ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子

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波の行く先5

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 談話室から戻ると、手術室から出てきた看護師がお母さんに何か言ってる。

どうも、エミさんの失血が多すぎて、輸血が間に合わないらしい。

誰かエミさんに輸血できる健康で若い人が居ないかってことらしい。

エミさんの血液型はO型。おばあちゃんもO型だけど年齢が高すぎてダメなんだそうだ。

私は、A型で輸血が出来ない。全身血を抜いてもいいくらいの気持ちなのに提供できないなんて!

O型はどの血液型にも輸血あげるできる代わりに、O型からしか輸血もらえないできないんだそうだ。

ハルカちゃんもAB型で無理だし。

その時、息を切らせてマサキさんが表れた。手には何か透明の筒のようなものを持っている。

「こ、これを」

マサキさんが看護師さんに手渡したのは、医療情報キットというものらしい。

看護師さんがマサキさんに感心して受け取った。

「有難う、助かるわ!」

マサキさんに、あれは何?と聞くと息を整えてから教えてくれた。

「親父が前にエミさんから預かっていたらしい。持ってけって。エミさんの医療情報や既往歴(病気の履歴)通っている病院の診察券、今飲んでいる薬の情報や保険証のコピーなんかが入っているって。これでエミさんがいつも飲んでいる薬がわかるので飲み合わせの相性の悪い薬は処方しないで済むから」

 実は魚六のロクさん、地域の民生委員をやっていて独り暮らしの高齢者の様子を見ていたらしい。
なんだただ単においしいもの食べに遊びに来ていたわけじゃなかったんだね。

いざ入院したときなんかにすぐに入院先に手続きができるように医療情報のコピーを保管していたらしい。本来筒は冷蔵庫に入れておいて玄関に医療情報ありのステッカーを張るようになっているんだそうだ。

「ユキちゃん、大丈夫?」
マサキさんが、汗を拭きながら私を心配してくれる。思わず涙が出そう。

「有難う。でも、エミさん、私の代わりに刺されちゃったの……あいちゃんに」

うつむくと、マサキさん頭をポンポン叩いて元気出せって微笑んでくれる。

その様子に、お父さん目を真ん丸にして硬直、お母さん、思わず声をかけてくる。

「ユキ、この人は?」

声が固いよお母さん。あ。すっかり忘れてたけど、お父さんもいたんだった。

「この人はマサキさん。近所の人でエミさん共々すごくお世話になってる人よ」

すると、マサキさんもお父さんが居るとは思っていなくて思わず固まる。

「はい、あのマサキです。ユキさんには助けてもらっています。よろしくお願いします」

「ナオトさん、マサキ君のことはエミから聞いているわ。好青年でユキを陰日向なく護ってくれているそうよ。すごく力になってくださってるんだって」

思いがけずにおばあちゃんが優しい笑みでお父さんに説明している。

「お義母さん、ご存知の方なんですか?」

お父さんすごく意外そうだ。

「ええ。エミとしょっちゅうユキのこと電話してるからね。彼、エミが太鼓判押してるのよ」

色々と話を聞いていて、と嬉しそうに話をしている。おばあちゃん、すげえ。

「ところで、あなた、活きがよさそうね、血液型は?」

「O型ですが?」

それを聞いて、看護師さんがエミさんに輸血が必要だと説明するとすぐに腕まくりをする。

「俺のでよければいくらでも。その前に、電話を一本させてください。ほかにO型の人間が集められないか、ツレに声かけますんで」

程なく、タカシさんに連絡が付き、あとは任せた、と看護師さんについて輸血の準備に入った。

その背中を見て、お父さん頭を下げていた。

しばらくしてアヤが駆け付けてくれて、その後のタカシさんとの連絡役、タカシさんが声をかけてくれたO型の人たちを誘導する役目を手伝ってくれた。

そして、意外な人までもが輸血に参加してくれた。

「え?輸血が必要なのって、ユキちゃんの親戚だったの?」

久しぶりに声を聴いた気がする、アヤメさんだった。

どうも、タカシさんの先輩にあたるらしい。

でも、アヤメさんとタカシさんって学校違ってなかった?

「色々あるのよ」とアヤメさんは照れ笑いしていた。

そういえばいつかタカシさんが商店街で見たことある人と話してるのを思い出した。

ああ、あれはアヤメさんの後姿だったのか、納得。

エミさんの輸血に必要な血液は、若くて活きのいい若者が大挙して集まってくれて十分にそろい
無事に手術は成功した。

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