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33話 漆黒の魔王★
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大森林に出没した大量の魔物。
人里に現れれば間違いなく大災害となり、一国が滅びる規模の魔物たちは、瞬く間に、とは行かずとも、確実に、数を減らしていった。
普段は孤高を貫いていたり、敵対関係にあった魔物ですら結託し、徒党を組んだ魔物の言わばドリームチームでさえ、異世界の勇者を筆頭とした人族精鋭の戦士達の前には塵芥に過ぎなかったのだ。
ぱさり、と乾いた音を立て、新聞をテーブルの上に投げ捨てる。
この世界の新聞は、そもそも紙が希少であるためそこそこの高級品。印刷技術も確立はしてはいないが、魔法による複製が行われているため、そっちの問題は無いそうだ。
世界的に展開している荒事仕事の斡旋場、冒険者ギルドの王国支部事務室。
オーレル大森林に最も近く、大森林の監視役も担っている程の巨大な支部だ。
当然ソファも良いものを使っており、身体を預けるとしっかりと、優しく受け止めてくれる。出された紅茶ですら、国際的に高い評価を得ている高級なもの。
だが、そんな中でも、空気は昏く沈んでいた。
「ったく...なんなんだよあの化け物は...」
ギルドマスターのグラントゥさんの静寂を破った呟きが、この場にいる者の総意だった。
今回の魔物討伐だが、結果一体を残して、襲撃してきた魔物は全討伐という大戦果を挙げ、その一体も大森林奥に撤退していったということで、絶望に暗い雰囲気だった人々もこの朗報には歓声をあげた。
その歓声は、知らぬ者の特権である、と、参加した者は皆理解している。
数日前。魔物討伐はかなりの高調だった。重症者は居るとはいえすぐに魔法で回復させている為死者もおらず、魔物は目に見えて数を減らしていった。思っていたよりも強い魔物は居らず、皆の表情に余裕が戻りだし、この調子なら魔物の殲滅が明日にでも完了するだろう、と思った矢先だった。
闇夜に紛れソレが現れたのは。
一瞬、赤い光が視界の端に映った気がして、何故か気になって、そちらに視線を向ける。
漆黒の人の形をした魔物。目と、立派な角の先だけが赤く、鈍く輝いていた。
見たことのない魔物だった。夜だから見辛かったというのもあったかも知れないが、私の記憶には残っていなかった。
その魔物が、徐ろに手を振り上げる。
悪寒がして、咄嗟に木の陰に隠れる。皆も、流石優秀なだけあって防御に徹した姿勢を取った。
直後、世界が震撼し...暗転した。
何かしらの攻撃を受けた事だけは分かった。だがソレが魔法なのか、物理なのか、その場にいる誰一人理解出来なかった。目を覚ますと奴と他の魔物は消え去っていて、状況が理解できないまま、回復担当の人に介抱してもらっていた。
幸い死者は出なかったが、逆にソレが気味が悪い。
「奴の目的は...?会話は可能なのか...?」
定くんが自身に問いかける様に考え込む。
「魔王...」
誰かが呟いた。もしかしたら自分かも知れない。
もし奴が本当に魔王ならば、勇者に何とかしてもらうしかない。
勇者は自身のパーティのメンバーをあの謎の攻撃から庇い、現在も意識がないそうだ。不甲斐ないとは思わない。寧ろ、勇者として、仲間を庇うのはかっこいいと思う。勇者に相応しい、すごい勇敢な行動だと思った。
「魔王...か。だが奴の角は...」
あくまで伝え聞いた話だけれど、魔王の特徴に、真紅の瞳、そして禍々しい2本の角というのがある。例外だっただけだと言えばソレで終わりだが、真紅の瞳は一致しているものの、奴の角は一本だった。
「歴代で角が一本の魔王はいない訳では無い。1000年ほど前に居たと言われる天王の魔王は角が一本だった...だが奴は元々2本だったのを、一本折られて一本になったと聞く...」
疲れ切った様子のグラントゥさんが、大きな溜息を吐いた。いつも豪快で元気なギルドマスターも、今回ばかりは元気では居られなかったようだ。
そりゃそうだ。あんな化け物の存在自体、心労でしかない。特に、重い責任を持つ彼なら尚更だろう。そして、もし奴が魔王で、片方角が折られた後なのであれば、それは新たな魔王の誕生に他ならない。
だが、もしも奴が魔王ではないとしたら?
