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邪魔したら切り捨てるからな
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声の主は平民であり農家の息子である。
だがこの貴族が多く通う学園に通えるほどの学力と財力がある、所謂と広大な土地とお金を持つ大農家である。
「君は確か農家息子くん?」
「A令嬢令嬢お願いがあります」
騎士見習いの言葉を無視し農家息子は群衆から一人前に出た。
そしてA令嬢に深くお辞儀をする。
農家息子は当事者ではなく急な横やりだ。大きな発言には当事者になる為の許可がいる。
「オレはアナタが酷い事をしたか知らないし、少なくてもオレは酷いことされた覚えはない。
だからオレはアナタの味方になる。かわりにオレがこの場で発言する許可をくれ!」
「いりません」
一考もせずに答えを返されたが、それには続きがあった。
「貴方が私の味方である必要はありません。ただこの場で発言するという責任と覚悟を持ちなさい。
その結果私の味方になればそれは嬉しい事ですが」
農家息子は顔を上げA令嬢の顔をマジマジと見た。
そしてもう一度深く頭を下げる。
まだ話し合いは始まったばかりであり、現時点でA令嬢令嬢の味方を公言するのはかなりリスクが高い。
それでも伝えたい事があるのだろう。その気持を汲み取って農家息子の発言を許可した。
と、周囲にはそう見えるようにA令嬢は言った。
一人対複数の状況で味方になってくれる。それは本当にありがたい事だが、A令嬢は農家息子の人となりを人伝でしか知らない。
つまり噂でしか知らない。
この男性が他の人が言っていた通り優しい人か、それとも友や気に入った人にだけ優しいのか、自分を貶めるような裏の顔は無いか。
確実に味方であったとしても、やる気のある無能な味方は敵より厄介である、なんて昔からよく言われる事だ。
もし明確に味方になって貰った場合、農家息子が愚行を犯せばその責任はA令嬢になる。
農家息子の気持ちを汲み取った事に嘘はない。
だが互いのリスクを持ってやる程親しい間柄でもない。
発言するのは構わないが自分のケツは自分で拭け、と丁寧な言い回しで伝えたのだ。
それを聞いた相手がどう思おうがそれは相手の都合だ。
騎士見習いと同じく質問すれば答えるが、そうしないで勝手に勘違いしたとしても知ったこっちゃない。
言葉にすれば当然の事だが、意外と都合良く自己解釈され成されないものだが。
「じゃあこの話、えっと、噂についてと、大げさじゃないかって疑問についてだけ、それだけは自分の意思でA令嬢の側に立って発言します。
んっ?令嬢側?違うなえー、オレからしたら、騎士見習い様の発言が非常に不愉快なものだったので、補足みたいな感じでお話させて頂きたいです。
それはどちらかに味方することも、敵対することも考えていないです」
学園は平等を謳っており、多少の無作法も元々の階級差故に仕方が無いと目を瞑られる。
だからこそ農家息子はこんな大勢の前で、高位権力者を相手にした発言なんてしたこと無いだろう。
学園生活で学んだ貴族に対する礼儀や公で発言する場合のマナーを必死に思い出しながら、一つ一つ言葉を発する。
拙いながらも要点と自分の立場を明確にし、己の意見を伝えたいという要望もきちんと押さえている。
身に付けた技術を適切に使用出来る能力、平民でありながら権力者にぶっつけ本番でも立ち向かえる度胸。
充分有能な部類だ。今のうちに縁を繋ぐかと画策しながら、参謀役はテーブルから一歩下がる。
どんな物にも流れがある。流れに逆らった所で無駄な労力を払うだけだ。
今は騎士見習いと農民息子が対話すべき流れである。
周囲の様子を見るに、わかっている者同士の会話であったせいか色々と内容を端折っていたようだ。
皇太子含め三人は未だこの場面が糾弾であると思っているが、A令嬢と参謀役は交渉だと思っている。
同じぐらいの痛み分けで済むように調整しなければならないのだが、本人達だけが痛み分けだと認識しても意味がない。
どこから漏れるかわからない騒動を、痛み分けで終わったのだと理解してもらわなければ後々の火種となる。
二人の対話は今この問題がどうなっているかの詳しい説明に丁度良い。
参謀役は騎士見習いにテーブルの前に立つよう言い、A令嬢は農民息子に同じ指示を出した。
対立はわかり易いほど良い。
「騎士見習い様、オレはアンタの発言がどうしても許せないです」
「先程敵意を向けてきたのは君か?」
「オレも、ですね。騎士見習いというのに敵意に気が付かないのはどうなんですか」
「お待ちなさい」
農家息子の発言にA令嬢令嬢が待ったをかけた。
まだやらかしたと言えないぐらいのちょっとした嫌味だが、慣れぬ者が調子に乗る前にと厳しい目を向け強い口調で咎めた。
「貴方はご自分で噂と疑問についての話をしたいと言ったのです。それと騎士見習い様が敵意に気が付かなかった事は別でしょう?
