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2-16 進む戦線
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例の事件から数分後、空間に隙間が空いてそこからゲイルが顔を出した。
「おい、てめえら。ちょっと外に……って何だこりゃ?」
「……燃料を入れているんだ」
「死んじゃったから死に水」
トマが縁起でもないことを言っているけど、それは勿論違う。
エネルギー切れを起こして動かなくなったリンに、『収容空間』中を駆け回ってかき集めた栄養がありそうなものを、淡々と運んでいただけだ。
動かなくなっても口に持っていけば液体でも固形でもどんどん飲んでくれるから、楽と言っては楽なんだけど、少し怖い。
でも、頭だけ空間に入れたゲイルが聞きたいのはそういうことではないらしい。
「何で、リンの髪の毛がこうも伸びてるのか聞きてえんだよ」
とのことだった。
でも、その表情はどうしてリンの髪が伸びているのか、しっかりと想像できているみたいだった。
いわゆる、落雷警報発令状態だった。
そしてそれを察したトマがこっそりと、灰色の髪の中に身を隠す。
でもこの空間はゲイルのスキルで出来ている。何処に隠れても、逃げることは無意味だとおもうのだけど。
裂け目が消えて、トマの真上に新しく表れて、ゲイルがトマを捕まえる。
「バレバレなんだよ! また俺の薬で遊んでたろ!」
「レイがやれって言った」
今度は避雷針を用意する手に出たか。子供らしいけど無駄なあがきだ。
「言ってないから」
「レイは嘘ついてる」
「ついてないから」
「ここで嘘ついてるってことにしたら、薬代を返済できるまで仲間に出来る」
「急に大人なやり方になった!」
しかも利益の為に事実を捻じ曲げる、悪い方の大人なやり方だ。
まるで催眠をかけるように手をうねうねとさせて、ゲイルへの説得を続ける。
「ゲイルはレイを仲間にしたい。私はゲイルに叱られたくない。一石二鳥。誰も悲しまない」
「ここに悲しむ人が居るからね。僕だけ一方的に不利益だからね」
何が悲しくて、トマの罪を被って薬代返済するまで仲間という名の強制労働を強いられなければならないのだろう。
流石のゲイルもトマを叱
「いいかもな。それ」
「いいの!? それで!?」
らなかった。そこまで仲間にしたいのか。それともトマは本当に催眠術が使えるのだろうか。
「いや冗談だ。三割くらいしか心動かされてねえ」
「三割は大きすぎるよ。普通は一パーセントだって動かなかったって言うんだよ。この場面」
「そんな話をしに来たんじゃねえ」
「そんな話にしたのはゲイルさんだからね」
そういう僕を無視して、彼は咳払いを一つ。
「今宿に居るんだ。これからの事を話し合いたいから出て来てくれ」
話題を無理やり戻したと思えば、案外真面目な話をしに来たらしい。
さて……
「なら本格的に給油しないとね」
どんどん吸い込むその口に漏斗を入れて、液体を流し込むとしよう。
何とかしてリンを叩き起こして、髪をある程度切って、外に出ると、集団で宿泊するための大きな部屋に出ていた。
大きな長方形の机にゲイルの他、ギルとクラリスが座っていて、その他椅子が乱雑に放置されている。
「他の人は?」
「ミミルとシラスは買い出し。他は出張だ」
三人以外が買い出しと出張ということは、人払いを兼ねているのかも知れない。
これから少し楽しくない話が続きそうだ。
「ゲイル。濡れタオルないか」
その前に砂糖水でベタベタになってしまったリンがタオルを欲しがる。
「いいけど、どうしたんだ?」
「何か知らねえ間に寝てたみたいで、起きたら顔中に甘い香りがしてるんだよ。それはそれで幸せなんだけど、触ったらベッタベタで気持ち悪いったらありゃしねえ」
「全部トマが悪いんだ。トマが寝ている間に砂糖水ぶちまけたんだよ」
あの出来事を全て説明するのは面倒なので、そういうことにしてしまおう。
何だか先ほどの彼女と同じ台詞になってしまったけど、トマのせいだと言うのは事実だから仕方ない。
一緒になって遊んでいたという事実もあるけど、それには目をつむるとして。
「何があったの? 話し合いなんて」
「ああ、これを見てくれ。俺の仲間のエイブラが持ってきた情報何だが、アシュルグリスが進軍を開始したらしい」