正体不明の謎の強力な魔物。人族の英雄が集っても戦いにすらならなかった。
未知とは、恐怖だ。
恐怖を持つのは、知らないからだ。
「奴を...魔王として発表しよう」
重い声でグラントゥさんが呟く。
それに異を唱える者はいなかった。
こうして、仮称:漆黒の魔王・ノワールの名は、初めて世界に知れ渡った。
人里に現れれば間違いなく大災害となり、一国が滅びる規模の魔物たちは、瞬く間に、とは行かずとも、確実に、数を減らしていった。
普段は孤高を貫いていたり、敵対関係にあった魔物ですら結託し、徒党を組んだ魔物の言わばドリームチームでさえ、異世界の勇者を筆頭とした人族精鋭の戦士達の前には塵芥に過ぎなかったのだ。
ぱさり、と乾いた音を立て、新聞をテーブルの上に投げ捨てる。
この世界の新聞は、そもそも紙が希少であるためそこそこの高級品。印刷技術も確立はしてはいないが、魔法による複製が行われているため、そっちの問題は無いそうだ。
世界的に展開している荒事仕事の斡旋場、冒険者ギルドの王国支部事務室。
オーレル大森林に最も近く、大森林の監視役も担っている程の巨大な支部だ。
当然ソファも良いものを使っており、身体を預けるとしっかりと、優しく受け止めてくれる。出された紅茶ですら、国際的に高い評価を得ている高級なもの。
だが、そんな中でも、空気は昏く沈んでいた。
「ったく...なんなんだよあの化け物は...」
ギルドマスターのグラントゥさんの静寂を破った呟きが、この場にいる者の総意だった。
今回の魔物討伐だが、結果一体を残して、襲撃してきた魔物は全討伐という大戦果を挙げ、その一体も大森林奥に撤退していったということで、絶望に暗い雰囲気だった人々もこの朗報には歓声をあげた。
その歓声は、知らぬ者の特権である、と、参加した者は皆理解している。
数日前。魔物討伐はかなりの高調だった。重症者は居るとはいえすぐに魔法で回復させている為死者もおらず、魔物は目に見えて数を減らしていった。思っていたよりも強い魔物は居らず、皆の表情に余裕が戻りだし、この調子なら魔物の殲滅が明日にでも完了するだろう、と思った矢先だった。
闇夜に紛れソレが現れたのは。
一瞬、赤い光が視界の端に映った気がして、何故か気になって、そちらに視線を向ける。
漆黒の人の形をした魔物。目と、立派な角の先だけが赤く、鈍く輝いていた。
見たことのない魔物だった。夜だから見辛かったというのもあったかも知れないが、私の記憶には残っていなかった。
その魔物が、徐ろに手を振り上げる。
悪寒がして、咄嗟に木の陰に隠れる。皆も、流石優秀なだけあって防御に徹した姿勢を取った。
直後、世界が震撼し...暗転した。
何かしらの攻撃を受けた事だけは分かった。だがソレが魔法なのか、物理なのか、その場にいる誰一人理解出来なかった。目を覚ますと奴と他の魔物は消え去っていて、状況が理解できないまま、回復担当の人に介抱してもらっていた。
幸い死者は出なかったが、逆にソレが気味が悪い。
「奴の目的は...?会話は可能なのか...?」
定くんが自身に問いかける様に考え込む。
「魔王...」
誰かが呟いた。もしかしたら自分かも知れない。
もし奴が本当に魔王ならば、勇者に何とかしてもらうしかない。
勇者は自身のパーティのメンバーをあの謎の攻撃から庇い、現在も意識がないそうだ。不甲斐ないとは思わない。寧ろ、勇者として、仲間を庇うのはかっこいいと思う。勇者に相応しい、すごい勇敢な行動だと思った。
「魔王...か。だが奴の角は...」
あくまで伝え聞いた話だけれど、魔王の特徴に、真紅の瞳、そして禍々しい2本の角というのがある。例外だっただけだと言えばソレで終わりだが、真紅の瞳は一致しているものの、奴の角は一本だった。
「歴代で角が一本の魔王はいない訳では無い。1000年ほど前に居たと言われる天王の魔王は角が一本だった...だが奴は元々2本だったのを、一本折られて一本になったと聞く...」
疲れ切った様子のグラントゥさんが、大きな溜息を吐いた。いつも豪快で元気なギルドマスターも、今回ばかりは元気では居られなかったようだ。
そりゃそうだ。あんな化け物の存在自体、心労でしかない。特に、重い責任を持つ彼なら尚更だろう。そして、もし奴が魔王で、片方角が折られた後なのであれば、それは新たな魔王の誕生に他ならない。
だが、もしも奴が魔王ではないとしたら?
正体不明の謎の強力な魔物。人族の英雄が集っても戦いにすらならなかった。
未知とは、恐怖だ。
恐怖を持つのは、知らないからだ。
「奴を...魔王として発表しよう」
重い声でグラントゥさんが呟く。
それに異を唱える者はいなかった。
こうして、仮称:漆黒の魔王・ノワールの名は、初めて世界に知れ渡った。
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