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聖女とは

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「もう本当に退屈‥」
人間をダメにするもの。
それは何もする事がないという事。

アイーダは聖女様だ。
いわばこの国の守り神の様な存在らしい。
聖女様ってみんなを癒したり、祈ったりしているイメージなのに‥
王城の宮で過ごすだけで良いらしい。
それだけでこの国の繁栄と幸福は約束されると言われている。
アイーダが生まれた時に神託があり、その印を持ったアイーダはすぐにこの王城に連れてこられ今にも至る。

アイーダは治癒の力、癒しの力、幸福の力など様々な魔法の様な力があったらしい。
じゃあ、なんで死んじゃったんだろう?
と疑問には思うが、アイーダが死んだ事を説明しなくちゃいけなくなるから人には聞けないでいた。
自分は治癒できないのかな?

力は聖女様が使いたければ使って良いが、強制ではないし、何もしなくてもいい。
私は、といえば‥
しなくて良いからしないのではなく、何もできない。
そんな奇跡の様な力はない。
胸元を見ると、私にも聖女の印がある。
うっすらだけど。
だからこそ、ここで聖女様なのだけど‥
いくら身体が聖女様であっても心はただの一般人だ。
そんな力を出せる訳がない。

ルイードは力を無理して使わなくてもいいと言ってくれる。
聖女そのものがこの国に必要だからと。
だけどそれはアイーダであって、私は皆をアイーダだと信じ込ませ、贅沢をさせてもらっているだけだ。
何かしたい。
何もさせてもらえないけど。

「ヒモ生活ってこんな感じなのかな?よくできるよね、人のお金で生きるなんて」
テレビで見た。
彼女に働かせて、自分は何もせず、言葉巧みに彼女を騙しそのお金で生活するダメ男。
お母さんは
「あんな男につかまったら許さないからね」
と怒っていた。
私もそうだと思っていた。
だけど、今の私はそのダメ男と同じことしていると思うと罪悪感がムクムクと湧いてくるのだ。

「ヒモ生活とはなんだ?」
ヒョイっと顔を出すルイード。
いきなりカッコいい顔が目の前にある。
あぁぁ、もうダメ。
アイドルがいきなり目の前に現れれば、倒れるよ。
自覚してほしい。

「びっくりした!声かけてよ。」
私は恥ずかしさ隠しにルイードを怒鳴る。
ドキドキが止まらない。
ときめいたのではなく、驚いたからと自分に言いきかせた。

「ノックもしたし、ちゃんと声もかけたぞ。気づいていなかったが。」

「あぁ、ごめんね。私の悪い癖。昔から考え事をすると周りの事が見えなくなっちゃって‥」

「昔から?」
怪訝そうにこちらを見るルイード。

あっ、記憶喪失なんだった。
あまりに素になりすぎていた。

「そういえば、ルイードどうしたの?今日は約束してなかったよね。」
誤魔化そうとしてごまかしきれていないだろう、たぶん。
 
「あぁ、しばらく忙しくなるから顔を見に来た。」
気がそっちに向いた。

「来れなくなるの?」
それは寂しいなと顔に出ていたのか嬉しそうにルイードが頭を撫でた。
子ども扱いされている気がする‥

「できるだけ顔は出すつもりだがな、多分アイーダが起きている時間は無理そうだ。」
少し落ち込んだ様にルイードが言う。

「後、しばらくはこの宮の中にいろ。少し厄介な事件が起こったからそちらに人数が割かれて護衛の数が減る。」
真剣な顔でルイードは言う。

本当に過保護だ。
何かある訳ないよ。
「誰も私なんて狙わないから大丈夫だって。」
手でヒラヒラ振って笑いながら言うと肩をガシッと捕まれた。

「約束してくれ。ここから出ないと。」
ルイードのあまりの圧に負けて頷く。

「うん、わかった。でも何があったの?」
恐る恐る聞く。

「‥重要機密で今は言えない。事が終われば全て話す。何があろうと俺を信じてくれ。」

「うん。」
何でこんなに真剣なんだろう。
怖いよ、ルイードの圧‥

何があろうとって‥
何があるの??
不安になってきた。



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