「はあ!? まじなのか!?」
リンが思わずタオルを捨てて身を乗り出す。
「おう。マジだ。俺も信じられねえが、あの中に自殺志願者が居るらしいな」
そう言いながら机にある地図を指差して解説を始めた。
左側にある大きな国がアシュルグリスらしい。大きい大きいとは聞いたけど、確かに大きい。
僕の居た王国の三倍くらいはありそうだ。
東に山を、西に海を有していて、東から南西にかけて大きな川が流れているみたいだ。
そして、東の山を越えた辺りに竜の里と書かれた文字がある。
「……山越えしてるの? アシュルグリス軍」
「ああ。雪山何だが一直線に行ってるらしいぜ」
「うわあ、可哀そうだね」
「だな。何人生き残るのやら。いや全員生き残るような方法を編み出してるのかも知れねえが。とにかく山を越えるのは速くて一週間だ」
ということは、僕達は一週間以内に竜の国入りして、戦場になりそうな場所へ行かないといけないのか。
ふと、視線を走らせると、青いボタンが南東の方にある。
「もしかしてこれが現在地?」
「ああ。これがそうだ。全力で行けば大体五日で着くだろう」
「因みに裏技を使えば一日で着く。が、どちらも異様に目立つ。俺らしいっちゃ俺らしいが……問題はまだまだシュリの監視があって、動けないってことだな」
要約するとのんびりしていると開戦してしまう。
でも今すぐに全力で向かうと、シュリに気付かれてしまう。
……なんていうかチェスで詰んでいる状態に近いような気がする。絶望的な状況だ。
でも、リンはシュリが何なのかまだ知らなかったらしい。
ゲイルの話を聞いて、首を傾げてこう言い放った。
「ならそのシュリって奴を倒せばいいんじゃないか?」
「無理だな」
「うん。無理だよ」
あの化け物を倒すなんて想像すらできない。
その気になれば僕の首なんてすぐに両断できてしまうだろう。
生け捕りにしなければいけないから僕は生きているのだ。そんな存在にどうして抵抗出来るだろうか。
「そんなに強いのか?」
「うん。僕が出会った生命体の中で一番強い」
「生命体の括りでか!?」
とリンが驚くと、ゲイルが何か悪だくみを思いついた様に話し出す。
「ああ。ありゃもう飛んでもねえぜ。先ず肉体が違う。関節とか筋肉がもう五個くらいあるんじゃないかってくらいだ」
「関節と筋肉が五個もあるのか!?」
なるほど。楽しそうだ。
「うんうん。その上、眠りを必要としないみたいに活動的だし。そう言えばシュリって瞼閉じないよね。あるのかな」
「瞼がない!?」
「それどころか顔中の筋肉があるかも疑わしい。いや、もしかしたら全て敵をかみ砕く顎に繋がってるのかも知れねえか」
「顎が、顔中の筋肉と繋がってる?」
「「つまり、あれは化け物と言って良い」」
そう言った所で、僕はゲイルを見る。ゲイルもニヤリと笑って頷き、ゲイルはおもむろに地図をひっくり返した。
そしてリンにペンを渡す。
「じゃあ、書いてみてくれ。リンが思うシュリの姿を」
「え? 何でだよ?」
「まあまあ、いいから」
僕達がワクワクして見守っていると、筆が走って、とある化け物が描かれた。
人の形をしていて、筋骨隆々で、その上脛とか腕に関節が増えている。
その上目は魚みたいにぎょろりとしていて、口が異様に発達している。
なんというか魚人をより怪物方向に進化させたようだった。
これがシュリか。……これが……シュリ……。
「くくっ」
「ぷぷぷっ」
「「あははははは!」」
僕もゲイルも酷いことになる様に言ったけど、まさかこんな化け物が生まれるとは。
「で、で、でも雰囲気は似てるかもね」
この人間離れした空気とか。
「表情読めねえところもそっくりだ」
確かにそうだ。シュリは何時だって表情が読めなかった。
「え? これがシュリ? まじかよ。こんなのに追われてるのか?」
リンが慄いて僕達を見るから、表情を作って、駄目押しをする。
「ああ、気を付けろよ。武器の扱いも上手いからな」
「お料理も得意らしいからね」
「……どうするんだよ。そんなの相手取るのか?」
と話が元に戻った所で、ゲイルが話題を修正した。
「まあそんなわけで真っ向から戦うのは止めだ」
ゲイルが身を乗り出し、指を一本立てる。
「ここで一つ、提案がある」
僕とリンも身を乗り出すとゲイルは青いボタンに指を置いた。
そしてそのボタンを真っ直ぐ竜の里に進ませ、止まる。
「ここからあそこまで、五時間くらいで行く気はねえか?」
「おい、てめえら。ちょっと外に……って何だこりゃ?」
「……燃料を入れているんだ」
「死んじゃったから死に水」
トマが縁起でもないことを言っているけど、それは勿論違う。
エネルギー切れを起こして動かなくなったリンに、『収容空間』中を駆け回ってかき集めた栄養がありそうなものを、淡々と運んでいただけだ。
動かなくなっても口に持っていけば液体でも固形でもどんどん飲んでくれるから、楽と言っては楽なんだけど、少し怖い。
でも、頭だけ空間に入れたゲイルが聞きたいのはそういうことではないらしい。
「何で、リンの髪の毛がこうも伸びてるのか聞きてえんだよ」
とのことだった。
でも、その表情はどうしてリンの髪が伸びているのか、しっかりと想像できているみたいだった。
いわゆる、落雷警報発令状態だった。
そしてそれを察したトマがこっそりと、灰色の髪の中に身を隠す。
でもこの空間はゲイルのスキルで出来ている。何処に隠れても、逃げることは無意味だとおもうのだけど。
裂け目が消えて、トマの真上に新しく表れて、ゲイルがトマを捕まえる。
「バレバレなんだよ! また俺の薬で遊んでたろ!」
「レイがやれって言った」
今度は避雷針を用意する手に出たか。子供らしいけど無駄なあがきだ。
「言ってないから」
「レイは嘘ついてる」
「ついてないから」
「ここで嘘ついてるってことにしたら、薬代を返済できるまで仲間に出来る」
「急に大人なやり方になった!」
しかも利益の為に事実を捻じ曲げる、悪い方の大人なやり方だ。
まるで催眠をかけるように手をうねうねとさせて、ゲイルへの説得を続ける。
「ゲイルはレイを仲間にしたい。私はゲイルに叱られたくない。一石二鳥。誰も悲しまない」
「ここに悲しむ人が居るからね。僕だけ一方的に不利益だからね」
何が悲しくて、トマの罪を被って薬代返済するまで仲間という名の強制労働を強いられなければならないのだろう。
流石のゲイルもトマを叱
「いいかもな。それ」
「いいの!? それで!?」
らなかった。そこまで仲間にしたいのか。それともトマは本当に催眠術が使えるのだろうか。
「いや冗談だ。三割くらいしか心動かされてねえ」
「三割は大きすぎるよ。普通は一パーセントだって動かなかったって言うんだよ。この場面」
「そんな話をしに来たんじゃねえ」
「そんな話にしたのはゲイルさんだからね」
そういう僕を無視して、彼は咳払いを一つ。
「今宿に居るんだ。これからの事を話し合いたいから出て来てくれ」
話題を無理やり戻したと思えば、案外真面目な話をしに来たらしい。
さて……
「なら本格的に給油しないとね」
どんどん吸い込むその口に漏斗を入れて、液体を流し込むとしよう。
何とかしてリンを叩き起こして、髪をある程度切って、外に出ると、集団で宿泊するための大きな部屋に出ていた。
大きな長方形の机にゲイルの他、ギルとクラリスが座っていて、その他椅子が乱雑に放置されている。
「他の人は?」
「ミミルとシラスは買い出し。他は出張だ」
三人以外が買い出しと出張ということは、人払いを兼ねているのかも知れない。
これから少し楽しくない話が続きそうだ。
「ゲイル。濡れタオルないか」
その前に砂糖水でベタベタになってしまったリンがタオルを欲しがる。
「いいけど、どうしたんだ?」
「何か知らねえ間に寝てたみたいで、起きたら顔中に甘い香りがしてるんだよ。それはそれで幸せなんだけど、触ったらベッタベタで気持ち悪いったらありゃしねえ」
「全部トマが悪いんだ。トマが寝ている間に砂糖水ぶちまけたんだよ」
あの出来事を全て説明するのは面倒なので、そういうことにしてしまおう。
何だか先ほどの彼女と同じ台詞になってしまったけど、トマのせいだと言うのは事実だから仕方ない。
一緒になって遊んでいたという事実もあるけど、それには目をつむるとして。
「何があったの? 話し合いなんて」
「ああ、これを見てくれ。俺の仲間のエイブラが持ってきた情報何だが、アシュルグリスが進軍を開始したらしい」
「はあ!? まじなのか!?」
リンが思わずタオルを捨てて身を乗り出す。
「おう。マジだ。俺も信じられねえが、あの中に自殺志願者が居るらしいな」
そう言いながら机にある地図を指差して解説を始めた。
