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2章 幼少期編 II
51.ピンク情報(改訂版)
しおりを挟むアルベール兄さま、ベール兄さま、シブメン、ルエ団長、ミネバ副会長、壁際にヌディと王子たちの従者が立ち、そこに新たに騎士と宮廷画家が加わった。
応接室がギュッと詰まった感じになったけど誰も気にせず、あいさつの後はアルベール兄さまの合図でソファーに座る。
3人掛けのソファーが2台しかないので、シブメン・ルエ団長・宮廷画家が1台に、テーブルを挟んだ向かい側は私たち王子と王女が座った。
「お聞きした人物像を、雰囲気を変えて3枚描いてみました……確認してください」
宮廷画家は、ピンクの特徴を伝えたルエ団長に紙を広げて渡す。
「おぉ、色を着けてくれたのか。うん、わかりやすいな……これと、こっちと……う~ん、これだな。これが一番似ている。王女、これがピンクだ」
ルエ団長が厳選したピンクの姿絵が、テーブルの上を滑らせてこちらに向けられた。
全員が覗き込んだ。
脇に立っている者たちも興味津々の様子。
「…………」
姿絵を見て、次は私が注目された。
転生してきた建国の聖女かどうか、答えを期待されている。
──…ヒロインだ。
ピンクのゆるふわボブ、白い長袖のブラウス、青いミニスカート……ビジュアルは間違いなくヒロインだ。
──…うわっ、ゾクゾクする。鳥肌が立ってきた。
「媒体の同調で感じたピンクの外見は、まぁ、こんな感じであった」
アルベール兄さまが、私の代わりに皆の期待に応えてくれた。
同時に隣に座る私を持ち上げて膝に乗せてくれた。抱えるお腹をポンポンしてくれた。
「そーだなぁ、俺も媒体で受けた印象は足丸出しだった」
妹の異変に気付いたベール兄さまも、私の足をポンポンしてくれた。
「この走り書きの『年齢不詳』とは何だ? 私たちを篭絡しにくるピンクは10代だ。少なくとも私より年下のはずだ」
「ピンクの頭に目が行って、顔はぼんやりとしか思い出せない。けど、化粧は濃かった」
ルエ団長は天井を見上げて記憶を掘り起こしている様子だ。
「化粧が濃い聖女? 予言の書と印象が違う……ニセモノじゃないか?」
ベール兄さまがピンクである説を否定した。
「予言の書を読んだことがあるというだけの無関係の者が、建国の聖女の転生者に成り代わる。目的は王子妃という地位と権力……」
アルベール兄さまもニセモノ説に同意した。
「父上が言う通り、予言の書には創作が入ってるんだ。建国の聖女が転生してくるなんて"物語"すぎる」
ベール兄さまによる否定説がさらにプッシュされた。
「じゃぁ、なんだ? 俺がハマった罠は何だったんだ? ハマり損か?」
ルエ団長は納得できずにへそを曲げた。それでもハンサムはハンサムだ。真正ハンサムはどんな顔でもハンサムなのだ。
「落としたハンカチーフを拾わされたのですから、間違いなくルエ団長は狙われていましたよ」
ピンク否定説で私のライフゲージは盛り返した!
シュシューア復活!
再起動!
チュイーーーン
例えニセモノであろうとも、ゴミ屑ピンクは許さない!
王子に近づく毒々女は、この転生王女シュシューアが排除してくれる!
むんっ。
「魔素の粉を使った意味は解りませんが………はっ! まずいです、ルエ団長。そのピンクが『お詫び』だか『お礼』だかで訪ねて来るかもしれません。手土産が手作りクッキーだったら最悪ですよ!」
「手作りクッキーか……前にもいたな『あなたのために手作りしましたの』と差し入れをしてくる令嬢たちが……しまいには団体でやってくるようになって、あれのせいでわざわざ騎士棟に検問所を作るはめになったんだ」
おかげで平和になったけどな……と思い出にひたるルエ団長は放っておいて、私はWeb小説の王道を思い出す。
「ピンクが持ってくるクッキーには、絶対に良くないものが入っています。惚れ薬は…(シブメンをチラリと見て、首を横に振られる)…存在しないようなので、他の定番はムラムラしてくる薬…(チラッ)…「興奮剤はありますが性的興奮は得られません。以前にも聞かれましたが覚えていないようですな」…(スルー)それもないようなので…「シュシューア、そこまでだ」…え~…「子供が口にすることではない」…でも~…「常習性がある薬物を混入して対象を意のままに操る術は以前からある。ピンクからの差し入れには注意喚起を出しておくから、話題を他に移しなさい」…はぁい。では、え~と……あ、はい、どうぞ」
アルベール兄さまに窘められたところで、宮廷画家と一緒に入って来た騎士が手を上げたので、手のひらを向けて場を譲る。
「ピンクの追跡報告が入っています」
おぉ、仕事がはやい。
「海沿いの高級宿泊邸に長期滞在していることがわかりました。しかし、部屋の借主はガイナ帝国のデリ宝石商会で、ピンクは商会の傭人たちに丁重にもてなされているようです」
シーサイド高級ホテル……ますますヒロインっぽくない。
「……失礼します」
小さなノックの後、廊下で待機していた騎士が顔を覗かせる。
「ピンクの追加報告だそうです。通してもいいですか?」
アルベール兄さまが頷くと、扉が大きく開かれる。
入ってきた男は平服を着ているから、たぶん調査兵と呼ばれている私が理解するところの警察の捜査官だ。
彼は何とも微妙な顔つきで、言いにくそうに頭を掻きながら
「……え~、宿泊邸のピンクの他にも、ピンクが現れたそうです」
……と、簡潔な報告をした。
応接室の空気の流れが止まった。
一拍おいて……「「「は?」」」
──…え? なに? もうひとり出たの?
「西側界隈の住民から通報がありまして、今も続々と目撃情報が入ってきております。ここ数日毎日のように、岬周辺で異様な格好をしている変な女がいるから取り締まってほしいと……どうしますか?」
変なファッションセンスをしているから……という理由だけでは建前上連行などできない。
「アルベール兄さま、見に行きましょう!」
なんか面白そうです。ワクワクしてきましたよ。
「……そうだな」
アルベール兄さまも興味がある様子。
「近く研究院に連れていく予定だった。帰り際に岬方面を回って、ついでに遠目から確認するぐらいはかまわんだろう」
おぉーっ、研究院! そこも行ってみたかった!
「俺も! 俺も行くぞ!」
ベール兄さまも目を輝かせて立候補する。
「お弁当を持っていきましょうね。おやつは何にしましょうか。わぁ~、楽しみ~♪」
気分はもう遠足だ。社会科見学でもいい。
空中街道の時はおにぎりだったから今度はパンにしよう。何パンにしようか……そういえば今年お初の八角肉が入ったって料理長がホクホクしてたな。八角ローストをBLTサンド風にして……ふふん、ちょうどいい、あれの出番なのです……水分が染み出ないように作ってもらった加工紙があるのだ。油紙とは違うみたいだけど、説明されてもわからなかった撥水紙…名前は、え~と……ナントカ紙。ハンバーガーを食べる時に便利なナントカ紙。そうだ! モッスバーガーみたいなミートソースたっぷりバーガーを今度作ってもらおう! あれは熱々が美味しいから出来たてオンリーで…………
楽しみすぎて、研究院とピンク観察はどこかに飛んで行ってしまった。いつものことである。
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