恵まれすぎてハードモード

想磨

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1-4 追跡、捕獲、そして雪国

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 僕の移動法はとても目立つ。

 それは例え太陽が砕けて真っ暗闇になったとしても気付くと断言していいくらいだった。

 何せ荒野を文字通り爆走するのだ。
 凄まじい砂埃と騒音をあげて行く鉄仮面の子供を見て、記憶に焼き付かない人間はいない。

 だから移動は人目につかない夜にひっそりとするべきだった。
 だからこそ僕は準備が終わった後、人目がいっぱいな昼を避けてたっぷりと眠ったのだ。

 当然酔っぱらいが道で寝転ぶとはわけが違うのだから、眠るのも隠れながら出なくてはいけない。そして僕はそれを容易にできる方法があった。

 隠れる方法は勿論、僕の相棒である魔石に頼り切ったものだった。
 でも悲しいことに透明になる石とか、地面をくり抜いて地下室を作る石とか、そういった便利なものは五年では作れなかった。


 僕が持っているのは、水中適応の魔石だ。


 これは単純に水の中でも呼吸ができるという効果を持つ。
 しかもレベルが上がると水による体温の低下も防いでくれる、地味に優れものな魔石だ。


 だから僕は水辺を探して、そして見つけた池の中に沈んで、ずっと眠っていた。

 この絶対にばれないという安心感に身をゆだねて、久々にぐっすりと寝た気がする。
 そして、ふと目を覚ます。

「……月だ」

 膨らみつつある月が揺らめいて見えた。
 町はずれにある森の池は水が澄んでいて、だからこんなにも綺麗なのだろう。

 そして水中適応の魔石レベル二十五にかかればその美しい空間は快適な寝床になって、とてもゆったりとした雰囲気に浸れてる。

 何だか呼吸できる野外の温水プールの中に入ったような感覚だ。

「もう少し寝たいけど、そろそろ起きようかな」

 肺にまで水が浸食して上手く話せないが、別に独り言だから気に留めない。
 そのまま上がると、肺の重みが軽くなった。

 肺に溜まった水がなくなったのだと直感で分かる。

「便利だなあ」

 水が肺に入ったなら色々な病気になりそうだけど、この魔石があるならそんな心配もない。
 しかも衣服もみるみる乾いて、髪もさっぱりと夜風に靡いた。
 少し砂利が気になるけど、これは走っていたら風で飛んでなくなるだろう。

 なんて便利なんだろう。少しお気に入りになりそうだ。

「さてとじゃあ行こうかな?」

「おう。おはようさん」

 もう慣れてしまった。そしてこれが居るのは、何となく予想できるものだった。

「全くいい気分だったのに」

「いやあ、そりゃ悪いことをしたな」

 ゲイルが池のほとりに柱を立ててしてハンモックを張っていた。
 どうやら仮眠をとって居たみたいだ。寝転んだままこっちを見ている。

「で、何か目的があるんでしょ。ゲイルさん」

「いやいや、聞かれなくたって理由は想像ついてるだろうよ。指名手配犯さん」

 もう間違いはない。彼は僕の正体を知っている。
 だけど、少し疑問が浮かぶ。

 だから、腹いせにそこらの石を柱へ蹴り飛ばして、聞いた。

「貴方から殺気が感じられないのはなんで?」

「さり気なくハンモックに叩き落して聞くんじゃねえ!」

 柱が折られて、頭から落ちたゲイルが叫んで、一つ咳払いした。

「後、子供が殺気なんざ探ってんじゃねえよ。まあ、お前さんが納得する理由を言うなら、生きて捕らえろってお達しだからな。レイブン君」

 彼は紙を取り出して、僕の足元に落とした。

 ちらりと目を向けると、僕の似顔絵でレイブンと名前が書かれている。
 一番大きな文字は数字で、かなり大きい数字が並んでいた。

「文字が読めないんだったな。お尋ね者だとよ」

「因みに金額は?」

「二百ミール」

 二百万。貴族を捕まえる額としては妥当なのだろうか。よく分からない。

「まあ、大金だね」

「まあな。ギルドメンバー養わなきゃいけねえ俺にとっちゃ、喉から手が出る値段だ」

 ゲイルが手を挙げた。

 すると木の陰や岩陰からノロノロと人が出て来る。全員棍棒を持っていて、生きたまま捕らえる気満々である。
 総勢五人。その全てが非殺傷の装備なのだ。その様に思わず笑ってしまった。

