若者向けの店が立ち並んでいた。
通る人の姿はやっぱり院生が多い。どうして院生だってわかるのかって?
「研究院って、制服があったんだな」
ベール兄さまも研究院に来るのは初めてのようだ。
生成りの綿シャツに黒ズボン。女性の院生は少ないけど黒のロングスカート。
黒ベストは着ていたり着ていなかったり。冬にはこれにジャケットと外套が加わるそうだ。
襟や袖には花文字の生徒番号が染めで入っていて、わざと目立つような趣向が凝らしてある。それが勲章のようでとってもお洒落だ。カバンを片手に颯爽と歩く院生たちがカッコいいこと。そうでない人もたまにいるけど。
アルベール兄さまが言う事には、やたらとデザインチックなのは安易に売買できないようにするためだそうだ。なんでも相当高値で売れるらしい。
なぜなら───
院生はモテる。将来性があるからとにかくモテる。
だから院生の振りをして女性に悪さをする者が後を絶たないのだそうだ。けしからんね。
制服を着ると3割増しに男前度が上がることもあって、遊び倒して貢がさせてポイされてしまうのだ。ホントにけしからん。
じゃぁ、女性の偽院生は?
男性と違ってあらゆる門戸が狭いことから、女性の院生はまず遊ばない。
その固さを笑う者たちもいるが、それを知っているからこそ、男性に近づく偽女院生は相当手練れでなければ騙すことはできない。
デキる女が好きな男性もいるだろうし、必死に頑張る姿を健気に感じる男性もいるだろうが……
だけど制服にナンバリングされているのでしょ? 身元確認できるでしょ?
恋は盲目……確認なんてしないらしい。
もういっちょ、売った方もすぐバレるでしょ? それがバレないらしい。
抜け道なんていくらでもあるのだ。それこそ偽制服を作ればいいことなのだから。
そんなだから「裏の仕立て屋」なんぞが存在する。詐欺程度に使うには採算が取れないから、それはもう他国の間者とかの管轄だそうですけどね。
研究院の情報は国をも動かす時があるのだ……とアルベール兄さまがドヤ顔で申しております。
はい、勉強になりました。
明日も覚えているかは保証できませんが。キリッ。
ともかく……げに恐ろしきは制服マジックです。
異世界でもどこでもいっしょか。
コレクターもいそうだね。
ブルセラみたいなお店があったりして。コスプレパブとかは……聞いたら叱られた。
王都にイメク……聞く前に叱られた。
ベール兄さまは聞きたそうにしているから、お城に帰ったら教えてあげ……叱られた。
「性教育は大切ですよ。ねっ、ベール兄さま」
「うむ。知識だけはあるぞ。騎士団に出入りしていると耳に入ってくるんだ。質問すればなんでも答えてくれるしな」
「ほらぁ~、アルベール兄さま」
「お前は何歳だ?…「5歳です」…ベールは何歳だ…「もうすぐ10歳」……ベールはともかく…「ともかくなんだ」…シュシューア、黙りなさい!」
「はぁ~い」
喪女だってY談が好きなのに……なんでこんな話になったんだけ? あ、そうそう、制服ね。
制服を売った院生、もしくは紛失してしまった院生には、もちろんそれなりのペナルティがあるそうだ。
紛失(盗難含む)の場合は、いかに早く紛失届を提出するかが鍵になる。
要は自己管理能力を問われるわけだが、私が知っているところの内申書に記録されるらしい。
売った場合は、取り調べられて精査された後、最終決定は彼らを後見する推薦人が決めることになる。
(院に入るには貴族平民に関わらず、名士の推薦状が必要なのだ)
推薦した名士の面子を潰したわけだから、推薦は当然取り消され即放院、そして推薦人と研究院への賠償金を支払わなければならない。
制服を売る行為を犯した者に支払い能力があるはずもなく、大抵は借金労役が課せられることになる。
たかが制服、されど制服。
制服の威力は強く、そして重い。
城人に支給される制服も同じ扱いなのだ。
院生だからと甘いことは言っていられないのである。
だからして、研究院の卒業時に、城勤めの退官時に、制服の返却は必須なのである。
……とアルベール兄さまが申しております。
………続く
136
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる