薬草師ドゥーラ・スノーの冒険日記

津崎鈴子

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医師の謎

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 なぜ私はあの医師を思い出さなかったんだろう……思えば、共通点だらけだったのに。

 手がかりが何かないか、三人とともに医師の自宅兼診療室に向かった。

王都の商業街の外れに、医師の自宅はあった。

医師も行方不明になったことは多くの人が知ったのだろうがそれでも、患者を抱えた家族たちが心配げに入口を取り巻いていた。

ファザーンは、その中のひとりに話を聞いていた。

 昨日から何度か様子を見に来ていたという近所の人らしく、やはり医師は昨日から今までこの自宅に姿を現してはいないのだそうだ。


 さすがに昨日はクアンダー家の警備員や自警団の人間が周囲を見回ったらしいが
人の気配を見つけることはできなかったのだそうだ。

そんな中、ひとりの女性がぐったりとした小さな子供を抱えて現れた。

「先生は、まだ戻っておられないの?!」

 女性は、必死の形相で周囲に尋ねるが、気配からまだ医師が戻っていない事を察すると
子供を抱きしめて膝をつく。

「ああ、神様!!どうしたらいいの……子供が……」

見ると子供は真っ赤な顔をして息が荒い。

 私は、そのお母さんに声をかけた。
「お子さん、いつから体調が悪いんですか?」
すると、その母親は私を見上げて、不審そうではあるが答えてくれた。

「今朝、なかなか起きてこないから起に行ったら既にこの状態で」

 その子供を見てみる。息が熱い。口が乾いていて体はだるそうだ。
もしかしたら、この症状は近所の子供が、よくなっていた。
症状がそっくりだ。前日に走り回っていて突然翌日に熱を出す。

その時おばさんがやっていた治療を試してみよう。

駄目でもともとだ。やらないよりはいい。

「おかあさん、水は飲ませましたか?」

すると母親は、首を横に振り、否定の合図をする。

 私とその母親のやり取りを、周囲の人々はじっと見守っていた。

ファザーンと話をしていた近所の人に、水と塩を少し持ってきてくれるように頼む。

「もしかしたら、体の中の水気が足りなくなってるのかもしれません」

 少しすると、本当に近所に住んでいてたようだ、トレイに乗せてコップに水と塩の入った器、
それに柔らかい布と桶いっぱいの冷たい水を持ってきてくれた。

「これでいいかい?」

私は、お礼を言うと、コップに入った水に少しだけ塩を混ぜて少しづつ
子供の口に含ませるぐったりしていて自分では飲み込めないだろうから、
口を湿らせるつもりで、時間をかけてゆっくりと。

 そうしていくうちに汗が額に滲んできた。そこを冷たい水で湿らせた布を絞り
汗を拭いていく。時間が経つにつれて、子供の呼吸も楽になってきたようで
少しずつ顔の色も戻っていった。

「あとは、おうちでゆっくり寝かせてあげてください」

母親は、涙ながらにお礼を言うと子供を大事そうに抱えて元来た道を戻っていった。

「あんた、医者の見習いなのかい?」

協力してくれた近所のおばさんは、感心したように私に話しかけてきた。

「いいえ。ただの薬草師です」

 するとおばさんは、最近医師の家に最近頻繁にユーラーティ神官が訪れていたことを教えてくれた。
 やはり有名な先生だけに、いろんな患者を抱えてるんだなぁと
特に気にも留めていなかったようだったが、その話は、ファザーンの中では何かが
明確に結びついたらしく、おばさんにお礼を言った。

 周りにいた人たちも、ぱらぱらと散っていく。

「まだお戻りではないようなので、中で待たせていただきましょうか」

 ファザーンは、にやりと微笑むと、ケルドを見た。
そのその視線の意味を察して、ケルドは入口をどこから出したのか、針金一本で
簡単に開けてしまった。

「では、失礼します」

躊躇することなくファザーンが室内に入っていく。
それに続くケルド。私は、いいのかなぁと不安に思いつつも、ガルディアに
急かされて思い切って家の中に入っていった。

 中に入ると、昼だから窓から差し込む明かりでなんとか様子がわかるが、なんんだか
奥の薄暗さが不気味な印象を与える。入口の絵は、胸に手を当てた聖女の肖像なんだけど
背景が何とも言えない鬱蒼とした森の中のような、不安を煽る色合いだった。

奥に進むと診察室があって、診察室には道具が揃っている。
しかし、その脇を飾る額縁の中身にあげそうになった悲鳴を飲み込んだ。

私の視線の先を見て、後ろを歩いていたガルディアガ額縁を覗き込む。

「ああ、これ蝶の標本じゃねえか。ドゥーラは虫、苦手なのか?」

「虫は特に苦手ではないけど、これ死骸を張り付けて飾ってるってのが気持ち悪い」

 冷やかすように笑うガルディアだったけど気味悪いことに変わりはない。
それを察して、標本を裏向けにして中が見えないように気を使ってくれた。

 すると、そこに書かれていたものを見たケルドが、近寄ってくる。

「あああ!!!この文字の羅列は!!!」

確かに、見覚えのある文字の表だった。
ファザーンは、近くにあった紙を拝借して、表を写した。

 色々と探ったがそのほかに怪しいものは見つからず、陽が傾きかけたところで
一旦、ヘルシャフト邸に集まることになった。
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