「あはは、子供相手にやる人数じゃないよ。これ」  

「おう。諦めて捕まって、帰ってくれ」

「仕方ないなあ」

 と、言って諦めるわけがない。そもそもこの数はおよそ包囲とは言えない。


 さて、逃亡開始だ。


 僕は諦めたように両手を上げながら、ゲイルに向かって土を蹴りつけた。

「ちっ!」

 土は散弾のように飛び散った。ゲイルの視界を一切封じた上に、怯むだけのダメージを与える威力を持つ。
 それに怯んだ隙に逃亡を始めた。

「くそっ! 土まみれじゃねえか! いいか! 子供だって油断すんなよ! 化け物だ!」

 随分な言い草だ。否定はしないけど。

 と、流石に一筋縄ではいかない。目の前に大きな鎧姿の存在が立ちはだかった。銀の茨の紋章がある。
 茨の鎧は、僕をとらえようと腕を広げた。子ども扱いするなと言われたにも拘らず、だ。

 シュリの剣術指南第二十。剣は拳の延長戦である。徒手空拳でやれないことは無い。
 教えに従い、精神を手に集中させて、鎧の太もも辺りを思い切り振り抜いた。

 シュリがやった様には切れはしなかったけど、鎧は凹んだ。

「!?」

 茨の鎧の動きが止まる。

 鎧には殴打武器が有効というけど、理由がこれだろう。
 鎧が凹むと動きが制限される。もしくはそれ自体が肉体を圧迫し怪我を引き起こす。

 あれはもう動けないだろう。次だ。

「この野郎!」

 今度は若い男の声がする小さな鎧だ。でも動きが直線的で短絡的。油断するなと言われていたのに。

 戦術とは戦いに勝つためのものである。決して誉を得るためのものではない。卑怯だろうと何だろうとあらゆるものを使え。
 そんなシュリの言葉が脳裏を掠めた。あれはタンスを投げつけられた時だったか。

 ここにも丁度、タンス程ではないけど手ごろな物体がある。
 動けなくなった鎧の首根っこを掴んで、思い切り投げつけた。

「うわっ!」

 直線で走っていた人と綺麗にぶつかり、見事に転んだ。あのタイプの鎧は転ぶと中々起き上がれないからもう平気だろう。
 そう言えばなんでこういう任務の時に鎧を着ているのだろう。さっぱり分からない。

 捕獲なんだからもっと身軽になればよかったのに。

「おい! だから一斉にかかるんだよ! 出ねえと力負けするぞ!」

 ここでゲイルの指示が飛んで、残りの数人が一斉に走り寄る。

 大勢の場合は体の移動。そして更に弱点を突く。鉄則に乗っ取るとしよう。

 冷静に天秤に掛け、冷徹な判断をして真ん中の人物に目を付ける。
 彼女は一番小柄な少女だった。ちょっと押せば崩れるだろう。

 だからその子めがけて思いっきり走りこんで、突進する。

 当たったらただじゃ済まない。殺人タックルだ。

「ひい!?」

 予想通り彼女は飛びのいて、包囲網に穴が出来た。

「待ってたぜ!」

 けどそこにゲイルの笑みが現れる。罠だったみたいだ。

 ゲイルはにやりと笑って、持って居る棍棒を頭へと振り下ろす。
 人が居て左右には避けれない。正面から立ち向かうしかない。

 手刀でゲイルの得物を折って、左手で背中の短剣を取り出し、膝へ振り下ろす。
 でも、流石二級冒険者だ。足を引いて容易くかわして、更に棍棒の残りで側頭部を狙われた。

 弾くほどの余裕がない。手のひらで受け止めてもう一歩接近して、今度は太ももにナイフを差し込んでみる。
 突き刺さる寸前でゲイルの腕に掴まれて、それを受け止められてしまった。