ただ自分の鬱憤を晴らしたいだけであるのなら、また別の機会にどうぞ。
それに庇うわけではありませんが、騎士見習い様は将来的に殿下の、国王陛下の近衛兵となる予定なのです。ですよね?」
「あっ、あぁ」
急に話を振られて驚きながらも騎士見習いは肯定の返事をする。
「喜ばしい話ではありませんが、人は皆少なからず恨みや怒りを買っているのです。
国王陛下や近衛兵ともなればその名誉ある地位から、一般より多くの負の感情を向けられてしまう。
それこそ敵意に過敏に反応してしまっては心を病んでしまいます。
近衛兵に必要なのは殺意に反応する速さと、それに対応出来る身体、そしてそうなった時に殺しを割り切れる心の鈍さ。
貴方の指摘はお門違いでしてよ」
自分の無知を晒された農家息子は頬をかぁっと赤く染め、『失言でした』と騎士見習いに詫た。
まだ騎士見習いに対する不満はあるだろうに、湧き上がる羞恥に怒りもせずされど黙り込む事もせず、それとこれは別だと直ぐさま謝罪できる対応の速さ。
やはり有能だ。今からでも参謀に必要な知識を鍛えて将来的に仕事仲間に欲しい。
なんて参謀役は思ったが、彼が学園に入学した理由がご実家の農業と、従業員の働き方をより効率的にする為だと知っていたので、残念だと小さなため息一つで諦めた。
だがこの貴族が多く通う学園に通えるほどの学力と財力がある、所謂と広大な土地とお金を持つ大農家である。
「君は確か農家息子くん?」
「A令嬢令嬢お願いがあります」
騎士見習いの言葉を無視し農家息子は群衆から一人前に出た。
そしてA令嬢に深くお辞儀をする。
農家息子は当事者ではなく急な横やりだ。大きな発言には当事者になる為の許可がいる。
「オレはアナタが酷い事をしたか知らないし、少なくてもオレは酷いことされた覚えはない。
だからオレはアナタの味方になる。かわりにオレがこの場で発言する許可をくれ!」
「いりません」
一考もせずに答えを返されたが、それには続きがあった。
「貴方が私の味方である必要はありません。ただこの場で発言するという責任と覚悟を持ちなさい。
その結果私の味方になればそれは嬉しい事ですが」
農家息子は顔を上げA令嬢の顔をマジマジと見た。
そしてもう一度深く頭を下げる。
まだ話し合いは始まったばかりであり、現時点でA令嬢令嬢の味方を公言するのはかなりリスクが高い。
それでも伝えたい事があるのだろう。その気持を汲み取って農家息子の発言を許可した。
と、周囲にはそう見えるようにA令嬢は言った。
一人対複数の状況で味方になってくれる。それは本当にありがたい事だが、A令嬢は農家息子の人となりを人伝でしか知らない。
つまり噂でしか知らない。
この男性が他の人が言っていた通り優しい人か、それとも友や気に入った人にだけ優しいのか、自分を貶めるような裏の顔は無いか。
確実に味方であったとしても、やる気のある無能な味方は敵より厄介である、なんて昔からよく言われる事だ。
もし明確に味方になって貰った場合、農家息子が愚行を犯せばその責任はA令嬢になる。
農家息子の気持ちを汲み取った事に嘘はない。
だが互いのリスクを持ってやる程親しい間柄でもない。
発言するのは構わないが自分のケツは自分で拭け、と丁寧な言い回しで伝えたのだ。
それを聞いた相手がどう思おうがそれは相手の都合だ。
騎士見習いと同じく質問すれば答えるが、そうしないで勝手に勘違いしたとしても知ったこっちゃない。
言葉にすれば当然の事だが、意外と都合良く自己解釈され成されないものだが。
「じゃあこの話、えっと、噂についてと、大げさじゃないかって疑問についてだけ、それだけは自分の意思でA令嬢の側に立って発言します。