左側にある大きな国がアシュルグリスらしい。大きい大きいとは聞いたけど、確かに大きい。
僕の居た王国の三倍くらいはありそうだ。
東に山を、西に海を有していて、東から南西にかけて大きな川が流れているみたいだ。
そして、東の山を越えた辺りに竜の里と書かれた文字がある。
「……山越えしてるの? アシュルグリス軍」
「ああ。雪山何だが一直線に行ってるらしいぜ」
「うわあ、可哀そうだね」
「だな。何人生き残るのやら。いや全員生き残るような方法を編み出してるのかも知れねえが。とにかく山を越えるのは速くて一週間だ」
ということは、僕達は一週間以内に竜の国入りして、戦場になりそうな場所へ行かないといけないのか。
ふと、視線を走らせると、青いボタンが南東の方にある。
「もしかしてこれが現在地?」
「ああ。これがそうだ。全力で行けば大体五日で着くだろう」
「因みに裏技を使えば一日で着く。が、どちらも異様に目立つ。俺らしいっちゃ俺らしいが……問題はまだまだシュリの監視があって、動けないってことだな」
要約するとのんびりしていると開戦してしまう。
でも今すぐに全力で向かうと、シュリに気付かれてしまう。
……なんていうかチェスで詰んでいる状態に近いような気がする。絶望的な状況だ。
でも、リンはシュリが何なのかまだ知らなかったらしい。
ゲイルの話を聞いて、首を傾げてこう言い放った。
「ならそのシュリって奴を倒せばいいんじゃないか?」
「無理だな」
「うん。無理だよ」
あの化け物を倒すなんて想像すらできない。
その気になれば僕の首なんてすぐに両断できてしまうだろう。
生け捕りにしなければいけないから僕は生きているのだ。そんな存在にどうして抵抗出来るだろうか。
「そんなに強いのか?」
「うん。僕が出会った生命体の中で一番強い」
「生命体の括りでか!?」
とリンが驚くと、ゲイルが何か悪だくみを思いついた様に話し出す。
「ああ。ありゃもう飛んでもねえぜ。先ず肉体が違う。関節とか筋肉がもう五個くらいあるんじゃないかってくらいだ」
「関節と筋肉が五個もあるのか!?」
なるほど。楽しそうだ。
「うんうん。その上、眠りを必要としないみたいに活動的だし。そう言えばシュリって瞼閉じないよね。あるのかな」
「瞼がない!?」
「それどころか顔中の筋肉があるかも疑わしい。いや、もしかしたら全て敵をかみ砕く顎に繋がってるのかも知れねえか」
「顎が、顔中の筋肉と繋がってる?」
「「つまり、あれは化け物と言って良い」」
そう言った所で、僕はゲイルを見る。ゲイルもニヤリと笑って頷き、ゲイルはおもむろに地図をひっくり返した。
そしてリンにペンを渡す。
「じゃあ、書いてみてくれ。リンが思うシュリの姿を」
「え? 何でだよ?」
「まあまあ、いいから」
僕達がワクワクして見守っていると、筆が走って、とある化け物が描かれた。
人の形をしていて、筋骨隆々で、その上脛とか腕に関節が増えている。
その上目は魚みたいにぎょろりとしていて、口が異様に発達している。
なんというか魚人をより怪物方向に進化させたようだった。
これがシュリか。……これが……シュリ……。
「くくっ」
「ぷぷぷっ」
「「あははははは!」」
僕もゲイルも酷いことになる様に言ったけど、まさかこんな化け物が生まれるとは。
「で、で、でも雰囲気は似てるかもね」
この人間離れした空気とか。
「表情読めねえところもそっくりだ」
確かにそうだ。シュリは何時だって表情が読めなかった。
「え? これがシュリ? まじかよ。こんなのに追われてるのか?」
リンが慄いて僕達を見るから、表情を作って、駄目押しをする。
「ああ、気を付けろよ。武器の扱いも上手いからな」
「お料理も得意らしいからね」
「……どうするんだよ。そんなの相手取るのか?」
と話が元に戻った所で、ゲイルが話題を修正した。
「まあそんなわけで真っ向から戦うのは止めだ」
ゲイルが身を乗り出し、指を一本立てる。
「ここで一つ、提案がある」
僕とリンも身を乗り出すとゲイルは青いボタンに指を置いた。
そしてそのボタンを真っ直ぐ竜の里に進ませ、止まる。
「ここからあそこまで、五時間くらいで行く気はねえか?」
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