 ……強い。

 この世界の人間は魔法とかスキルに頼りきりだと思っていたけど、少なくともこの男は純粋な技術でシュリに並べる人間らしい。

「何だ? 足回り、狙ったり、小柄な体。生かして、超近接に移行したり、妙に、戦闘センスが、いいな」

「鬼教官が、居たからねっ」

 ナイフを突き刺そうとしたら押さえていた拳が近付いて、それを押しのければナイフが遠のく。
 どうにもできない。膠着状態だ。

 そのまましばらく力比べが続いた。

 多分、これに負ければ側頭部の髪を掴まれて、そこから色々な攻撃が来るだろう。
 でも、あちらも力を抜けば大惨事は免れない。

 近くに居る敵が来ないか、横目で確認しながら、機会を伺う。
 するとゲイルが話しかけてきた。

「力が強いうえに小さい相手ってのは、やりにくいな」

「なら、諦めてよ。二百ミール」

「いいや。もう少し俺の遊びに付き合ってもらう!」

 ゲイルの力が抜けた。と思えば、短剣で狙っていた足が僕のお腹にめり込んでいた。
 痛くはない。でも、彼に時間を与えたのは痛すぎる。

「来な! 螺旋槍!」


 突然、何もない空間に亀裂が走った。


 更に彼の手がその亀裂に消えた。
 その手が中から何かを引きずり出す。

 それは 持ち手以外のほどんどが槍の穂で、突撃槍と呼ばれるものだとすぐ分かった。
 そして名前通り、捻じれに捻じれた槍だった。

 突撃の威力を上げるために、根元に行く毎に太さを増すその重量級の武器は、どんな鎧も容易く貫通すると誰かが言っていた。
 捻じれようがその威力は健在だろう。

「生きたまま捕らえるんじゃないの?」

「てめえの頑丈さに気づかないとでも思ったか。腹を蹴った時に全然内臓まで響いた手応えがなかったよ」

「……おや、口封じが必要かな?」

 ここまで手が割れると、少し冷たい選択を考えてしまう。

「よせよ。子供がそんな顔するんじゃねえ」

「なら僕にはどんな顔が似合うの?」

「笑ってな!」

 ゲイルが走り出した。思ったより速い。
 だけど、甘すぎる。

 僕はそれを両手で受け止めた。螺旋の槍に手を食いこませて、そして持ち上げる。
 鎧を着こんだ人間を投げ飛ばす時点で、こんな芸当が出来ないわけがない。

 そこに行き着かないなんてゲイルは、馬鹿ではないだろうか。

「!?」

 いや、馬鹿なのは僕だったか。この見た目が凄い槍は、囮だ。

「気づくのが遅い。悪ガキは収容だ」


 僕とゲイルの間に亀裂が走った。


 今度はそこから二本の腕が伸びて、僕の両脇を掬い上げる。
 避ける時間はなかった。叫ぶ間すらない。

 僕は亀裂に飲み込まれていた。






 引き込まれて、手を放されて、いつの間にか落下していて。
 気付けば僕は中空で放り出されていた。

 落ちながら見た亀裂の中は、色々なもので雑多に散らかっていて。敵影もない。

 
