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2話 異世界
しおりを挟む「ンニャァ~」
深夜の住宅街をフラフラと歩いていると塀の上から猫の鳴き声が聞こえてきた。
そちらを向くと夜に溶け込んだ真っ黒な猫が1匹こちらを綺麗な青色の瞳で見つめている。
瞳の色も、毛並みも、全部俺と正反対だ。
「…こんばんは、お前も1人なの?」
そっと手を伸ばし猫の頬を撫でると控えめに擦り寄って来て可愛い
「ニャゥ"~」
美しい青の瞳を細めて、まるで三日月みたいで見とれてしまう
「こんな寒い日に、どうしてここに居るの?」
猫に話しかけたって返事が来る訳でもないし、話を理解してる訳でも無い。でも、どうしようも無く辛くて寂しくて、猫に縋るようにずっと話しかけた。
「お前は、帰る所はあるの?」
「ナァウ」
「そっか、俺と同じで帰る場所がないのかと思った」
猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら撫でている手に擦り寄ってくる。
いいなぁ、帰る場所あるんだ
凄く羨ましい。
いや、自分から家を出たはずなのに帰る場所があって羨ましいってのはおかしいか…
「ねぇ、俺帰る場所無いの。居場所も、家族も…どうしたらいいかな、」
俺には何も無い。
両目から涙がぽろぽろと溢れ始めた。
着古した長袖のシャツの袖で目を擦って涙を拭っても、涙が止まることは無い。
耐えられなくなり喉から小さな嗚咽が溢れてくる。
猫は塀の上から心配そうに俺の顔を覗き込んでくるだけだった。
「俺ね、1回でいいから愛されてみたいんだ」
独り言だったか、猫に向けて言った言葉だったかは分からない。でもきっと後者だろう。
そう呟いた瞬間自分の足元の地面に美しく光る円形の何かが出現した。
驚いて足元を見ると2mはある、魔法陣のような物だった。
なにこれ、模様?魔法陣?呪いの何か?どういう事だ、
パニックになって動けないし、何もリアクション出来ない
足元の魔法陣の光はどんどん強くなっていく。塀の上の猫は光が眩しくてか、もう何処かに消えてしまった。
「眩し…」
恐怖で声も足も震えて、その場にへたりこんでしまう。
すると光が一段と強くなり眩くて強く目を瞑った。
お城って知ってる?
とっても大きくて、煌びやかで、美しいお城。
なんと目を開けるとそのお城にいた。
は?何言ってんの?頭大丈夫?って言われるかもしれないけど、目を開けたらほんとにお城にいたんた。
チョークで描かれたような魔法陣の上にへたりこんでいて、見上げる様に顔を上げると奥の階段を上がった所に豪華な椅子にふんぞり返っているおじさんがいた。
身なりはとても豪華だしおじさんも小太りで、まるで王様みたいだ。
横には鎧をまとった護衛のような人も居る。
驚きすぎて逆に冷静になった頭で頭を整理する。
足元に魔法陣が出て、光って、眩しくて目を瞑ったらお城に来ていた。
…うん、自分でもちょっとよく分かんない。
唖然としているとこちらを見下ろしていたおじさんが口を開いた。
「そなたが今回の勇者か…今回は失敗だな」
…なんだって?
勇者…って、あの戦う勇者?何言ってるんだこの人
それに、今回って?失敗?
「国王ゼブス様からのお言葉だぞ、無視をするとは何事か!」
返事もせずにいる俺に、周りの護衛の人達が大きな声で怒鳴ってくる。
そうだ、返事しなきゃ
「ごめ、んなさい……」
下に俯いてぐっと目頭に力を込め涙が溢れるのを我慢した。
分からない、どうしてこうなったんだ
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