ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子

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星に願いを8

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 結婚式当日は、雲一つない晴天だった。素晴らしい。

舞台の設営作業は、服飾専門学校のスタッフがやってくれたのでプロ並み。
会場の飾りつけもブライダル学科の有志と商店街の有志でやっている。

私も忙しく新婦さんの準備を手伝っていたら、見覚えのあるスタッフの人がいた。
ゴールデンウィークのときにお世話になったローカルニュースのスタッフの人たちだった。

挨拶すると気さくに返事を返してくれて、今回は七夕イベントの結婚式の様子を取材させてもらうことになったと教えてくれた。前にタカシさんに名刺を渡してなにか面白いイベントがあったら連絡してもらえるように頼んでいたんだよ、と笑っていた。近くの服飾専門学校の協力もあるから豪勢で本格的な式になったんですよ、と話した。

 今回は、人前結婚式というスタイルをとることになって、ステージの上で新郎新婦には観客の前で誓いの言葉を宣言してもらう事になっている。みんなで作り上げる結婚式だからそれでいいんじゃないの?と実行委員のみんなは賛成してくれている。

 デザイナー志望のユカリさんは、自分のデザインしたウエディングドレスが、新婦さんを包んでいるのをみて胸いっぱいなようだ。今までは知り合いにモデルを頼んでいたけど、依頼を受けて作り上げるウエディングドレスを着たお客さんが幸せそうに微笑んでいるのを見て感無量な様子だった。

 ユカリさんの傍に、頭に包帯を巻き、三角巾で腕を釣った青年が立っていて、申し訳ないようなしおれた表情で結婚式の準備風景を眺めている。

「今回はすみませんでした。彼が、ウエディングシューズを作るはずだったデザイナーの子なんです」

ユカリさん、痛ましそうに見ながら紹介した。

今回仕事に穴をあけてしまったことを悔やんでいるようだ。
靴も8割で止まってしまっているのだそうだ。デザイン画のものがそのまま出来上がっていたらすごく素敵な一足になっていただろうに、残念でならなかった。

 代わりのシューズが手に入っていたのは知っているみたいで、ぜひ見てみたいと頼まれた。

花嫁控室をノックして、準備が終わっているかを確認してから新婦さんに彼を紹介した。

椅子に座っている新婦さんは、まるで妖精のようにふんわりとしたドレスを身にまとっていた。
くるぶしまでのドレスは、彼女の気にしていた二の腕もカバーしているうえに一番美しいシルエットであらわされている。ぜいたくに使ったオーガンジーの華奢な生地が花嫁の魅力を惜しみなく引き出している。

そして、何より目を奪われたのは靴。
光に透かしていろいろな輝きを飲み込み光り輝くスワロフスキーのビーズが惜しみなくつぎ込まれているその靴は遠目で見たらガラスの靴に見える。シンプルでそれ以外の飾りは無いのに白い花嫁の足を誇らしく包み込み輝かせている。初めて見た人はその美しさに引き込まれるだろう。

 靴職人の人生をかけた世界で一足の、愛情を注ぎ込んだ靴だ。そこらの既成の靴なんて恥ずかしくて前に出られないだろう。

 ゲンさんの靴は文句なく世界最高の靴だった。

怪我をしているにもかかわらず、その靴を見た彼は呆然としていた。
靴は、学科で習っている科目のひとつにしか過ぎないくらいの認識しかなかったけれど、この靴はその次元を超えている、靴ひとつにそれを表現できるこの職人さんは素晴らしい、とゲンさんの靴に感動していた。

 そして、新婦さんは最高に美しかった。おそろいのドレスを着たミキちゃんを抱きしめてお礼を言っていた。ミキちゃんは照れくさそうにしている。

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・

結婚式は大勢の観客に見守られながら、式は滞りなく行われた。

最大の見せ場は、新郎さんのお手製の指輪での指輪交換。

なんとユカリさんにしていた秘密のお願いの正体は、リングピローという結婚指輪を載せる台だった。

上には、銀色に輝く二つの指輪が載っている。

あまりのことに新婦さん、驚いている。指輪は新婦さんには内緒にしていた。

新郎さんは、勤め先がステンレスの流し台を作る工場こうばで、材料のステンレスで自作の結婚指輪を準備していたそうだ。器用だね、新郎さん。

「今はこれしかできないけど、もう少しお金がたまったら、ちゃんとしたの買うからそれまでこれで我慢してくれや」

新婦の手を取り、そっと指輪を付ける。その瞬間割れんばかりの拍手が巻き起こる。

クライマックスは新婦さんのブーケトス。生花のブーケを空高く投げる。

幸せな花嫁の投げたブーケを受け取った女子が次の幸せな花嫁になれるって話がある。

 私もブーケの行方を見ていたら、新婦さん、私に向かって投げてくれていたみたいだけど、
ブーケめがけて沢山の手が伸びてくる。

せっかくだから取りたいなと思っていると、私の頭上でブーケを 取った人がいる。

日焼けした筋肉質の腕。え?!だれ、この空気読まない人は!と思っていたら、なんとブーケを取ったのはいつの間にか隣に立っていたマサキさんだった。

「ユキちゃん、これ」

ブーケをそのまま私に手渡した。

え?!

「俺のところに嫁に来てほしい、それ前提で付き合ってください」

真っ赤になりながら、真剣な表情でマサキさんがいう。

いや、それってプロポーズってやつですか?!

えええええええええええええええ

思わず私も真っ赤になって固まってしまった。


 その様子は、カメラにばっちり納められ、またもやローカルニュースで使われてしまい、いろんな人から冷やかされ、この映像がきっかけで後になって大変めんどくさい事態になってしまうのだったけど、今のテンパってる私には想像もできなかった。

 
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