 もっと観察したかったけど、このままでは襲われてしまうかもしれない。
 着地して、さっさと隠れるべく辺りにあるガラクタの山に背中を付ける。

 その上で改めて見回すと、雑多というよりはごみ屋敷に近い物を感じる空間だった。

 武器や防具が積み重なっていたり、家具が並んでいたり、薬瓶が転がっていたりしている。
 その上馬も何頭か居て、さながら備蓄庫の様だった。

 でも見る限り倉庫の様な壁はない。僕が入ってきたはずの入り口もない。
 ただ、乱雑に分けた山が永遠と続く白い空間があるだけだった。

「ここは一体?」

「ここはゲイルの『収容空間』の中」

 ガラクタの山の上から声がして、飛びのく。
 見上げるとワンピースを着た少女と目が合った。積み上げた鎧の上で仰向けになり、ぐったりと仰け反っている。

 伸びた手は華奢で、白い髪と白い目が独特で、とてもこの世で生きている人間とは思えなかった。
幽霊と言われれば僕はそのまま納得していただろう。
 けどそんな見た目に反して、その表情は人間味が溢れていた。

 何せ逆さまの顔は半ば寝ているようで、こちらを見ているようで、実はどこにも焦点が合っていないようで……

 結局の所、だらけているみたいだったからだ。

「収容空間?」

「ゲイルのスキルだよ。十キロメートル位の空間をゲイルは自由に使えるんだ」

「君も無理やり入れられたの?」

「私は管理してるの。ゲイルが欲しいものを渡して、ゲイルが入れたいものを入れる」

「へえ……じゃあ僕を入れたのって君なの!?」

「うん」

 くたびれ切った少女が実行犯だったなんて。
 僕はすぐに気持ちを戦闘用に入れ替えて、構える。

「ここから出してもらうよ」

「空間の出入り口はゲイルが管理している」

「言っておくけど、僕は強いよ。君がピンチなのにゲイルは無視するの?」

「私は逃げ足だけは速い」

「じゃあ、この辺りのものを全部壊しても動かない?」

「……多分次覗いたときに怒る」

 次覗いたとき、ということはゲイルは常にここを把握してないのか。
 これでは何をしても無駄ではないか。

「後、」

 と付け足すように彼女は言い放った。

「一応私も管理しているから、怒る。頭を落とされても知らないよ」

 セリフに全く力が入っていなくて、態度も変わっていない。
 でも、僕は何となく彼女ならできそうな気がして一気に戦う意欲が殺がれていった。


 何となく、彼女が僕の首をはねる想像が出来てしまったのだ。


 この寒気は模擬戦でよく感じるそれに通じる。
 こういう時は、戦わないに限る。戦闘に置いての直感は従った方が無難なのだ。

 と言う訳で僕はどうやら都に行くまでここで監禁されるらしい。

 だからと言って、気落ちする暇はない。ピンチの時こそしっかり考えないと。腕を組んで、しっかりと頭を働かせるとしよう。
 脳内会議の議題は、王国に連行された時にどう立ち回るべきか、だ。

