転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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2章 幼少期編 II

56.研究院 5

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「終わったか?」

はい。お待たせしました、ベール兄さま。そわそわしていますね、どうしました?

「兄上、三の鐘が鳴ったぞ。昼食にしよう!」

ベール兄さまは目を輝かせて、ある一方を指し示す。
厨房のカウンターがあった。
そういえばここは食堂だった。ってことは学食だ。学食メニュー、興味ありますよ!

「アルベール兄さま、お腹がすきました!」

しかし渋い顔が待っていた。
あれ、周囲の大人も渋顔ですね。

「………」

お返事は?

「シュシュ、粘れよ」

ベール兄さまに、こっそりと耳打ちされる。
アルベール兄さまには筒抜けだけど。

「噂を聞いたんだ。薄すぎる、濃すぎる、固すぎる、崩れすぎる……だけど何故か旨い。食べてみたいと思わないか?」

思います! 滅茶苦茶気になる! なぞなぞ食!

「……昼食は持参している」

アルベール兄さまの声に、書記じゃない方の従者がバスケットをスッと持ち上げて見せてきた。

そうだった、お弁当!…も食べたいが、学食も気になる。どうする? ベール兄さま。

「俺の分はお前にやる。城の厨房で作られた携帯食だ。豪華で旨いぞ」

ベール兄さまは研究院の事務官の制服を掴んだ。
事務官はちらりとアルベール兄さまを見るだけで、断る様子を見せない。お許しを待っているんだ。食べたいんだ。「豪華で旨い」に心惹かれている様子だ。

私も誰かにゆずって……でも、どうしよう、両方食べたい………ぴーん!

「ベール兄さま、半分ずつ…「やめなさい」…むにゅっ」

背後から回ってきた手にホッペを摘まみ上げられた。

「3人分…『薄すぎる、濃すぎる、固すぎる、崩れすぎる』のセットを注文してくれ」

アルベール兄さまのお許しが出た。
大人たちの『あれ食べるんだ』『王族があれを』『殿下、付き合いがいいですね』いろんな視線が気になるけど、なぞなぞ食の魅力の前には屁でもないのだ……こほん、失礼。

従者ふたりが厨房のカウンターに素早く向かい、チョッパやで3人分のトレーを持って帰ってきた。
作り置きをただ盛るだけのものだったようだ。

私は隣の椅子に移動した。子供用の椅子はないので、どこからか持ってきた箱に布がかけられた上に座っている。

「本日の日替わりだそうですよ」

侍従が一品一品の説明を始めたが、まとめると『スープ、肉炒め、パン』だそう。

「万物に感謝を」

初めての学食~。感謝しま~す。

まずはスープからいってみる。
元はたぶん野菜ゴロゴロのスープだったもの。砕けて傷ついて具が不揃いになっている。
そしてタンパクの出汁なしのあっさり塩味……うん。「薄い」はこれのことだね。不味くはないよ。うん。ベール兄さまの表情は微妙だけど。

──…アルベール兄さまは食べないで私たちの様子を見ている。

この四角いのいってみるか。
一応パンだよね。おっ、結構ずっしり。間違いない。これが「固い」だ。
くんくん。匂いをかいでみる……知らない匂いだ。
力を入れてみる……割れない。

あ、チャレンジャー・ベールが、かじりついた。
ボリン! ゴリッ、ゴリッ、シャクッ……お茶で流し込んだ。

コメントは?

「………」

なしですか。

それを見ていたアルベール兄さまは喉をならして笑い始めた。

「いいか、こんな食べ方はここでしかやらないが、これはこうやるんだ」

アルベール兄さまは、「固いの」をゆっくりとスープに沈めた。
それをスプーンの先で3回つつくと、簡単にホロリと形をなくした。「崩れやすい」だ。

私もベール兄さまもそれをまねる。

スプーンでつつくまでもなく、スープを吸ってふわっと広がった。

「これに、この赤い炒め物を溶かし込む。量は好みで決めなさい」

アルベール兄さまは半分ほどスプーンですくって、スープにいれてかき混ぜた。

私もベール兄さまもそれをまねる……が、ふたりとも、その前にちょっと味見。

お肉は”もつ”かな? 噛めば噛むほどコクと甘みと少しの辛みが……洋風のこて○ちゃんっぽい味だ。御飯が何杯もいけそうな……はい、わかってましたよ。これが「濃い」ですよね。


まぜ、まぜ、まぜ。


あれ、おかしいな。予想では赤いスープになるはずなのに。

どうして灰色に……

野菜がどんどん汚くなっていく。


(どうしよう、まずそう)


固いのがふやけて凄い量になっちゃったよ。食べきれるかな。ねぇ、アルベール兄さま……


(あっ! 食べた!)


さすが長男! 思い切りがいい!
……じゃなくて食べ方を知っていましたね。前に食べたことがあるのですね? 見た目がコレだって知ってたのですね?


おっ、ベール兄さまもいった!

私もいくぞ! ばくっ!


──…ん?


もぐ、もぐ、もぐ……


アルベール兄さまは「濃いの」の残りを全部入れた。
ベール兄さまも入れた。
私はもう半分ぐらいでいいや。


「……旨っ!」

ベール兄さまのいつものが出たね。

ばくっ、ばくっ。もつ鍋の後の雑炊のような……ばくっ、ばくっ、ばくっ。

美味しぃぃ~っ!

灰色以外は最高だよ。なぞなぞ定食ぅ~。


もぐっ、もぐっ、ごっくん。


はぁ~満腹、もう食べられない。大人の量だものね。残してもお許しあれ、万物よ。


アルベール兄さまは優雅にナプキンで口元を拭っている。

ベール兄さまはペロリと唇を舐めた。

私は侍従に口元を拭かれ、首に巻かれたナプキンを外される。いつの間にか巻かれていたのです。





げふっ……いや、失礼。でちゃったのよ。





………続く
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