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絶体絶命

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「聖女様、逃げてください。ここは私が食い止めます。」

そう言われても‥
利き手をやられてまともに剣も持てない護衛さんを見る。

部屋に戻る途中、護衛さんと二人で歩いていた私は剣を持った男に襲われたのだ。

護衛さんは剣を抜き私の前に立った。
剣を合わせた音が大きく鳴り響く。
襲ってきた男はかなり強い。
護衛さんが決して弱いわけではない。
それでも私から見てもわかるくらいに‥二人には実力差がある。

護衛さんは剣を持っていた利き腕と胸を斬られて血が噴き出した。
まずい‥
血が止まらない。
護衛さんは覚悟したのだろう。
剣を反対の手に持ち替え両手を広げた。
そう、文字通り体を張って私を守る気なんだとわかる。
私が逃げれば、この人は死ぬ。
ダラダラ流れている血がそう訴えている。
目の前で私のために人が死ぬ。

怖い
怖い
怖い

自分が死ぬのも怖いけど、私のためにこの目の前の人が死ぬのも嫌だ。
私が他の護衛を待たなかったばかりに彼は死ぬ。
でも逃げなければ‥
相反する気持ちがぶつかり合う。

目の前で両手を広げ先には行かせないと私の前に立ち続ける護衛さん。
出血が多い。
そもそも長くは持たない。

私がなぜ命を狙われるのかはわからない。
アイーダはずっとそうだったのだろうか?

「仕事なのに。私なんかのために死を選ぶなんて。」
ポソリと声が出る。

「聖女様、早くお逃げください!」
まだ私を逃がそうとしている。

自分の死など恐れない。
こんなに命が軽いものなんだ、この世界は。
他人の命も自分の命も。
簡単に失くせる世界なんだ。
守られている。
それはわかっているけど、どうしても納得できない。
そんなに簡単に人が死ぬなんて許せない。

覚悟を決めた。
私は護衛から剣を奪う。
こんなか弱い私にはやすやす剣を奪われるなんて‥
もう立っているのも限界なんだろう。

「聖女様?」
その剣はずっしりと重かった。
アイーダの腕力じゃ長いこと持つのも難しい。
隠れてだいぶ筋トレしたんだけどな、まだまだだ。
竹刀じゃない真剣を持つのも初めてでましてや怠けに怠けたアイーダの身体だ。
手が震える。
使いこなせるだろうか?

フーと大きく息を吐く。
「どいて。」
「えっ、何をするのです?」
明らかに護衛さん焦っている。
クスッと笑いが出る。
いつも冷静沈着でクールな護衛さんがこんなに焦るのだ。
少し気持ちが落ち着いた。

相手がニヤッと笑うのが見えた。
姫なんかに何ができるのかというように。
確かにアイーダは箸より重いものは持った事はありませんって言えるくらいのお姫様だ。

だけど、私は違う。
身体はアイーダだから精神面だけだけど。
 
剣を構える。
数回打ち込んだらもう私の腕は使えない。
一気に決めるしかない。

相手の殺気が余裕に変わるのがわかった。
油断大敵だよ!

私に向かってきているのがわかった。
護衛さんも慌てて私の前に出ようとするのを蹴り飛ばした。
まさか味方のお姫様に蹴り飛ばされるとは思っていない護衛さん。
防御もできずに転倒した。

相手は振り上げた剣を私に振り下ろした。
その瞬間を待っていた。
相手の剣を弾き、そのまま突く。

相手は驚いた顔をした。
その場面で突かれるなんて思いもしてなかったのだろう。

ルイードに連れられて軍の訓練を見学に行ったことがある。
この国は基本的に剣を交え、切りつけるが、基本的に突く事はない。
まともに戦えば、相手になんかならないくらい皆強いけど‥
一瞬の隙をついて予想もしない動きをしたらどうなるのだろうか。
まぁ、バレてしまえば使えない技だから一度限りの技になるけど。
一度試してみたいとはずっと思っていた。

それがこんな場面で役立つなんて。
全く嬉しくない。

目の前に倒れる暗殺者。
殺してはいない。
急所は外れているはず。
だけど、生まれて初めて人の皮膚の感触を感じた。
怖い。
こんな本物の剣なんか持ちたくなかった。
スポーツとしてではない。
人を殺すためのものだ。

護衛さんはホッとしたのかヘタヘタと膝をついた。
顔が真っ青だ。
出血が多いんだ‥

「しっかりして!今人呼ぶからね。」
呼びかけに反応がなくなった。
息してない。

「死なないで!お願い、死なないで!」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
護衛さんとはそんなに長い付き合いではないけど、それでもいつも側にいた人だ。
私を守ろうとしてくれた人だ。
こんなところで死ぬなんて。

私がいけなかった。
あんなにルイードに言われていたのに。
真剣に考えていなかった。
護衛だって本当は必要ないと思っていた。
この世界を甘くみていた。
そのツケが回ってきたのだ。

「お願い、目を覚まして!」
こんな時どうしたっけ?
意識がなかったら心臓マッサージ?
呼吸止まってるから人工呼吸?
あれ?今はしないって言ってたっけ?
胸押したらいいんだっけ?
救命救助の授業で救命士さん達が教えに来てくれてた時、もっとちゃんと聞いておけば良かった。
胸に手を当てて心臓マッサージをしようとすると、パァーッと眩しい光が手の先から出た。

「何これ?」
光は護衛さんを包む。
どの位の時間そうなってたのかわからない。
気がつくと光は消えて護衛さんが息をしていることがわかった。

意識はないが、呼吸はある。
胸に手を当てるとトクントクンと心臓が動いている。

「アイーダ!」
ルイードの声とバタバタかけてくる大勢の足音を聞いた。
ホッとした私はそこで意識を失った。

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