「ちょっと散策するよ」

「ごじゆーにー」

 少女に断りを入れて、僕は眼鏡を掛けてガラクタの山を見て回る。
 あの地獄のゴブリン処理工場からくすねてきた眼鏡だ。

 これをかけて焦点を合わせると道具の性能が見えるという便利な道具。

 これでガラクタから良い物を見つけて、少しでも装備を充実させて、脱走の作戦を練るのだ。

「へえ、閃光の薬か。いいね。これは煙幕、うん使える。魔法剣! ってただ単に光るだけかあ」

 山を崩して、色々と物を準備していく。

「そんなに散らかしてるとゲイルが怒るよ」

 後ろで少女の声がしたけど、何故居もしない敵の機嫌を窺わないといけないのだろうか。
 寧ろ敵の不利益になる事ならば率先してすべきだろう。

「いいの。このまま行ったら僕は寿命を迎えるまで牢に縛られちゃうからね」

「寿命まで生きられるならいいんじゃない?」

「それは人それぞれだと思うよ」

 ゴブリンのと殺に嫌気が差しました、なんてこんな少女に言うべきではないし、お茶を濁しておこう。

「私は二年間ここに入ってるけど?」

「ふーん居心地良いの?」

「うん。牢獄は居心地良い?」

「居心地悪かったなあ。最悪な作業を延々とさせられて、それ以外は生理的欲求しか許されてない、みたいな状況だったから」

「セイリテキ?」

「つまり、食べてトイレ行って、仕事して、食べてトイレして仕事して、食べてトイレして寝る。これを繰り返す毎日なんだよ」

「農民みたい」

「ああ。そうだね。農民に近いかも」

 ただし、作ったものは全没収な上、娯楽の欠片もないけど。
 その上、やりがいのやの字もないけど。

「なら幸せだよ。仕事あるだけ幸せだって誰かが言ってたもん。入ったら?」

「絶対に、嫌だね」


 僕は作戦を立てながら、会話をしながら、時間を潰していった。




 こうして過ごして数日間。



 ダラダラと話していると、目の前の少女は管理をしていると言っても、とても自堕落な生活を送っていると分かってきた。

 いつも寝ていて、亀裂が開いた時だけ大慌てで駆け回る。
 そしてたまに間違えたりして、怒られる。

 管理をしていると言っているけど、その管理の結果がこの山なのだから、その仕事というのもお察しだ。
 少し残念な子に思えてきた。出会った時のあの気配が懐かしい。


 とは言え、何日も一緒に監禁されていると仲良くせざるを得ないわけで


「かかり」

「ええ、また?」

 僕達はチェスのようなものでたまに遊ぶようになっていた。

 因みに『かかり』はチェックという意味らしい。
 ここでこの槍兵の駒を何とかしないと僕は負けてしまうのだ。

「そういえば、ここって時計ないよね」

「うん。でもご飯が来るから大体分かる。今はお夕飯前」

「へえ」

 まあ僕も大体の日数は数えてるから、もう直ぐ着くだろうことは把握済みだ。

「トマちゃんとももうすぐお別れだね」

「うん。勝ち逃げは許さない。かかり」

「……案外負けず嫌いだね」

 少し前にとうとう名前を知り合った彼女はいつになく強硬に攻めてくる。
 でも、無理な攻めというのは破綻を招くものだ。

「逆かかり」

「……っち」

「守りが希薄だね。またかかり」

「…………えい」

 トマが番をひっくり返して、今日も僕の勝ちが確定した。

 そしてそのタイミングで亀裂が生じる。

 その瞬間を逃すわけにはいかない。

「それじゃ!」

 挨拶して、用意していた槍を掴みそこに飛び込んだ。



 そこを抜けると敵の数が十人ほど見えた。いきなり出てきた槍の先に後退したみたいだ。
 僕は捕まる前に閃光の薬を叩き割ろうとして

「待て待て待て! それ高いから!」

 ゲイルに羽交い絞めにされ、止められた。
 でもまだだ。大の大人一人でなんて魔石の力は抑えられない。

 逆に腕を固定して上半身で振り回し、ゲイルを地面に叩き伏せる。

 次は……と視線を巡らせた所で、動きを止めてしまった。
 衝撃の光景に、僕は初めて呆然とするという体験をした。何も考えられず、それこそその景色みたいに頭が真っ白だった。

 そして、吐き出す白い息に、全身を覆いつくす冷たい空気に首を傾げる。

「ここは……どこ?」

 何故か僕は雪吹き付ける雪原の真っ直中に居た。

 首謀者であろうゲイルを見ると、振り回し過ぎて足から嵌ってしまったのだろう。雪に埋まり、頭だけが飛び出ている。
 スキンヘッドのせいでまるでキノコが生えているみたいだけど、この混乱の最中では滑稽にもほどがある。

「言いたいことは山ほどある。だが先ずはこれだけ言っておこう」

 雪に埋まったまま彼は言い放った。

「国外逃亡手伝ったやつにこの仕打ちとは何事だ!?」

 そして

「てめえが事態をややこしくしたんだよ!」

 何故か埋まったままで、仲間だろう全員から足蹴りを食らった。
 彼は、頭の先まで埋もれて消えた。
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