169 / 203
2章 幼少期編 II
50.癒されたいハンサム団長
しおりを挟む私にとっての近衛騎士団のイメージは、ぶっちゃけ『華麗なる薔薇騎士団』である。
なにせ、略式の正装軍服を折り目正しく着こなし、若く、紳士的で、笑うと白い歯がキラーンと光る……そんな男たちで構成されているのだ。
片掛マントをひるがえして颯爽と歩く姿なんて見てしまったら、勘違いしても仕方がないと思う。
オタク女子・澄子の『近衛騎士=美形』の固定概念もあった。
近衛騎士団長が(口を開らかなければ)見目麗しいルエ団長だったのも追い打ちをかけた。
「うおぉーーーっ!」
野太い雄叫びが響いてビクッとした。
アルベIIくんに乗ってやってきたここは、騎士棟の応接室。
今、私たちはソファーに座って、ピンクの姿絵が届けられるのを待っている。
「ぐあぁーーーっ!」
──…気になるではないの! 何なの?!
「王女、見てみるか?」
チラチラ窓の外を気にしている私に気付いたルエ団長が、抱っこしようと手を伸ばしてきた。
腰高窓なので抱っこしてもらわないと外が見られないのだ……けど、アルベール兄さまがその手をバシィッと跳ねのけた。
「可愛がるのは自分の娘だけにしておけと言ったはずだが? シュシューア、来なさい」
アルベール兄さまが手を広げてきたので、私は迷わず飛び込んだ。
「小娘の罠にはまった落ち込みを、可愛い子供で癒したいのに……」
大人の男が口を尖らせてぶつくさ言う仕草は、ハンサムなルエ団長だからまだ許される…ダンッ!「いてっ!」…シブメンに足を踏まれた。許さない人もいるようだ。
「ルエ団長、許可なくわたくしを抱っこしたらグーでパンチをお見舞いします。『鼻をつぶせ』とアルベール兄さまに言われているのです。シュッ、シュッ」
丸めた手でパンチングスイングを披露しておく。
私はクリーンな瑕疵なし王女として、高く高く売り込…お嫁に行くつもりなのです。
「くぅぅ、予防線まで張るとは。うちの第一王子の頭は堅い……ん? こっちにも可愛いのがいたな」
ルエ団長は愛弟子へと視線を移す。ベール兄さまで癒すことにしたようだ。
チッチッチッと、猫の子を誘うように指先を来い来いさせて誘い込もうとしている。ハンサムが台無しだ。
「可愛いがるのではなく、鍛えてください!」
ベール兄さまは顔をキリッとさせて、アルベール兄さまの様にルエ団長の手をベチーンと払った。
しかしルエ団長は諦めない。可愛い愛弟子をかわいがろうとジリジリと近づいていく。
対抗するベール兄さまもソファーから腰を浮かし、組手の姿勢で迎え撃つ。
「部屋の隅でお願いします」
ミネバ副会長に言われて、間合いを保ちながら無言で移動を始めた二人。
その姿を見てアルベール兄さまは眉尻を下げて笑った。
とっても面白そうな二人だけど、私は外の「うおぉーーー!」が気になるので、アルベ-ル兄さまに抱っこされて窓際に行ってもらうことにする。
「この部屋からは騎士の訓練場が見える。今日は格闘戦をやっているようだな」
うんうん、異世界あるある騎士の訓練場ね。
2階のこの部屋からは障害物無しで眺めることができるはず。
さぁ、戦う男たちよ! その雄姿をお姫さまに披露せよ!
「……おぉっ♡」
二人一組でガタイのいい男たちがもみ合っている。
学校のグラウンド並みの広さが狭く感じる程、むくつけき男たちがうじゃうじゃと、暑苦しい筋肉ダルマがぐちゃぐちゃと……なんか思ってたのと違う。
みんな泥だらけで、どんな服を着ているのかさえわからないぐらい汚れている。
そういえば昨日は雨だったっけ。水たまりがあちこちに見えるけど、戦う男たちはそんなものはお構いなしで泥をはね上げ、転がりまくっていた。
「あの中に、わたくしの知っている騎士はいるでしょうか」
顔どころか髪までドロドロで見分けがつない。
「王女が見たことある騎士は、近衛と上級騎士だけだろ? 今日の砂地訓練場は新人騎士だけだから、知った顔はないだろ」
ルエ団長が隣にやってきた。
ベール兄さまを抱えて頭をぐちゃぐちゃに撫でまわし、組手勝負にあっさり負けたであろうベール兄さまは、くすぐられている時みたいに身をよじりながらウハウハ笑っている。楽しそう。
「あの相手の身をかわす動き……見たことがある……が、どこでだったか……」
アルベール兄さまが私の耳元で独り言をもらす。息がかかってくすぐったい。
「あぁ、あれはベールの身のこなしだ。先程見たばかりだったな」
自分で答えを出したようだ。
「そうそう、転びそうな王女をクルッとさせるやつ。狭い場所の乱闘に使えそうだろ? 早速応用させてみた」
おや、ベール兄さまのパクリですか。
「わたくしの膝を守った技ですね。ではベール兄さまにはお礼にオランジェットならぬシプードッテ(適当に命名)を作りましょう。それからルエ団長からも、ご褒美をもらって良いのではないですか? ベール兄さま、おねだりは今ですよ」
ベール兄さまの瞳がパッと明るく光った。
「今度ヨーン領に里帰りする時は、俺も連れて行ってください!」
ヨーン領?……ヨーン……ヨーン……はっ、リボンくんとこのお隣りではないですか!
「いいぞ~。魔獣討伐場で実地訓練させてやる」
「やったーーーっ!」
嬉しさのあまり、ベール兄さまはルエ団長の腕の中でエビ反った。
いいなー、いいなー、私もリボンくんちに~……
ビシャァァァーーーッ!
「………」
「………」
「………」
「………」
窓ガラスに泥水が飛んできた。
”さぁーせーーーん”的な謝罪も飛んできた。
「騎士訓練場の見学は禁止とする」
「はい、それでいいです。急に興味がなくなりました」
泥んこ遊びは好きだが、泥まみれにされるのは嫌だ。
…………………………………………
オランジェットの作り方
①オレンジを輪切りにし、砂糖水で煮込む。
(隠し味でレモン汁やブランデーを入れてもOK)
②火からおろして適度に水分を飛ばす。
③鉄板に並べてオーブンで焼く(途中でひっくり返す)
④オーブンから出して冷まし、湯煎したチョコレートに潜らせる。
…………………………………………
……これをシプードでやります。
「絵が届きましたよ」
ミネバ会長の抑揚のない呼びかけが来た。
『ビシャァァァーーーッ!』…でドアのノックが聞こえなかったのね。
振り返ると、見知らぬ騎士と宮廷画家のおじさんがいた。
──…ええと、なんだっけ?
「ピンクの姿絵が来たのだ」
アルベール兄さまがポソリと教えてくれた。
そうそう、本当に「建国の聖女」かどうか絵の確認に来たんだった。忘れてないよ。忘れてなかったって。
オランジェット
137
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
