私馬鹿は嫌いなのです

藍雨エオ

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隙間小話:信用とは?

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 Q.質問致します。次期神官様、相談役様、お二人にとって信用とは何ですか

「己の中に存在するものでしょうか」
「排他的なものですね」
「えっ?」
「排他的なものですよ」


 Q.詳しくお願いします

「あっ、その、僕からでいいですか」
「構いませんよ」
「ありがとうございます。
では僕の考えですが、僕は将来的に父の様な立派な神官になるのが目標です。そして神官になる為に一番必要な物は信仰心、つまり信じる心だと思っています。
心というのは自分以外の何者にもわからない物でしょう?ですから信用とは目には見えず、己の中にだけ存在するものだと」
「他人を信用する事はそれで説明出来ますが、他人から信用される事についてはどうお考えなのですか」
「信用を得ようと行動は出来ますが、人の信用を奪う事は不可能です。
それは他者の心もまたその人だけが自由に出来るその人だけの物だと」
「あー、言いたい事はわかりますが言い方に少し問題があるかと」
「何かおかしいでしょうか?」
「その言い方ですと信用は奪えますよ。それこそ噂や嘘で人の心は簡単に動いてしまいます。その動いた心を自分に向かう様に策略を巡らせればそれはもう奪ったも同意です。
アナタが言いたいのは信じるという『心』事態は本人の意思によるものであり、本人だけのものだと言いたいのでしょう?」
「そうですね、確かに解釈を違えた人からは誤解されてしまいますね。
信じる心は個人の物、それは奪えない。しかし心の方向性、誰にその心を向けるかは奪える。
相談役様の言う排他的なものとはどういった意味ですか?信用は信じる物がなければ成り立たない、他を排してしまえば存在しなくなるのでは?」
「ワタシの考えでは、信用とは比較対象があってこそ成り立つ物だと考えております。
他者と他者、他者と自分、自分の考えと自分の気持ち、複数の考えの内の一つ、何を信じるか選ばなければなりません。
どちらかを受け入れるならどちらかを排するでしょう。ですので排他的なものだと」


 Q.ではお二人にとって信用する為の基準は何なのでしょう

「話し合いや客観的な証拠などですね」
「最終的には何となく」
「待って下さい、それは適当に判断しているってわけでは…」
「そういうわけでは無いですよ。
ワタシだって色々とお話を聴き事実確認をします。しかし結局は何となくと言いますか…正しくは積み上げてきた経験からの勘で判断します」
「勘ですか」
「あくまで経験を積んだ上での勘です。
ワタシは幼い頃から教会で献身し、神官になり相談役となり長い間色々な立場の様々な人からお話を伺いました。
その経験が『何だかこの人の話はおかしい』や『わざと何か秘している』と感じさせるのです。そういったまだ解明されていない事情もあるだろうと予測し、加味して判断します」


 Q.今のお話を次期神官様はどう思いますか

「勘だと言われた瞬間は驚きましたが、経験則だと言われ納得しました。
僕は同じ学生や子供達から相談された経験はあります。身元がハッキリしている人だけ。相談役さんの様に広い関係ではお話をされた事はありません。
例えば『恋に落ちた』という内容でも貧民が貴族を好きになった場合では、貧民が貴族を不埒な目で見た事を不敬だと言われ罰せられます。ですが貴族が貧民を好きになった場合では、貧民が貴族を誑かしたとして罰せられます。
勿論恋心に罪などありませんが貴族社会からしたら貧民に関わりがあるというだけで不名誉なのでしょう。
どちらも同じ内容ですが相談者の立場によって隠す内容が変わってくると予想されます。貧民ならば恋した相手を、貴族でしたら恋した事実を。
隠されても長らく相談を受けて来た相談役さんはそういった事情を察せるのでしょうが、僕はまだまだ経験が足りません。
きっと違和感があってもそれを見逃してしまう。
僕は話し合いや客観的な証拠でしか判断が出来ないのです、今はまだ」


 Q.今のお話を相談役様はどう思いますか

「ワタシだってまだまだ未熟者ですよ。きっと多くの事を見逃している。
だから話し合いと客観的事実はより詳しく、疑って掛かるぐらい慎重に扱い、そして判断しているんです。
結局どれだけ完璧な人でも自分がどうしても信じられないなら、ワタシはその自分の心を信じます。
理由も無いその気持ちも一種の勘ですよ」


 Q.ありがとう御座います、質問は以上です。最後に何かあればどうそ

「僕はまだ信用に足る人間とは言えないでしょう。それでもそんな僕を信用してくれる人達がいる。
その人達の思いを裏切らぬ様に精進していきますので、いつかもっと多くの人に僕を信じて貰いたいです」
「信用できるというのは素晴らしい事です。
ですがそれでも疑いなさい。正しい人がずっと正しいとは限らない、間違え続けた人が次も間違えるとは限らない。
怯え疑いそれでも信用したいと思ったのならそうしたら良い。
ただ一つだけ気を付けて。相手に信用を裏切られたとして、相手が騙そうとしたのか勝手にこちらが勘違いしたのか、その見極めを間違えると更に傷つくことになりますよ」
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