んっ?令嬢側?違うなえー、オレからしたら、騎士見習い様の発言が非常に不愉快なものだったので、補足みたいな感じでお話させて頂きたいです。
それはどちらかに味方することも、敵対することも考えていないです」
学園は平等を謳っており、多少の無作法も元々の階級差故に仕方が無いと目を瞑られる。
だからこそ農家息子はこんな大勢の前で、高位権力者を相手にした発言なんてしたこと無いだろう。
学園生活で学んだ貴族に対する礼儀や公で発言する場合のマナーを必死に思い出しながら、一つ一つ言葉を発する。
拙いながらも要点と自分の立場を明確にし、己の意見を伝えたいという要望もきちんと押さえている。
身に付けた技術を適切に使用出来る能力、平民でありながら権力者にぶっつけ本番でも立ち向かえる度胸。
充分有能な部類だ。今のうちに縁を繋ぐかと画策しながら、参謀役はテーブルから一歩下がる。
どんな物にも流れがある。流れに逆らった所で無駄な労力を払うだけだ。
今は騎士見習いと農民息子が対話すべき流れである。
周囲の様子を見るに、わかっている者同士の会話であったせいか色々と内容を端折っていたようだ。
皇太子含め三人は未だこの場面が糾弾であると思っているが、A令嬢と参謀役は交渉だと思っている。
同じぐらいの痛み分けで済むように調整しなければならないのだが、本人達だけが痛み分けだと認識しても意味がない。
どこから漏れるかわからない騒動を、痛み分けで終わったのだと理解してもらわなければ後々の火種となる。
二人の対話は今この問題がどうなっているかの詳しい説明に丁度良い。
参謀役は騎士見習いにテーブルの前に立つよう言い、A令嬢は農民息子に同じ指示を出した。
対立はわかり易いほど良い。
「騎士見習い様、オレはアンタの発言がどうしても許せないです」
「先程敵意を向けてきたのは君か?」
「オレも、ですね。騎士見習いというのに敵意に気が付かないのはどうなんですか」
「お待ちなさい」
農家息子の発言にA令嬢令嬢が待ったをかけた。
まだやらかしたと言えないぐらいのちょっとした嫌味だが、慣れぬ者が調子に乗る前にと厳しい目を向け強い口調で咎めた。
「貴方はご自分で噂と疑問についての話をしたいと言ったのです。それと騎士見習い様が敵意に気が付かなかった事は別でしょう?
ただ自分の鬱憤を晴らしたいだけであるのなら、また別の機会にどうぞ。
それに庇うわけではありませんが、騎士見習い様は将来的に殿下の、国王陛下の近衛兵となる予定なのです。ですよね?」
「あっ、あぁ」
急に話を振られて驚きながらも騎士見習いは肯定の返事をする。
「喜ばしい話ではありませんが、人は皆少なからず恨みや怒りを買っているのです。
国王陛下や近衛兵ともなればその名誉ある地位から、一般より多くの負の感情を向けられてしまう。
それこそ敵意に過敏に反応してしまっては心を病んでしまいます。
近衛兵に必要なのは殺意に反応する速さと、それに対応出来る身体、そしてそうなった時に殺しを割り切れる心の鈍さ。
貴方の指摘はお門違いでしてよ」
自分の無知を晒された農家息子は頬をかぁっと赤く染め、『失言でした』と騎士見習いに詫た。
まだ騎士見習いに対する不満はあるだろうに、湧き上がる羞恥に怒りもせずされど黙り込む事もせず、それとこれは別だと直ぐさま謝罪できる対応の速さ。
やはり有能だ。今からでも参謀に必要な知識を鍛えて将来的に仕事仲間に欲しい。
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