ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子

文字の大きさ
26 / 71

クモの糸4

しおりを挟む
タカシさんの推論を聞いていくうちに見え始めて来た。

何故あいちゃんのお母さんが私に抗議の電話をしてきたのか。

タカシさんの推理は続く。

「招待状って新郎新婦の職場の人間、友達、親戚に出すよね一般的には」

まぁ、そうだよね。最近は招待客のサクラを雇うって話もあるけど、タカシさんの推論で行くとそれは意味がないってことになる。

「略奪女サイドの職場の人間は、ユキちゃんと元カレの付き合いを周知していた。確認の電話がかかってきていたという事がそれを証明しているよね」

まぁ確かにそうなるよね。

「ではなぜ略奪女の母親がユキちゃんに抗議の電話を

「職場の人たちの欠席が多くなった?」

「そう考えるのが自然だね。いわば略奪したってことを堂々と宣言しているのに等しい行いだ。お世話になっている先輩の男を略奪、しかも既成事実妊娠をダシにして迫った結婚。まさに下衆の極み。そういう女を、奪われた女もよく知っている職場の女性たちは、はたして許すのか?女性というのはそういう面で潔癖な人が多いからね、出席すると同じ人種と烙印を押されかねない。独身なら自分の今後の婚活に響く可能性が濃厚だ。リスクは犯したくないよね、しかも招待客はお祝儀という名の見物料を取られる。安くない金額をね。特に女性はヘアセット代にドレス代とそれに伴う費用と時間が加算される」

 鼻で笑うようにタカシさんは言い放つ。

「略奪女側は出席者がゼロって勢いで欠席多発じゃないか、そのパターン」

マサキさんが感心したように言う。

「ねえユキちゃん、こないだ来てた幼馴染の子、実は元カレの妹なんじゃないの?マサキが睨まれてた」
その時のことを思い出したのかマサキさん少し顔色が悪くなる。

「うん。確かにハルカちゃんは元カレの妹だよ」

「ユキちゃんのこと、大好きなのがすごく伝わってきた。だから、略奪女のことは蛇蝎だかつのごとく嫌ってるんじゃない? 結婚式になんか出たくないよぉ~って」

あ、当たってる……。

「妹ちゃんがユキちゃんのこと大好きで、略奪女に歩み寄りもしない。義実家の空気いいはずないよね? すでに嫁認定されていたであろうユキちゃんと常に比べられているんだよ、辛いよねーもちろん口には出されないだろうけど、空気って伝わるからねえ」

それは思った。小さな信頼を長年かけて積み上げてきたし、ハルカちゃんとも最初から仲良かったわけじゃない。時間が絆を育てたんだと思う。

「あの妹ちゃん、本当にユキちゃんのこと好きって伝わってきていたもんなぁ」

マサキさんがしみじみつぶやいた。

「元カレの妹が幼馴染なら元カレ自身も幼馴染だ。そして、幼馴染たちや学生時代の同級生たちはまるかぶりしている。ユキちゃんと付き合ってそろそろ結婚ってこともみんなが熟知していた。違う?」

私はただうなづいた。ほんとに鋭いなぁ。タカシさん、探偵やってない?

「そうなれば、元カレ周辺の人間も、女性陣は欠席で固まりそうなもんだよね。男連中は浮世の義理とか怖いもの見たさでユキちゃん蹴落とした女がどんなやつか顔を見たいだろうし参加費は惜しまないだろうけど、女性は潔癖な上に団体行動したがる人種だ。そうなると、幼馴染関連も壊滅状態に近いんじゃない?」

ってことは、ほぼ欠席で出欠ハガキが戻ったんだろうか。

「だからって、ユキちゃんのせいにはならないだろう?すべて略奪女がまいた種なんだから」

「さて、マサキにユキちゃん、ここまで踏まえたうえで質問。嘘つきで腹黒い略奪女は自分が略奪して結婚するってことを親に正直に言ってると思う?」

マサキさんと私は思わず顔を見合わせた。ありえないよね。そう思う。

「それどころか、結婚が決まった彼の元カノが粘着して彼の家族や私の職場の人に有ること無いこと言って妨害してるみたいなの~ヨヨヨ 私からの電話は着信拒否されてるしどうしよう~~(泣)」

あいちゃんがそれを言った時の姿が思い描かれる。今にして思えば結構キャラ作っていた気がする。

「腹黒女の親なんだからレベルは推して知るべしだよ。人の話聞かないで一方的に怒鳴ってたってことだから、聞く耳も持たないだろう。これはいったん放置。マサキがドスの効いた声で一喝したんだからしばらくは大丈夫と思う。心配なのは、追い込まれたその略奪女がどう出るか、なんだよなぁ」

そこでタカシさんの言葉が止まり、考え込んでいる。

「まぁ、今言った話も憶測にしかすぎないし、抗議の電話もとっさのことで録音してないしで証拠になりえないのが残念だけど、一番大事なのはユキちゃんの身の安全だよね」

み、身の危険があるの?そこまでするかなぁ

「目論見が外れて自分を見失っている状態での逆恨み。ユキちゃんの命の危険が最悪ある」

「ふざけんな!!来たらボコボコにしてやる!!」

マサキさんがベンチを拳で殴る。すごくキレているのがわかる。普段温厚な姿しか見たことなかったからすごく意外だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

空蝉

杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。 高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。 突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。 12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。 父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。 美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。 行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。 そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。 空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

処理中です...